表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/98

第29話 宿敵との邂逅

 カティナさんの準備が終わってから、僕とサーシャ姉さんは地下水路に案内された。

 中は暗いが魔明が点いている為、視界には困らない。

 ただし、地下水路はかなり入り組んでいて、まるで迷路のようだ。

 もしカティナさんがいなければ、攻略するのに時間が掛かっただろう。

 とは言え、順調に進んだとしても目的地は遠いようだが。

 無言で歩みを進め、足音だけが反響している。

 普段は雑談することが多いサーシャ姉さんも、今ばかりは緊張感が強い。

 一方の僕とカティナさんは、そもそも口数が少ないタイプ。

 それゆえにこの状況は自然で、僕としては問題なかったのだが、何やら言い難そうにカティナさんが声を発した。


「シオン=ホワイト」

「何ですか?」

「その……お前と『剣の妖精』は、どう言う関係なんだ?」

「どうと言われましても……。 敢えて言葉にするなら、仲間です」

「本当か? 恋人ではなく?」

「違います」

「そうか……」


 どことなくホッとした様子のカティナさん。

 それを見た僕は、軽い気持ちで問い掛けた。

 問い掛けてしまった。


「カティナさんは、アリアのことが好きなんですか?」

「は、はぁ!? そんな訳ないだろう! わたしは女だぞ! いや、別に同性愛を否定するつもりはないが……。 し、しかし! わたしは違う!」

「わかりましたから、落ち着いて下さい。 この辺りにモンスターの気配はありませんが、何が起こるかわかりませんから」

「貴様のせいだろうが!」


 喚き立てるカティナさんを、必死に宥める。

 まさか、ここまで強く反応するとは……。

 尚もカティナさんは顔を赤くしていたが、なんとか深呼吸して落ち着いたらしい。

 王国軍の軍団長を務めるだけあって、気持ちのコントロールは上手そうだ。

 まぁ、初めから乱すなと言いたくなるが。

 褒めているんだか貶しているんだか微妙なことを思っていると、カティナさんは顔を背けながら言葉を紡ぐ。


「わたしが気にしているのは、『剣の妖精』に男が出来て、剣が鈍らないかと言うことだけだ」

「恋人が出来たら弱くなるんですか?」

「そうとは言い切れんが、可能性はある。 もっとも、逆に強くなるケースもあるようだが」

「どっちなんですか」

「どっちもあり得ると言うことだ。 少なくとも、大事な者が出来たことで何かしらの変化は起こるのだろう」

「カティナさんにも経験があるんですか?」

「わたしにそう言う相手はいない……って、何を言わせるんだ!」

「失礼しました」


 随分と沸点が低い人だな。

 王国軍を纏める立場として、若干の不安が残る。

 それはともかく、恋人が出来ることで強くなることも弱くなることもあるのか。

 誰かと恋人関係になって試すのは……流石に良くないだろう。

 恋愛に詳しくない僕でも、それがいけないことだと言うのはわかった。

 正直なところ興味はあるが、これに関しては考えるのをやめよう。

 僕が人知れず決めていると、それまで沈黙を保っていたサーシャ姉さんが口を開いた。


「カティナさん、聞きたいことがあります」

「む、何だ?」

「レリウスと戦って……亡くなった方は何人いますか?」

「……57人だ。 重軽傷者を含めるなら、100人を超える」

「そうですか……」


 カティナさんの返答を聞いたサーシャ姉さんは、足を止めて祈りを捧げた。

 そんな彼女を僕とカティナさんは、真剣な目で見つめる。

 やがて目を開いたサーシャ姉さんは、静かながら強く言い放った。


「行きましょう。 これ以上、犠牲者を出さない為に」

「……そのつもりだ。 付いて来い」


 気を引き締め直したカティナさんが、率先して前を歩く。

 それ以降は軽口を叩くこともなく足を動かし続け、かなりの時間が経過した。

 ここからでは外の様子は見えないが、恐らく夕方近くにはなっていると思う。

 そうして、ようやく最奥まであと少しと言うところまで来た、そのとき――


「な、何だ!?」


 地下水路の先から、大量の何かが迫って来た。

 それを見た僕は目を細め、素早く神力を高める。


「【閃雷】」


