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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第2章

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第3話 覚悟と現在地

 あれから更に2日が経ち、ようやく村を出発した僕たち。

 身も蓋もないことを言うと、落石の撤去作業など自分たちで出来たのだが、そう言ったことを仕事にしている者たちもいる為、敢えて任せていた。

 仕事を奪って、彼らの収入を減らすのも悪いと言う判断だ。

 僕たちが村を離れることを村民たちは残念がっていたが、致し方ない。

 言葉にはしなかったものの、ダンも寂しそうだったな。

 何はともあれ旅を再開した僕たちは、午前中にマウナ山の麓に辿り着いた。

 高さはそれなりにあるが、山道自体は大して険しくない。

 交易路として使われることも多く道が整備されているので、迷いの森に比べて楽だと言える。

 木々の数は多いが日の光は感じられ、何ならピクニックに向いているかもしれない。

 定期的にモンスターの掃討をギルドに依頼しているらしく、【転円神域】で調べたところ、ほとんど反応がなかった。

 ここのところ訓練詰めだったからな、今日は息抜きしてもらおう。

 密かにそう決めた僕は、背後の姫様たちに声を投げた。


「さぁ、行きましょうか。 危険はほぼなさそうなので、警戒は僕に任せて姫様たちはのんびりしていて下さい」

「え? それは駄目です。 シオンさんにだけ負担を強いる訳には行きません」

「いいえ。 自覚していないかもしれませんが、姫様たちは疲れています。 休めるときに休まないと、いざと言うときに戦えません」

「そ、それを言うなら、普段から【転円神域】を使っているシオン様こそ休まないと……」

「僕にとって【転円神域】は、呼吸するのと似たようなものだ。 だから、気にする必要はない」


 僕の提案に対して姫様は渋い顔を作り、アリアは不安そうに眉を落とした。

 更に口論が続くかに思われたが――


「ふぁ~……じゃあ、あたしはそうさせてもらおうかな。 実際、ちょっと疲れ気味だし」


 大きくあくびしながら、リルムが僕の案に乗った。

 それを聞いた姫様は一瞬瞠目し、次いで非難するように言い放つ。


「リルムさん、本気で言っているのですか?」

「何を怒ってんのよ? この中で1番索敵能力が高いのはシオン。 余力があるのもシオン。 なら、任せるのが最適解でしょ?」

「だからと言って、彼に全てを任せて良いと思っているのですか? それでなくとも、わたしたちは甘えっ放しだと言うのに」


 合理的なリルムに対して、感情的な姫様は納得出来ないらしい。

 2人を見比べてアリアは戸惑っており、パーティ内に不穏な空気が流れた。

 これは良くないな……。

 睨み付ける姫様と、それを真っ向から受け止めるリルム。

 僕がどう仲裁するべきか迷っていると、深く溜息をついたリルムがポツリポツリと語り出す。


「あたしだって、本当なら嫌よ。 でも、今はそうするのが最善なんだから仕方ないでしょ? 旅は長いんだから、一時の感情じゃなくて長期的に見て判断しないといけないの。 それが嫌なら、もっと実力を付けることね。 ……あんただけじゃなくて、あたしも」


 そのときになって、姫様は気付いたようだ。

 冷静に見えたリルムが、悔しい思いを隠していることに。

 それはアリアも同じで、辛そうな表情をしている。

 気まずい沈黙がその場を支配したが、落ち込んだ様子の姫様が口火を切った。


「すみません、リルムさん……」

「別に、謝って欲しい訳じゃないわよ。 あたしが言いたいのは、文句があるなら強くなってからにしなさいってこと」

「そうですね……今のわたしに、その資格はないです。 気付かせてくれて、有難うございました」

「ふん……お礼もいらないわよ」

「それでもです。 これからも、何かあれば言って下さいね」

「……最初から、遠慮するつもりなんてないってば」

「そうでしたね。 シオンさん、お待たせしてごめんなさい。 改めてよろしくお願いします」


 リルムの言葉を受けた姫様は、僕に向かって丁寧に頭を下げた。

 それを見たアリアも、慌てて彼女に倣う。

 チラリとリルムを見ると、ムスッとした顔で明後日の方を向いているが、頬を朱に染めていて、照れていることがわかった。

 どうやら姫様から素直に感謝され、反応に困っているようだ。

 そのことに内心で苦笑した僕は、取り敢えず話が落ち着いたことに安堵しつつ、力強く宣言する。


「お任せ下さい。 今から登れば、夕方には下山出来るでしょう」


 そう言って前を向いた僕は、ゆっくりと足を踏み出した。

 後ろから姫様たちが付いて来ているが、最低限の警戒はしつつもちゃんと休んでいることが伝わって来る。

 それだけじゃなく、時折姫様がリルムに話を振っており、軽い雑談をしていた。

 リルムの態度は友好的とは言えないものの、満更でもなさそうだ。

 和気藹々とまでは行かないとしても、これは大きな進歩だと言える。

 これを機に、少しでも2人の仲が改善されることを祈った。

 その考えは僕だけじゃなく、いつの間にか前に来ていたアリアが嬉しそうに話し掛けて来た。


「一時はどうなることかと思いましたけど、結果的には良かったかもしれませんね」

「そうだな。 いろんな意味でこのパーティは未熟だが、伸びしろは計り知れないと思っている」

「はい。 わたしも、シオン様……お兄ちゃんの期待に応えられるように、頑張ります」


 姫様とリルムに聞かれないように気を付けながら、お兄ちゃんと口にするアリア。

 2人きりのときだけと言う約束だったが、中々チャンスがないからな。

 それゆえに僕は何も言わず、甘んじて受け入れた。


「アリアは今でも、充分以上に頑張っている。 訓練の相手をしている僕が言うのだから、間違いない」

「あ、有難うございます……。 でも……」


 そこで言葉を切ったアリアはこちらを上目遣いで見つめながら、恥ずかしそうに自身の思いを告げる。


「わたしはやっぱり、お兄ちゃんに近付きたいです。 相手が魔族たちなのはわかってます。 それでも……お兄ちゃんは、わたしの憧れですから……」


 尻すぼみに声は小さくなったが、意思はしっかりと届いた。

 相手を間違っている訳でも、迷走している訳でもない。

 ただ純粋にアリアは、僕を目指そうとしている。

 それが茨の道だと言うことを、承知の上で。

 彼女の気持ちを悟った僕は、頭にポンポンと手を当てながら、一言を返した。


「無理だけはするな」

「……! はい、お兄ちゃん!」


 嬉しそうに破顔するアリア。

 その顔を見ていると、彼女なら今後訪れるであろう壁も、乗り越えられるかもしれないと思った。

 それからは無言で並んで歩き、順調にマウナ山を登って行く。

 尚このとき、背後の姫様たちから強烈なプレッシャーを感じたが、気付かぬふりをした。

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