表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/98

第10話 ルナとの甘い(?)ひととき

 僕たちに宛がわれた部屋は男女2部屋……じゃなくて、3部屋。

 本当なら僕と女性陣で分かれれば良かったのだが、ルナが姫様たちとの同室を拒否した。

 だからと言って僕と同じ部屋なのは、逆に姫様たちが許さない。

 と言うことで新たに1部屋借りているのだが、目指しているのは自室ではなくルナの部屋。

 間もなくして到着すると、ドアノブに「入ったら殺す」と書かれた物騒な札が掛けられていた。

 思わず溜息をついた僕は、周囲に人がいないことを確認してからノックする。


「ルナ、僕だ。 開けてくれないか? 他に人はいない」


 確実に中に聞こえているはずだが、返事がない。

 しかし辛抱強く待っていると、ようやくしてゆっくりとドアが開いた。


「どうしたの、シオン。 もしかして、わたしとキスしたくなったのかしら?」


 艶やかな微笑を湛えて、そんなことをのたまうルナ。

 そんな彼女を見て溜息を追加した僕は、無言で部屋に入ってドアを閉めた。

 未だにルナは笑みを維持しているが、僕は彼女の状態を把握している。


「体調が悪いんだろう? 薬を用意するから、無理せず寝ていろ」

「あら、どうしてそう思うの? わたしは別に……」

「顔色が悪い、吐き気を我慢している仕草を何度か見た、神力が乱れている。 他にもあるが、まだ聞きたいか?」

「……いいえ、もう充分よ」


 白旗を上げたルナは、苦笑をこぼしてベッドに向かった。

 あっさり認めた辺り、相当辛いのかもしれないな。

 ゴスロリ服に皺が出来るのにも構わず、重い動きでベッドに横になったルナ。

 大きく息をついており、なんとか落ち着こうとしているらしい。

 それに関しては敢えて何も言わず、僕は魔箱からいくつかの薬品を取り出す。

 効能を確認してから机に並べ、淡々と問い掛けた。


「症状を教えてくれるか?」

「症状と言われてもね。 ただの船酔いよ。 貴方の言った通り、吐き気が酷いくらいかしら」

「船酔いか。 流石のキミも、船は初めてなのか?」

「そう言う訳ではないけれど……昔から苦手なのよ」

「わかっていれば、事前に酔い止めを用意することも出来た。 どうして言わなかった?」

「……あの痴女たちに、苦手なことを知られたくなかったの」


 顔を背けながら呟かれたルナの言い分に、僕は呆れざるを得ない。

 思い返してみれば、姫様たちの前では極力いつも通りに振る舞っていたな。

 内心で嘆息した僕は薬の中から1つを選んで、ルナの元に持って行く。

 ルナは嫌そうにしていたが、無視して支え起こした。

 近くで見ると顔色の悪さがはっきりとわかり、体には力が入っていない。

 じっとりと汗をかいているようで、思ったよりも酷そうだ。

 それでも彼女は薬を受け取ろうとしなかったので、仕方なく僕は強硬手段に出る。


「ん……!?」


 薬品を口に含んで、無理やりルナの口に移した。

 結果として自分からキスしてしまったとは言え、緊急事態なのだから許して欲しい。

 その代わりと言えるか怪しいが、薬を飲ませ終わったらすぐに離れた。

 ルナは名残惜しそうにしていたが、無視してベッドに寝かせる。

 暫く見守っていると次第に薬が効いて来たようで、多少は快復したらしい。

 ニーナとウェルムさんには感謝しないとな。

 薬の効果を実感したのか、ルナもどことなく安心したようだが、無理やり飲まされたことは不服そうだ。

 苦笑をこぼしそうになりつつ、これ以上出来ることはないと判断した僕は、部屋を辞そうとしたが――


「もう少し、一緒にいてくれないかしら?」


 ルナに袖を掴まれて、無言で腰をベッドに下ろす。

 もっとも、やはり出来ることなどないので、黙って置き物になっているだけだ。

 それでもルナは満足そうだったが、時計の秒針が5回転する頃になって、おもむろに口を開いた。


「シオンって、何人くらい殺したの?」


 突然の質問に、僕はどう答えるか迷った。

 彼女に人を殺したことを話した記憶はないが、ある意味同類だからこそ勘付いたのだろう。