 地下水路に向かって魔法を放ち、複数体のサハギンを貫いた。

 だが、後続が途切れることなく通路に上がり、僕たちの行く手を阻む。

 カティナさんは僕の魔法に驚きながらも戦闘態勢に入っていたが、動揺は拭い去れていない。


「貴様、今のは……」

「悠長に話している場合ですか?」

「……それもそうだな。 しかし、何故だ? アリエスの水路にモンスターが侵入するなど、これまでに1度も……」

「水が汚染されているからだと思います。 本来の澄んだ水はモンスターにとって害なので、自然の障壁となっていたんでしょう」

「く……! どこまでも忌々しい……!」


 そうしている間にもサハギンの群れは数を増やし、レリウスへの道が塞がれて行く。

 さて、どうするか……。

 どれだけ数がいようと、サハギン如きに僕は止められない。

 ただし、ここで時間を使うようなら、レリウスを逃がす可能性が高くなる。

 そうして僕が選択に迷っていると、大きく深呼吸したカティナさんが、1歩前に出て宣言した。


「行け。 ここは、わたしが引き受ける」

「大丈夫なんですか?」

「舐めるな。 この程度、どうと言うこともない」


 カティナさんの装備は、小さめの盾と短めの剣。

 破壊力よりも手数と小回りを重視したスタイルに見える。

 などと僕が分析していると、最前線のサハギン3体がカティナさんに跳び掛かった。

 対するカティナさんは、退くことなく鋭く踏み込み――


「せいッ!」


 目にも止まらぬ3連撃。

 最初の1体を斬り上げ、即座に斬り下ろすことで2体目を撃破。

 更に勢いを殺すことなく反転し、3体目を蹴り殺した。

 お見事。

 一撃の威力はさほど高くなさそうだが、スピードだけで言えばアリアより速いかもしれない。

 彼女の実力に感心した僕は、背後で固くなっていたサーシャ姉さんに呼び掛けた。


「行くぞ、サーシャ姉さん」

「……えぇ。 カティナさん、どうかご無事で」

「ふん、言われるまでもない」


 短くやり取りした僕たちは、それぞれの戦いに向かった。

 カティナさんによって進路を確保し、サーシャ姉さんを担ぎ上げた僕が突破する。

 いきなりのことにサーシャ姉さんは悲鳴を上げていたが、聞こえぬふりをした。

 サハギンは僕たちを追って来ようとしたものの、カティナさんによって斬殺されている。

 あの調子なら、確かに無理しなければなんとかなりそうだ。

 そう判断した僕は完全に彼女たちが見えなくなってから、サーシャ姉さんを自分で立たせる。

 彼女は何か文句を言いたそうだったが、機先を制して尋ねた。


「情報が正しければ、レリウスはこの先にいる。 覚悟は良いか?」

「……うん」

「良し、行くぞ」


 緊張したサーシャ姉さんの言葉に頷き、僕は足を踏み出した。

 しばしして辿り着いたのは、地下水路の最奥。

 かなり広い空間となっており、戦うにはおあつらえ向き。

 そして、視線の先には――


「また会いましたね、シオン=ホワイトくん。 出来れば会いたくなかったですが」

「僕は会いたかったぞ、レリウス。 今度こそ、お前を殺す」


 好々爺然としたレリウス。

 出会ったときと何も変わらず、既にレイピアの先に魔力を溜めている。

 対する僕も神力を収束させ、いつでも【閃雷】を発動出来るように準備していた。

 すると、今初めて視界に入ったかのように、レリウスがサーシャ姉さんに言葉を投げる。


「そちらのお嬢さんは、確かリベルタ村の修道女でしたね。 わざわざこんなところまで、ご苦労なことです」

「レリウス……リベルタ村の皆に言いたいことはないの?」

「言いたいことですか? そうですね……あぁ、中々の美味でしたよ。 生まれ変わったら、また頂きたいくらいです」

「……なるほど、やっぱり貴方に救いはないわ」

「シオン=ホワイトくんに頼ることしか出来ないくせに、良くもまあそんなことが言えますね」

「確かにそうね。 わたしには、貴方を倒すことは出来ない。 でも……何も出来ない訳じゃないわ」

「ほう……面白いですね。 でしたら、是非見せてもらいましょうか」


 その言葉を言い終わるかどうかと言うタイミングで、レリウスがレーザーを射出した。

 狙いはサーシャ姉さんだったが、既に察知していた僕は間に入って魔法を繰り出す。


「【閃雷】」


