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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第3章

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プロローグ 熱砂の大陸へ

 『魔十字将』の居城は大体同じ規模だが、特徴はそれぞれ違う。

 たとえばユーノの居城は極めてシンプルな造りで、ヴァルの居城には数多くの格闘場がある。

 ここ、デュエの居城には様々な花が飾られており、外にはフラワーガーデンまでも作られていた。

 花を愛でるのは、彼女の数少ない楽しみである。

 そして唐突だが、デュエはユーノに恋心を抱いている訳ではない。

 ただ彼女は、その優しさがゆえに傷付いた仲間を放っておけなかった。

 しかし、自分が何を言ったところで、ユーノが弱みを見せないのもわかっている。

 つまるところ、自己満足でしかない――と、デュエは思っていた。

 ところが彼女を慕う者たちは、そう考えていない。


「デュエ様、ユーノ様の様子はいかがでしたか?」


 黒で統一されたデュエの書斎。

 最初に声を発したのは、容姿端麗な少年。

 白の礼服を身に纏い、赤いマントを羽織っている。

 手入れが行き届いた長髪に、切れ長の瞳。

 外見だけで言えば文句の付けようもないが、常に手鏡で自身の顔をチェックしており、相当なナルシストに思えた。


「そんなの決まってるじゃん、ノイム。 絶対、大丈夫って言ったんだよ。 ユーノ様なら、それしかないね!」


 続いて口を挟んだ人物も、誰もが振り向きそうなほど整った容姿。

 黄色の軽装を着こなし、頭の後ろで手を組んでいる。

 快活な笑みが特徴で、短髪と楽し気な雰囲気も相まって、一緒にいるだけで心が躍りそうだ。


「スール……貴様は事の重大さをわかっているのか? レリウスは、ユーノ様が唯一認めた腹心だぞ? 心中穏やかではあるまい」


 最後の1人も、例に漏れず美少年。

 濃緑色のローブを着ていることから、古の魔法使いを彷彿とさせる。

 クールな表情と抜群に似合ったミディアムヘアーが、彼の魅力を充分以上に引き立てていた。

 タイプの違う3人だが、髪と瞳の色は魔族の特徴通り、銀と真紅。

 他に共通しているのは、高身長と言うことだろう。

 すると、自分の態度を非難されたスールが、不貞腐れながら言い返した。


「クロトはマイナス思考過ぎるんだよ。 そりゃ、ユーノ様はレリウスを信頼してたけどさ。 だからって、落ち込んでてもしょーがねぇじゃん」

「貴様はそうでも、ユーノ様のお気持ちは違う。 そう簡単に割り切れることでは……」

「そこまでだ、2人とも。 まずは、デュエ様のお話を聞こうじゃないか」


 言い争いを始めそうだったスールとクロトを、ノイムが止めに入った。

 いつの間にか手鏡を仕舞っており、意外と面倒見が良いのかもしれない。

 ノイムの言うことを聞くのは、スールとクロトにとって微妙に屈辱的だったが、今回は大人しく従った。

 3人から見つめられたデュエは、豪華な黒い椅子に腰掛けながら、物憂げな溜息を漏らす。

 それを見たノイムたちは見惚れ、一瞬で心奪われていた。

 彼らはデュエの腹心なのだが、主に心酔している。

 念の為に断っておくと、デュエ自身が仕向けた訳ではない。

 ただ単に、彼女にそれだけの魅力があると言うだけだ。

 そんな罪深い美貌を持つデュエだが、特に誇ることもなく口を開く。


「スールの言う通りです。 ユーノは大丈夫と言っていました」

「ほーら見ろ!」

「うるさい、黙れ」

「ですがクロトの言うように、本当は辛いのだと思います」

「……ふふん」

「勝ち誇んな!」

「いい加減にしないか。 申し訳ありません、デュエ様」

「気にしなくて良いのですよ、ノイム。 彼らも自分なりに、意見を言おうとしているのでしょう。 ですが、今はわたくしの話を聞いてもらえますか?」

「も、勿論です!」

「……かしこまりました」


 デュエに微笑み掛けられたスールとクロトは、途端に顔を真っ赤にした。

 2人の反応に苦笑したデュエだが、やはり気分は重い。

 どうしても暗い顔になりながら、彼女は心情を語る。


「ユーノは全てを背負うつもりです。 彼にしか出来ないことではありますが……同じ『魔十字将』として、情けない限りです」

「何を仰るのですか。 デュエ様がいらっしゃるからこそ、魔族のバランスは保たれているのです」

「ノイムの言う通りです! ユーノ様に負けないくらい、デュエ様は頑張ってますって!」

「こいつらと同意見なのは癪ですが、僕もそう思います。 デュエ様の功績は、素晴らしいものです」

「……ふふ、有難うございます。 そうですね、わたくしにはわたくしの成すべきことがあります。 では、具体的な話をしましょうか」


 柔らかな笑みを浮かべたデュエに、またしても3人は胸を撃ち抜かれる思いだ。

 しかし、彼女の腹心として恥ずかしくないよう、すぐさま意識を切り替えて会議を始める。

 そこからは真剣な空気が室内に満ち、全員が計画に集中していた。

 暫くして確認事項を終えたデュエは、一呼吸置いてから告げる。


「ノイム、スール、クロト……頼みましたよ。 ただし、決して深追いはしないようにして下さい」

「お任せ下さい、デュエ様」

「頑張ります!」

「必ずや、ご期待に応えてみせます」


 芝居掛かった仕草で礼をしたノイム。

 敬礼の真似事をしたスール。

 深く頭を下げたクロト。

 三者三様の返答を見たデュエは、またしても苦笑を浮かべる。

 こうして彼女たちの計画は始動し、その目的地は――熱砂の大陸だった。

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