 それゆえに僕は、誤魔化すことなく伝えることにした。


「覚えていない」

「それは、覚えていないほどたくさんってこと?」

「それもあるし、我を忘れて殺した人もいるからな」

「シオンが我を忘れて……?」

「あぁ。 エレンを殺したと聞かされて、暴走したらしい。 気付いたときには、生きている者はいなかった」

「……そう。 貴方にも、複雑な事情がありそうね」

「どうだろうな。 話せないのは確かだが、複雑かと言われればそうでもない気がする」

「その説明の時点で、充分複雑よ。 ……このことは、痴女姫たちも知っているの?」

「知らないはずだ。 少なくとも、僕から話してはいない」

「ふぅん。 と言うことは、今のところわたしと貴方だけの秘密なのね?」

「まぁ、そうだが。 それがどうかしたのか?」

「ふふ、何でもないわ」


 何故か嬉しそうに微笑んだルナは、僕の手をそっと握る。

 随分と楽になったようだな。

 それ以降、またしても沈黙が落ちたが、やがてルナが少し拗ねたように声を落とす。


「わたしには何も聞かないの?」

「と言うと?」

「だから、わたしの過去とか、何か聞きたいことはないの?」

「聞いて欲しいのか?」

「そう言う訳ではないけれど……興味を持たれないのも複雑なのよ」

「興味がないことはない。 ただ、キミの過去には触れない方が良いと思ったんだ」

「……まぁ、確かに喜んで話す気にはならないわね」


 自分で話題を振っておいて、ルナは表情を暗くした。

 出会った当初は常に笑みを絶やさなかった彼女だが、それは殺し屋としての仮面を被っていたに過ぎない。

 本来のルナは想像していたよりも、か弱いのかもな。

 そう感じた僕は、過去とは別に気になっていたことを尋ねる。


「じゃあ、1つ聞いても良いか?」

「え? 何かしら?」

「どうして姫様たちを目の敵にする? 確かにキミたちは敵同士だったが、直接戦ったのは僕だ。 敵対関係がなくなった今、無駄に突っ掛かる必要はないだろう」


 僕としては素朴な疑問で、本気で理由がわからなかった。

 馬が合う合わないはあるかもしれないが、あそこまで露骨に毛嫌いしなくても良いと思う。

 ところが、僕の言葉を聞いたルナは目を丸くし、次いでジト目になった。

 良くわからないが、機嫌を傾けていることは間違いない。

 するとルナは、握っていた手を解き、ギュッと抓った。

 大した力は込められていないが、地味に痛い。

 何故こんな仕打ちを受けたのか謎だったので、目線で問い掛けてみると、盛大に嘆息したルナが語り始めた。


「わたしがどうして、パーティに加入したと思っているの?」

「近くにいる方が守り易いし、打ち合わせしている方が良いこともあると言っていなかったか?」

「建前はね」

「建前?」

「本気でわかっていないのね……」

「だから、何のことだ?」


 どうにも、まだるっこしい言い方だ。

 ルナらしくない。

 僕のそんな思いが届いたのか、頬を朱に染めたルナが視線を逸らしながら言葉を紡ぐ。


「わたし、貴方のことを……愛しているのよ」

「何度か聞いた」

「そうではなくて……つまり……」

「はっきりしないな。 やはり体調が悪いのか?」

「違うわよ! あぁ、もう! だから、殺して自分のものにしたいとかではなくて……普通に一緒にいたいって、思うようになったの……」

「なるほど、それでパーティに加わったのか。 だが、姫様たちを目の敵にする理由はまだわからないな」

「別の意味で殺意が湧くわね……。 はぁ……恋敵を邪魔に思うのは自然じゃないかしら?」

「恋敵? 姫様たちが?」

「それしかないでしょう。 まさか、それにも気付いていないとか言わないわよね?」


 ジト目を通り越して、冷ややかな目で見つめて来るルナ。

 はっきり言って、かなり怖い。

 正直なところ逃げたいが、ここは覚悟を決めて本心を語ろう。


「姫様からは、そのようなことを聞いたことがある。 しかし、リルムやアリアからは1度もないぞ」

「貴方って、察しが良いのか悪いのかどっちなの? 言葉にしなくても、態度や表情を見ていればわかるじゃない」

「そう言われてもな……。 そもそも、僕に恋愛は無理だ」

「……どうしてよ」

