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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
4章:暗殺少女の目指すもの
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Step by Step

 その後、尋問した連中の手当を簡単にした後に、また荷馬車は動き出した。

 先程までと同じ配置で、先程までよりも少し警戒して。

 どうやらいつもの道とは違ってしまっているらしいとわかれば、それも無理はなく。

 速度だけはいつも通りに、しかしどこかピリピリとした雰囲気で商隊は進んだ。


 そこからしばらくは、何事もなく。

 二度目の休憩時間となり、街道脇に馬車を寄せた。

 しばし軽食や飲み物を各自で取り、休憩して。

 一息ついたところで、ドミニクがレティの元へやってきた。


「さ、一息入れたところで、軽めの稽古といこうか。

 さすがにこの状況で全力の稽古は無理だろうから、軽めに、ね」

「ん、わかった。正直、どうするのかと思ってはいた」


 ドミニクの声に頷くと、すっくと立ちあがる。

 その立ち上がり方に、ドミニクの眼が一瞬細まり、また戻った。


「レティさん、頑張ってくださいね。私、傍で見てますから」

「……わかった、頑張る」


 並んで座っていたエリーから声がかかると、少し微笑んで。

 ぽむ、とその頭を撫でた。

 一瞬エリーはびっくりしたような顔になり。

 次の瞬間に、にへら、と少し崩れた顔になってしまう。


「やれやれ、お熱いったらありゃしないねぇ」

「……?

 暑いの? 寒いくらいなのだけど」

「いや、そうじゃなくってね……いやいいや、うん」


 小首を傾げながら返された言葉に、冷やかしたドミニクは毒気を抜かれた顔で、誤魔化した。





「ま、気を取り直して、だ。

 ほんじゃこいつを持ってもらって、と」


 先の休憩時間での手合わせで使っていた木剣をレティに渡すと、少し距離を取った。

 自身も左手に提げたように木剣を持ち、右手の人差し指を、ぴっと立てる。


「で、やることだがね、一つ目は、やっぱり歩法からだね。

 ほんでもう一つ、こっちは組打ち稽古、みたいなもんなんだが……これは実際にやりながら教えるよ」


 もう一本、中指も立てて二本の指をひらひらとさせながら語るドミニクに、レティはこくりと頷いて見せた。


「歩法からやるんだ。随分本格的に教えてくれるんだね」

「……あんたの物分かりが良くて、助かるよ。

 普通は今更歩き方なんてって言う奴の方が多いんだがねぇ」


 素直な反応と、一言で意味を理解できたらしい様子に、嬉しそうな笑みを見せる。

 実際のところ、今までも教えを請われたことはあった。

 だが、いざ教えようとすれば「そんなことはもうわかっている」と反発を食らってばかり。

 わかっていない奴ほどわかっていると言うものだと、それこそわかってはいるのだが。


「正直なところ、あなたのつかみどころのない動き方には興味があるし」

「うん、物分かりが良すぎて怖いくらいなんだけどね?

 まあ逆に言えば、あんたの動きは掴みやすい。一言で言えば、直線的すぎるんだよ。

 っていっても、並みの奴じゃ捉えることもできない素早さだから、問題はなかったんだろうけど」


 ドミニクの言葉に頷いて、肯定と理解の意を伝える。

 先の打ち合いにおいて、自分の突きは捌かれた。それも、余裕を持って。

 そんな経験は今までなかったことだ。

 一人だけ、捌くどころかそれよりも早くカウンターの一撃をくれそうな奴はいたが。


「といっても、直線的に動くなってわけでもないのが難しいとこではあるんだがね。

 当然、その方がいい場面だってある。

 状況に応じて瞬時に動きを切り替えることができるようにならないといけないわけだ。

 ま、その練習はもうちょい先、今はまず、曲線的な歩き方の練習さね」

「わかった、お願いする」


 その返事を聞くと、ドミニクはレティと正対する位置に立った。


「まずは、きちんと立つ。背筋をまっすぐに伸ばして、頭のてっぺんから糸で吊り下げられるイメージで、重心をどちらの足にも置かないように。

 ってのがあんたの場合既にできてるからねぇ。

 ほんと、そこは手がかからなくて助かるよ」

「ああ、そこはかなり仕込まれたから」

「……あの、横からごめんなさい。

 もしかして、立ち方の練習とかも本当はあるんですか?」


 横で見ていたエリーが、おずおずと手を挙げた。

 言われてよく見れば、ドミニクとレティの立ち方、たたずまいは他の人間とは何かが違う。

 体重を感じさせないような軽快さが、立っているだけなのに、あった。


「ああ、だから本来は、立ち方を身に着けるための歩法をやってから、歩き方を身に着けるための歩法をやんなきゃいけないんだけどね。

 そんでまた、立ち方を身に着ける方が地味で面倒だから、やらせると大概の奴が逃げるんだよねぇ。

 その点、イグレットは既に身に着けてるから、まだましな方からやれるってわけさ」

「そうなんですか……奥が深いというか、なんというか」

「私はそんなに面倒だとは思わなかったけど……同じ方法かはわからないけど」


 ドミニクとエリーのやり取りに、レティは不思議そうに小首を傾げた。

 実際のところ、常軌を逸した反復練習をやらされていたのだが、本人にはまるで自覚がない。

 丸一日、立って歩く練習だけやらされたことが何度もあったのだが。


「なんならエリーも立ち方の練習やってみるかい? 魔術師だって習っておいて損はないよ。

 頼めばイグレットが手取り足取り腰取り教えてくれるんじゃないかね」

「レティさん教えてくれるんですか? じっくり、ねっとり、たっぷり」

「……教えるのは構わないのだけれど……なんだかその形容はおかしくないかな、エリー」


 ドミニクのからかうような言葉に、エリーが食い気味に反応した。

 その勢いにのけ反りそうになりながら、レティは若干困惑気味に返す。

 張本人のドミニクは、その様子を横でにやにや笑いながら見ていた。


歩く。曲がる。当たり前のように行われる、日常動作。

そこに無駄はないのか。それは本当に必要な動作なのか。

問い詰めて考えて得られた答えは。


次回:それは流れる水のように


あるいは哲学のようでもあり。



※派生作品始めました!

「元暗殺者ですが、公爵家令嬢付きのメイドになった結果妙に懐かれてしまって、これはこれでとセカンドライフを楽しんでいます」

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