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【第3章完結】白雷の聖痕者  作者: YY
第2章

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プロローグ 魔十字将

 魔族が住むと言われている、真夜の大陸。

 しかし、その詳細を知る者はほとんどいない。

 何故なら、真夜の大陸に渡った人間は殺されるか、良くて命からがら逃げ帰るからだ。

 唯一判明しているのは、名前の通り日が昇らない、常夜の世界だと言うこと。

 そんな真夜の大陸に存在する、魔族の居城の1つ。

 燭台の火が怪しく照らす、広い空間。

 グレイセスの王城に似ていると言えば似ているが、雰囲気は圧倒的に暗い。

 赤い絨毯が敷かれており、その先の玉座のような場所には、大きめの執務机が置かれている。

 執務机の上には書類が山積みになっているが、今は横にどけられ、空いたスペースに3つの鏡が並べられていた。

 その対面に座っているのは、1人の青年。

 長身痩躯で肩より少し長い銀髪、感情の窺い知れない真紅の瞳。

 銀髪と真紅の瞳は魔族の特徴、あるいは証。

 かなり整った容貌をしており、漆黒の甲冑で身を包んでいる。

 そんな青年が、静かで鋭利な雰囲気を醸し出しながら、重々しく口を開いた。


「どう思う?」


 その問い掛けは言葉足らずで、何が聞きたいのか判然としない。

 だが逆に言えば、受け取った側が何に着目して、どう感じたのかを知ることが可能。

 青年の思惑を察した鏡の向こうの人物たちは、文句を言うことなくそれぞれの考えを伝える。


『わたくしは油断ならないと感じました。 特にイレギュラー……シオン=ホワイトには注意が必要です』


 最初に答えたのは、美しい女性の声。


『ボクはまだ何とも言えないかなー。 イレギュラーが厄介なのは間違いないけど、他の3人はビミョーじゃないー? 『殺影』が加わったら、メンドクサクなりそうだけどー』


 次いで返事をしたのは、眠たげな少女の声。


『何言ってんだ。 あんな奴ら、どうってことねぇぜ。 むしろ今すぐ、ぶっ叩くべきだろーが』


 最後の1人は、勝気な少年の声。

 それぞれの意見を聞いた青年は数瞬瞑目し、自身の思いも明かす。


「ヴァルの言う通り、すぐに始末出来るならそれに越したことはない」

『だろ? そうと決まれば……』

「だが、デュエやトレスの懸念ももっともだ。 イレギュラー……奴の強さは底が見えん。 『殺影』の動向もはっきりせんしな」

『ですね……。 まだ、焦って動くべきではないと思います』

『馬鹿なこと言うなよ、デュエ。 のんびりしてたら、それこそ手遅れになるだろーが』

『ヴァル、落ち着きなよー。 あいつらの旅は始まったばかりなんだから、そんなに慌てなくて良いでしょー?』

『うるせぇぞ、トレス。 俺様に指図すんじゃねぇ。 テメェらがやらねぇってんなら、俺様がやってやるよ』

『待って下さい。 貴方を、ここで失う訳には行きません』

『だから、負ける前提で話してんじゃねぇ! とにかく、俺様は動くからな! テメェらは、ここで一生話し合ってろ!』


 そう言い捨てた少年……ヴァルの気配が鏡から消える。

 そのことにデュエとトレスは溜息をついたが、青年は動じなかった。


「放っておけ」

『ユーノ……良いのですか?』

『ヴァルが脱落しちゃったら、今後の戦いが厳しくなるよー?』


 青年ことユーノの判断に、デュエとトレスが食い下がる。

 しかし、ユーノはやはり揺るがない。


「ヴァルは粗野に見えて頭は悪くない。 無駄死にするようなことは、しないはずだ」

『それはそうですが……』

『まぁー、ヴァルは魔王様を本当に大事に思ってるからねー。 居ても立っても居られないんだよー。 ……それはボクもだけどー』

「その通り。 我らは皆、魔王様の為に存在する。 最悪、ヴァルが殺されたとしても、奴らの強さを測る機会にはなるだろう」

『……そうならないことを祈ります。 勿論、魔王様が最優先なのは、わたくしも同じですが』

「心配するな、デュエ。 我ら『魔十字将クロイツ・ジェネラル』は考えこそ違えど、志すのは同じだ。 それはヴァルも例外ではない」

『えぇ、そうですね』

『魔蝕教にも、もっと頑張ってもらわないとねー』

「そうだな。 見込みのある者たちには魔石を渡しているから、それなりには戦えるはずだ。 使うことを躊躇わなければ、だが」

『ミゲルは惜しかったですね。 『輝光』を追い詰めていたように思います』

『それはどうかなー。 ボクには、あれが『輝光』の全力だとは思えないんだよねー』

『ですが、余裕があるようには見えませんでしたよ?』


 『輝光』……ソフィアの実力に関して、デュエとトレスの意見が割れた。

 『魔十字将』の間に上下関係はないが、こう言うときは自然とユーノの見解を聞きがちである。

 2人から意識を向けられたユーノはしばし黙考してから、ゆっくりと口を開いた。


「デュエもトレスも、言っていることには一理あると思う」

『どう言うことー?』

「デュエの言うように、あのときの『輝光』に余裕はなかった。 だがそれは、奴が『輝光』のポテンシャルを引き出せていないからだ。 トレスの言う通り、本来の『輝光』の強さはあんなものではない」

『と言うことは、やはりヴァルの言うように、今のうちに仕掛けるべきなのでしょうか……?』

「いや、そうとは限らない。 結局のところ、イレギュラーの強さが未知数だからな」

『だよねー。 もうちょっとは情報が欲しいかもー』

「そう言う意味では、ヴァルが動いてくれたのは好都合だ。 あとは、結果を待とう」

『……わかりました、わたくしも覚悟はしておきます』

『ヴァル、頑張ってねー』


 気の抜けたトレスのエールを最後に、2人の気配も消えた。

 1人になったユーノは椅子の背もたれに体を預け、虚空を見つめる。

 すると空中に、シオンとルナが戦っている場面が映し出された。

 『殺影』であるルナも相当危険な存在だが、シオンはその次元ではない。

 明らかに手を抜いているにもかかわらず、圧倒している。

 収穫があるとすれば、いくつかの魔法とスキルを見れたこと。

 暇さえあれば映像を流しているが、何度見ても凄まじい。

 このイレギュラーをなんとかしない限り、勝ちが転がって来ることはないだろう。

 そう考えたユーノは厳しい表情で、映像を凝視し続けた。

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