「詳しくは言えない。 ただ、もしルナが僕に対してそう言う感情を持っているのだとしたら、やめておいた方が良いぞ。 あとで辛くなるのはキミだ」


 これは、嘘偽りのない事実。

 客観的に見て、僕は恋愛をするべきじゃない。

 だが――


「ふざけないで。 そんな簡単に割り切れるなら、こんなに苦労していないわよ」


 激怒された。

 無理やりに体を起こして、真っ向から睨み付けている。

 それを受けても僕の心は動かなかったが、取り敢えず落ち着かせなければ。

 ルナの両肩に手を置いて、ゆっくりとベッドに横たえる。

 彼女は抵抗しようとしていたものの、力が入らない体では無駄だ。

 悔しそうに見上げて来るルナに対して、僕はあくまでも淡々と告げる。


「忠告はした、あとはキミが決めることだ。 とにかく、今はゆっくり休め」

「……そんな気分だと思う?」

「なら、どうすれば良い? 言っておくが、キスは却下だ」


 今度こそ溜息を漏らしながら聞くと、ルナは不愉快そうにしていたが、何かを思いついたのかニヤリと笑った。

 対する僕は嫌な予感を覚えつつ、黙って彼女の言葉を待つ。

 すると、今度はゆっくりと体を起こしたルナが後ろを向き――服をはだけた。

 視界いっぱいに彼女の白い肌が映り、反射的にドキリとする。

 僕の内心を見透かしたかどうかは定かじゃないが、ルナは妖艶な笑みを浮かべて言い放った。


「汗をかいて気持ち悪いから、拭いてくれない?」

「……わかった」


 一瞬言葉に詰まりながら、はっきりと頷く。

 その後の動きはスムーズで、魔箱からタオルを取り出してルナの体を拭いた。

 わかってはいたことだが、彼女の美しい肢体は刺激が強い。

 それでも平常心を保って黙々と役割をこなしていると、前を向いたルナから落ち込んだ声が聞こえた。


「わたしって、魅力ないかしら……」

「そんなことはない。 むしろ、凄く魅力的だと思う」

「それにしては、手を出す素振りもないじゃない」

「体調が悪い人に、そんな真似はしない。 そうじゃなくても、旅の最中にするべきじゃない」

「真面目なのね。 じゃあ、そう言う制約がなかったとしたら、抱いてくれるのかしら?」

「断言は出来ないな。 だが、場合によってはあり得るかもしれないとは思う」

「場合によっては、ね……。 わたしが、汚れた体だとしても?」

「汚れた体?」

「……何でもないわ、忘れて頂戴。 もう良いわ、有難う」


 そう言ったルナは、手早く服を着直した。

 まるで先ほどの発言を、なかったことにしたいかのように。

 彼女の真意はわからないが、忘れて欲しいならそっとしておこう。

 本当の意味で忘れることは、出来ないだろうが。

 背中を向けたまま黙っているルナに、僕は何を言うべきかわからなかった。

 そうして出した結論は――


「……何のつもり?」

「いや、特に意味はない」

「そう……」


 優しく頭を撫でた。

 それに対してルナは大きな反応を示さなかったが、悪い気はしていなさそうだ。

 暫くそのまま手を動かしていた僕は、ようやくして告げる。


「もう少し横になっていた方が良い。 夕飯の時間になったら起こしに来るが、体調次第では別メニューで食べ易い物を用意する。 姫様たちにはバレないようにするから、安心しろ」

「……わかったわ」

「良し。 じゃあ、お休み」


 ルナが大人しく眠りに入ろうとしたのを見て、僕は立ち上がろうとした。

 ところが、またしても袖を引かれてタイミングを失う。

 どうしたのかと視線で尋ねると、顔を背けたルナがこちらを見ようともせず、恥ずかしそうに言葉を紡いだ。


「わたしが寝るまでで良いから、ここにいてくれない……?」

「……仕方のない人だな」


 苦笑を浮かべた僕はベッドに座り、ルナの頭を撫でた。

 子ども扱いされたと感じたのか、彼女は少し不貞腐れつつ、黙って瞳を閉じる。

 すると間もなくして、穏やかな寝息が聞こえ始めた。

 安らかな寝顔を見ている限り、もう大丈夫だろう。

 起こさないように腰を上げた僕は、静かにドアを開いて部屋をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