 あとから発動したにもかかわらず、激突したのは中間地点。

 それはつまり、レリウスのレーザーよりも【閃雷】の方が速いと言うこと。

 この事実を受けて、レリウスの顔から笑みが消えた。

 だが、彼は怯むことなく動き始め、広い空間を縦横無尽に駆ける。

 老人とは思えない速度だが、驚くには至らない。


「【閃雷】」

「む……!」


 先読みした僕の魔法を、レリウスは急停止することで辛うじて避ける。

 流石の反応だと言いたいところだが、完全に足を止めたのは失敗だったな。

 神速の踏み込みで懐に潜り込んだ僕は、右の直剣で袈裟斬りにする。

 並の相手ならこれで終わっていただろうが、レリウスは易々と倒せる使い手じゃなかった。


「ぬん……!」


 足裏で魔力を爆発させたことで後方に跳び退り、紙一重で直剣を躱すレリウス。

 斬り裂かれたのは執事服のみで、体には傷1つない。

 やるな。

 素直に認めた僕だが、客観的に見ても負けるとは考えられなかった。

 それと同時に、これが奴の全力とも思えない。

 慎重にレリウスの様子を窺っていると、唐突に問を投げられた。


「シオン=ホワイトくんは、どうしてわたしを殺そうとしているのですか?」

「リベルタ村の人たちを殺した。 アリエスの水を汚染した。 人類の敵である魔族。 殺す理由としては充分だと思うが?」

「リベルタ村を襲ったのも、アリエスの水を汚染したのも、わたしの欲を満たす為です。 貴方たち人間がしていることと、何が違うのです? 人類の敵と言うのは、そちらが勝手に思っていること。 はっきり言って、わたしにキミと戦う理由はありません」

「だから殺すなと言うのか? 仮にお前の言い分を認めたとしても、サーシャ姉さんを傷付けたことは間違いない。 それに、アリエスの水を汚染した理由はそれじゃないだろう?」

「と言うと?」

「僕も最初は、お前の欲望の為だと思っていた。 だが、美味を味わうと言う欲を満たすだけなら、アリエスじゃなくても良いはずだ。 それにもかかわらず、お前はわざわざ水を汚染すると言う手段を使ってまで、アリエスをターゲットにした」

「それは、アリエスと言う国が狩場として、獲物が多いからですよ。 水を汚染したのは、少しずつ弱らせて長く美味を楽しむ為です」

「もっともらしい説明だが、実際は違う。 アリエスが落ちれば、清豊の大陸は機能を失う。 そうなれば、魔族が攻め入るのは容易いだろう。 そして、清豊の大陸が支配されれば残りの大陸に緊張が走り、バランスを失う恐れもある。 最悪、人間同士の争いに発展する可能性も捨て切れない。 要するに……」


 そこで言葉を切った僕は、レリウスを睨んで言い切った。


「お前たちは、明確な敵意を持って攻めて来ている。 それでも、人類の敵じゃないと言うのか?」

「……いやはや、恐れ入ります。 キミには何もかも、お見通しのようですね。 鋭いとは思っていましたが、ここまでとは。 仰る通り、わたしの使命はアリエスの陥落にあります」

「そもそも、お前ほどの実力者が自分の欲の為だけに動いているとは考え難い。 何かしら意図があると思うのは、当然のことだ」

「少々複雑な気分ではありますが、実力を褒められたことは嬉しく思います。 ですが、こうなったからには、なんとかキミには退場してもらわなくては」


 そう言ってレリウスは、前置きなくレーザーをサーシャ姉さんに放った。

 警戒していた僕は難なく斬り払ったが、これは奴の意思表示。

 今後はサーシャ姉さんを餌にして、僕に隙を作るつもりだろう。

 ある意味で人質になったようなものだが、サーシャ姉さんは揺るがない。

 恐れることなく、毅然とした表情でレリウスを見つめていた。

 彼女が問題ないと結論付けた僕は、直剣をレリウスに突き付けて声を発する。


「決着を付けるぞ、レリウス。 謝罪するなら早めにしておけ。 お前の命は残り僅かだ」

「……怖いですね。 ですが、わたしにも譲れないものはあります」


 直剣に神力を集める僕と、レイピアに魔力を宿すレリウス。

 そして――


「【閃雷】」

「はッ!」


 同時に閃光を撃ち出した。

 激突して火花を散らし、地下水路を震わせる。

 こうしてレリウスとの戦いは、激しさを増して行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