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異界冒険奇譚  作者: 生まれ変わるなら猫
第二部
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Ⅲ ロズリンの秘境

「おーおー、分かっちゃいたが、レオン投入すると楽になるなぁ。そこいらの魔物なら棒立ちでもビクともしないよう作ったし。」


「と言うより、出番がなくなったな。私たちも装備を外していられるようになったからますます……。」


 先に行ったノノが立てる凄まじい破砕音を立てて先の部屋で戦っているのだが、残された三人はアンセスターレオンの圧倒的な制圧力の陰に隠れてしまっている。

 やる気を微塵も感じない風体で危険区域をほっつき歩く三人は、防寒しているだけで武装はほぼ全くしていない。

 アッシュが腰鎧をしているくらいだろうか。

 限りなく無防御な姿は秘境に潜る冒険者の姿としては突き抜けて異常と言う他ない。

 リーブラとアッシュが物魔両面からの探知で鉄壁の警戒網を張っているからこそできることだ。


「あっ、スケルトンですよ! 核が綺麗なのよね……。」


 下半身を粉微塵にされて吹き飛ばされたのか、曲がり角から滑り出てきた氷属性のスケルトンが壁に激突した。

 悲しいかな、両腕だけででも果敢に戦闘復帰しようとした彼の肩関節は飛来した石礫に破壊し尽くされてしまったのだが。


キシャァァァァァ!


「中々硬いですねっ……。こんのっ!」


ヒィアァァァアァァァァァ!?!?

キシャアアアアアアアアア!!!!


 魔物に――……しかも、骨しかないスケルトンに果たして痛苦を感じることができるのか、それは誰にも知り得ない。

 しかし、クラリッサスに鷲掴みされた核が今にも捥ぎ取られそうになり、頭蓋を狂ったように振る彼の姿を見て誰が苦しんでいないと言えようか、いや言えない。

 青い液状の魔力を眼窩から噴き出すスケルトンが顎を打ち鳴らして天を仰いだ直後、骨の砕ける音を響かせて、クラリッサスが核を背骨から剥ぎ取った。

 ガクガクと揺れていた頭蓋骨が落ちて虚しく割れる。


「うわぁ! 見て下さい、この蒼く透き通った核を。綺麗……。」


「死んだ爺ちゃんが女ってのは酷たらしいことを平気でできる生き物だって言ってたのを今思い出したぞ……。」


「…………。」


 マントで石をせっせと磨くクラリッサスをやや遠巻きに見ていた二人はチラリと背後を見やった。


「はぁぁ、凄い。コート着ててもハニーのシルエット格好良い。うひぇ、今こっち見てくれた。視線が合っちゃった合っちゃったよぉ。へひ、そんな情熱的に見るなんてぇ。世継ぎができちゃう。お腹張ってきた気がするっ。既成事実だぁ、えひひ。」


 前門の虎後門の狼と言ったところか。

 二人は現実を見る目を閉じて前進を続け、戦闘が行われている部屋に入った彼らは何気なく右を向き、即座に飛び退いた。

 黒い弾丸が目と鼻の先を掠めて壁に激突して白煙を巻き上げる。

 どうやら障壁を展開したまま敵にタックルをかましたらしく、二人の足元まで折れた肋骨が転がった。


「もう少しレディーらしく戦って欲しいもんだな。」


「お主が言うな。」


 スケルトンの残骸とナマモノ系の魔物の肉片が散らばる部屋をじろりと見渡したリーブラは来た道以外に行く先がないことを確認した。

 彼の魔力探知で行き止まりなことは分かっていたが、直感が“クサイ”と告げているのだ。


「お前は何か感じるか?」


「敵意を感じる……。繋がっているな。」


 それぞれ直感に連なるスキルによって攻撃的な気配をキャッチしているため、二人は無意識の内に威圧で対抗していた。

 ノノはバーサクの副作用で感じ取れず、クラリッサスはまだ戦闘補助のスキルまでは手が届いていない。

 仲間の様子を見て危険に気付いたノノとクラリッサスは壁から遠ざかった。


 重苦しい地擦れの音が響く。


「来るぞ。」


 天井から頭に落ちた砂埃を煩わしそうに振り落としたアッシュの腰鎧のベルトに画かれた刻印から光が溢れた。

 アンセスターレオンの召喚と同じように刻印が投射されたことを確認すると、彼は鼻先で交差させたうでを力強く振り解いて文言を唱える。


「 変 身 ッ ! ! 」


 一際眩い魔力光を放ち出した魔法陣はアッシュに迫り、その体と重なる。

 着ていたものが転送され、翼竜の鱗と砲金に近い合金で造られた甲冑が精査した肉体の座標に合わせて装備されていく。

 銀色の兜。

 深緑の鱗が連なる籠手。

 大きい鱗を削り出した鎧。

 異形の獣人と化したアッシュの金の瞳が兜から爛々と獲物を求めて輝いた。


「狩り尽くしてやろうぞ。」


 揺れが激しくなり、正面の壁がゴリゴリと上昇を始めて道が見えてきた。

 しかし、できた隙間からは凄まじい数と種類の足がひしめく様が覗き、開ききったその時に何が起こるかを想像させる。

 嫌そうな呻きがクラリッサスから漏れた。


「ほら、間引くぞ。合わせろ。」


「ええ、行きましょうか。」


『猛き獅子の風が怨敵に吹く

 今我が一振りにて打ち倒さん

 荒びたまえ、戦列の魂たち

 獅子の姿が見えるだろう』

『塵芥に返す鞭よ

 炎蛇の舌となりて唸るがいい

 燃え盛るためが糧とし

 華々しく散らせるのだ

 振るえ

 振るえ

 振るえ』


 リーブラの魔力が翡翠の色彩を帯びて部屋を満たした時、クラリッサスの掌から噴き上がった炎が陣を画いた。

 術式が完成に至り、風と炎が魔力を糧に生み出されたのだ。

 魔法陣が展開された手を広がりつつある隙間に向け、狙いを定めた二人は術式を解き放った。


『ウィンド・ロール』

『サラマンダー・ウィップ』


 豪風と重なって力を増した火線が壁の向こう側へ滑り込んだ。

 風の音に混じって魔物の断末魔と物体が衝突して砕ける粉砕音が部屋中に響き渡る。


「生き残りは任せた。」


「任された!」


「(もちろん。私の満足はこれからよ!)」

リーブラ所持金16820G

アッシュ所持金9430G

クラリス所持金54920G

パーティ所持金535170G

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