73 私が顕現させられたあの場所は本当に神殿だったようです
土下座? 平伏? よく解らないけど、エルフたちが私に向かって頭を下げているのよ。
でも、なんで? その理由が解らずオランシェットの顔を見たんだけど、彼女も理由が解っていないようで可愛らしく頭をこてんっと倒してる。
だから今度はクラフティを見たんだけど、こちらも何が起こっているのか理解できていないようで、口をあんぐりと開けてエルフたちを見てるんだよね。
まさに援軍なしの孤立無援状態。
「う~ん、これはあれだ。解らないことは解る人に聞けという案件」
ってことで目の前で土下座しているエルフたち、その先頭にいる人に声をかけてみる。
「面を上げぇ~い! じゃなかった。ちょっとそこのエルフたち、何でそんな格好をしてるのよ」
「神が降臨なされた時はこうせよと、生まれた時から教えられているからでございます」
紙? 髪? いや、神だよね、文脈からすると。
ってことは、このエルフたちからは私が神に見えてるってこと?
あまりの急展開に一瞬パニックになりかけるものの、目の前の光景のインパクトが強すぎて逆に冷静になれた。
ってことで質問再開。
「なぜ私が神だと思ったの?」
「われらエルフは魔力に通じておりますゆえ、神の魔力を感じる取ることができるのです」
土下座したままのエルフ曰く、どうやら私は神の魔力を纏っているそうな。
私って魔王信者のお爺ちゃんたちに、神殿みたいなところで長年蓄えられていた魔力を使ってこの世界に顕現させられたよね。
これはあれか? あそこは本当に神様を祭る神殿で、そこに蓄えられていた魔力が神の魔力とやらだったのかな?
だからその魔力によって生み出されたこの体全てが、その神の魔力とやらでできているのかも。
「えっと、確か過去に魔王が襲来した時に異世界から人を顕現させたと聞いたことあるけど、もしかしてその人も私と同じように神の魔力を纏っていたりしたとか?」
「確かに過去に召喚されたという人族も神の魔力を少し纏ってはおりました。しかしあなた様の魔力はこの地に降臨された神が残したという聖遺物、それをもはるかに強い神の魔力を纏っておられます。実際にお会いしたものに聞かねばはっきりと判断が付きませんが、神、もしくはその眷属であるのは間違いないかと思い平伏している次第です」
聖遺物なんてものがあるのか。
私は彼の話を聞きながら一瞬そう考えたのだけど、最後のところでとても聞き逃せない単語が出てきた。
「実際に神様にあった人、いやエルフがいるの?」
「はい。この地に光臨されたのは800年程前とのことですから」
この世界のエルフって他の物語同様かなり長寿なようで、そのほとんどが1000年以上生きるらしい。
だから思った以上に、神様と会ったことがあるエルフは多いそうな。
「そのエルフに会えたりするのかな?」
「はい。そう命じて頂ければ、直ちに連れてまいります」
「そうなの? じゃあ、お願いできるかな?」
私がそう言うと私の相手をしていたエルフは土下座の姿勢のままずりすりと下がっていき、ある程度下がったところで方向転換。
そのまま立ち上がって粉々になった門の向こうに走っていってしまった。
残されたのは私たちと、土下座の姿勢を崩さないエルフたち。う~ん、この状況はやはりあまりいい気持がしないのよね。
「その姿勢だと辛いでしょ。頭をあげてもいいよ」
「いえ。長老から叱責されます」
だから普通の姿勢に戻って欲しいと言ったんだけど、全員口をそろえてNOの返事。
ってことで少々いたたまれないけど、この状況に耐え続けることに。
ただ幸いなことに、そう時間を置かずにさっき走っていったエルフが年老いたエルフを連れて帰って来てくれたのよ。
服装が他の人たちより上等に見えるってことは、あの人がさっきエルフたちが言っていた長老ってやつかな?
このエルフに話を聞けば、今の状況をよりはっきりと知ることができそうね。
と、この時私はそんなことを考えていたんだけど……。
ダダダダッ、ズシャァーー!
私を一目見た瞬間、長老らしきエルフがダッシュからのスライディング土下座を私の前にかましてきた。
こいつもかよ……。
「えっと、長老様かな?」
「上級神様とお見受けいたします。私のようなものに様付けなど恐れ多い。下郎とでもお呼びください」
イヤイヤ、流石にそれはどうかと思うよ。それと、ちょっと聞き捨てならないワードが入っていたんだけど。
「上級神? 私が?」
「違うのですか? 過去に降臨なされた神よりもはるかに強い神気を纏っておられますが」
この世界の神様より強い神気ってどういうこと? あそこに蓄えられてた魔力って、そんなに多かったの?
あまりのことに、今度こそ本当にパニック状態。でも、一人じゃなかったことが幸いしたのよ。
……幸いしたんだよね?
「そこのものに問います。アイリス様が神であることは否定しませんが、過去にこの地に降臨したという神はどのような方だったのですか?」
「えっと、そなたは?」
「アイリス様の眷属で、精霊を主るオランシェットと申します。以後お見知りおきを」
土下座の姿勢のまま見上げる長老エルフに、きれいなカーテシーで答えるオランシェット。
そして先日召喚したドライアドを隣に呼び出してにっこり笑ったのよ。
すると途端にエルフたちがざわめきだしたのよね。森に棲む民と言われるだけあって、ドライアドのことは流石に知っているみたい。
そのチョイスを瞬時にできるなんて流石だなぁと感心したんだけど……ちょっと待て!
私は慌ててオランシェットの肩をつかんで小声で話しかける。
「ちょっと、オランシェット。私が神であることを肯定してどうするのよ」
「ですが、こうでもしないと話が進まないと思いますよ」
オランシェットは同じく小声でそう返すと、視線を前方に向ける。
そこに居たのは神とその眷属、そして呼び出された上級精霊を前にしてより深々と、地面にひたいを擦り付けるようにして土下座するエルフたち。
うん、解ったよ。こうなったらこのノリにとことん付き合おうじゃないか!
私はそう決意しながら、心の中でさめざめと涙を流した。
ホント、どうしてこうなったのよ!?




