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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
4章:暗殺少女の目指すもの
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足りないものの埋め方は

 カラカラと響く車輪の音。

 かぽりかぽりと響く蹄の音。


 あの後、死体は穴を掘って埋め、怪我をして動けなくなった野盗達は縛り上げて荷台に放り込んだ。

 生き残った野盗達はしかるべき場所に引き渡し、しかるべき裁きに委ねることになる。

 恐らくは縛り首、あるいは犯罪者奴隷としての重労働。

 いずれにせよ、まともな人生など歩めるわけもない。

 それは彼らの自業自得であり、同情する者など少なくともここには一人としていない。


 むしろ、余計なことをしなければ、と絶賛一人の恨みを向けられてさえいる状態だ。


「あんたの斬った連中を検分したけどね、あんた首筋ばっか狙いすぎだよ。

 大方、非力だから柔らかい急所だけを狙ってんだろ?

 だめだよそれじゃ、ちょいとできる連中だったらすぐに読んじまわぁね」


 響く車輪の音よりも響き流れる声。

 無遠慮な指摘に、その通りだからこそ何も言えない。


 荷馬車の御者席に座るドミニクと、それに並んで歩く馬上のレティ。

 エリーは、レティの少し後方で馬を歩かせている。

 のどかに見える旅の光景、だがレティ一人がなんともいたたまれない気持ちになっている。


「できる奴だったらむしろ首筋に誘って、そこから反撃を狙う奴だっているだろうね。

 てか、あたしがあんたと本気でやるならそうするねぇ。

 もちろん、あんたの最初の一太刀を防げること前提だけどさ。

 それができる奴は多分そんなにいないから、今まではやってこれた……どうだい、図星だろう?」

「残念ながら、反論の余地は全くない、ね……」


 斬った跡と自分の立ち居振る舞いだけで、ここまで言い当てられてしまうと反論する気力すら奪われてしまう。

 

 自分の一太刀を防げる存在に、この数か月で二人も出会った。

 それぞれに何とか打ち倒しはしたものの、特に二人目は運が良かったから、でしかない。

 あれを二人目と、人として数えていいかはともかく。

 そのことは、今も胸の中にしこりとして残っていた。


「あんたが『今のまま』でいいってんなら、それはそれで、だがね。

 ちょいと事情が違ってきてんだろ? ああ、根掘り葉掘り聞くつもりはないよ、安心しな」


 どうやら、レティの素性を察しているらしい。

 なのに目立つ人助けなどした、そこからすら何かを察したらしく。

 剣の腕もだが、それ以上に何か大事な部分で凌駕されていることをひしひしと感じてしまう。


「反論するつもりはないのだけれど……それを、あなたの剣の技術でどうにかできる、と?」


 技術の向上は望めるだろうが、この非力さはいかんともしがたいのではないか。

 そんなレティの問いに、にんまりとした得意げな笑みを見せる。


「よくぞ聞いてくれました!

 まあ、全部が全部とは言わないがね、ある程度はなんとかしてやれるさね。

 次の休憩の時に面白いもんを見せてやるから、楽しみにしてな」


 自信に満ちた声に、もしかして引っ掛かってしまったのだろうか、と思いつつ。

 どんなものを見せられるのか、興味を引かれている自分を否定もできなかった。




「さてっと、兄さん、準備はいいかい?」

「あ、ああ……しかし、何やろうってんだ、一体」


 それからしばらくして道端で休憩となった際に、なにやら護衛の戦士と打ち合わせていたかと思えば、どうにも奇妙な状況になっていた。

 プレートメイルに身を包んだ重装戦士が、金属製の籠手に包まれた両手で野盗から接収した剣を捧げるように持っている。

 その前に、ドミニクがにこやかな笑みで立っていて。

 何が始まるのかと、護衛の戦士も商人たちも周りを囲んでいた。

 当然、レティとエリーは言うまでもなく。


「まあまあ、そいつは見てのお楽しみってもんさね。

 観客も良い感じに集まってるし、そろそろ始めようか」


 そういうと、鞘走りの音すらなく滑らかに剣を抜いた。

 レティを含む気づいた数人が、それだけで背筋を震わせる。


「そんじゃ兄さん、しっかり持ってておくれよ?」

「お、おう、よくわからんが、わかった!」


 剣を抜いたドミニクを前に、それだけで底知れぬ重圧を感じた戦士が緊張した声を返す。


 うん、と一つ頷いたドミニクが、一歩前へ踏み出した。

 剣を羽でも持ち上げるようにすい、と軽く振り上げた。

 ふい、と無造作に、精緻に、滑らかに、振り下ろされた。


 全てが過去形で認識されたような違和感。

 ひゅん、と空気を斬る音さえ、後から聞こえたような気がした。


 そして。


 ギイン! という金属の悲鳴のような音。


「は……?

 な、なんじゃこりゃぁぁ!?」


 最初に声を発したのは、剣を持っていた男だった。

 悲鳴のような声を上げてしまうのも無理はない。

 その手に持っていた剣が、真っ二つに斬られていたのだから。


 折れたのではない滑らかな断面は、斬られたとしか言えないもの。

 いかな野盗が使う程度のなまくらと言えど、鉄は鉄。

 それが、すっぱりと斬られていた。


「うんうん、どうやら今日は調子がいいみたいだ。

 兄さん、もう一本頼むよ、今度は縦に持っておくれ」

「え?

 あ、ああ……? 

 いや、まだやるのかよ!?」


 呆れたような驚きの声を発しながらも、言われた通りにもう一本の剣を縦に持つ。

 衝撃的な光景ではあるが、彼とて戦士だ、見せられた技量に興奮しないわけがない。

 先程よりも気合を入れて構えて。


「こっちは、縦よりも成功率が低いんだが、ね……。

 ま、上手くいったらお慰みっ」


 そんな気合の抜けた声とは裏腹な鋭さで放たれる、横なぎの一撃。

 再び響く、金属の悲鳴。


 再び、鉄の剣が、真っ二つに斬られた。

 その光景に商人たちはやんやと騒ぎ、護衛の戦士たちは呆気にとられ言葉もでない。

 喝采と沈黙を背景に、ドミニクはレティへと振り返る。


「どうだい? あんただったら、これくらいできるようにしてやれるよ?」


 にやりと得意げに笑うドミニクへと、言葉が返せない。

 ただ、その光景に。技量に。

 胸の奥が震えるような感覚を覚えていることだけは、確かだった。

人は行き交い、出会い、別れる。

三国の人々が交じり合うこの街は、常に一期一会。

ゆえにこそ見える表情は、確かにあって。


次回:交易都市コルドバ


そしてそこは、岐路となる。



※派生作品始めました!

「元暗殺者ですが、公爵家のメイドとなってご令嬢付きになった結果妙に懐かれてしまって、これはこれでとセカンドライフを楽しんでいます」

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