66 ビタミンたっぷりのサンドイッチと言ったらこれよね
おいしそうにイチゴジャムたっぷりのパンを頬張るリーファちゃんとメイヴィスちゃん。
そんな二人を横目に見ながら、私はテーブルの上に残っているビンの蓋を取ってベッドで寝ているデリアさんに声をかける。
「デリアさんの分もあるんだけど、食べられる?」
「ええ。この頃はミラベルさんが食事を持って来てくれるから、少しずつ食欲も戻って来ているのよ」
そっか、普通の食事も少しずつしているおかげで回復まではしないけど少しは体力が戻ってきてるみたいね。
それならこれを食べさせても大丈夫かな。
そう思った私はビンの中にスプーンを入れて、中に入っているものをパンの上にたっぷりと載せたんだ。
「あら。さっきのに似てるけど、これはまた違うソースなのね」
するとそれを見たミラベルさんが、興味をひかれたように私の手元を覗き込んできたのよ。
「あの酸味のあるソースは少し黄色がかっていたけど、こっちは真っ白。それに、なんとなく甘い香りがするわ」
「正解。こっちはマヨネーズと違って甘いソースなの」
パンに白いもったりとしたソースを載せ終わると、私はバスケット型のかごバックから陶器のカップを取り出した。
「あれ? これって果物よね。柑橘系の皮をむいたものかな?」
「そうだよ。これから作るのはこの果物を挟んだデザートのようなパン。フルーツサンドよ」
ビタミンと言えばやっぱりフルーツだもん。脚気になってしまったデリアさんには、果物たっぷりのフルーツサンドが一番いいと思ったのよね。
確かビタミンB群は柑橘系に多かったはずだからと、今回持ってきたのはオレンジとグレープフルーツ。
見た目を気にするのならイチゴの方がいいんだろうけど、それはまた今度ということでパンにたっぷりと載った生クリームの中に少し埋めるようにして並べていく。
これが売りものなら切った時にきれいに見えるように並べるんだろうけど、今回はそのまま食べるからこの二つを左右に分けて配置すると、その上からまた生クリーム。
二つの果物が見えなくなったところでパンを載せたらフルーツサンドの完成だ。
それをお皿に載せ、さらにそれをお盆の上に載せてからベッドで寝ているデリアさんの元へ。
食べる時にあふれた生クリームがベッドに落ちたら大変だからね。
「クリームは硬めにホイップしたけど、たっぷり入れた分はみ出しやすいから気を付けて食べてね」
「ありがとう。本当にソースがたっぷりと挟まっているのね」
私はちょっと多すぎかな? と思うくらい生クリームがたっぷりなフルーツサンドが好きだからこのような形になったんだけど、そう言えばヒルダさんは初めて生クリームを食べるのよね。
……ちょっと盛りすぎたかな?
柔らかい生クリームは食べるとパンからはみ出すから、何の包み紙も無い状況だと食べづらいかも? なんて思ったけど、今更ひっこめるなんて出来るはずもなし。
そのまま見守っていると、見ただけで生クリームの特性を理解したのか、デリアさんは少し吸うような感じでフルーツサンドにかぶりついた。
「っつ!?」
するとびっくりしたような顔になってまずはフルーツサンドを、続けて私の方を見た後、またフルーツサンドをじっと見始めたのよ。
そして口の中のものが無くなるともう一口。その二口目を飲み込んだところで、やっと口を開いたのよね。
「何ですか、これ? とんでもなくおいしいんですけど。もしかして、ものすごく高いものなんじゃ?」
「ええっ、そんなにおいしいソースなの、これ?」
ちょっと興奮状態のデリアさんに対して、私がリアクションを取るより早くミラベルさんがその話に食いついた。
「ちょっと、アイリスちゃん。そのソース、私にも一口貰えない?」
「えっ、いいですけど」
私はビンの中からスプーンで生クリームをすくうと、小皿の上にぽてっと落としてそのままミラベルさんへ。
それを指ですくったミラベルさんは、そのままパクリ。
「なによ、これ。すっごく滑らかで……それにとっても甘くておいしいじゃない」
おお、いいリアクションだ。生クリームって、そのまま食べても結構おいしいからなぁ。
某コンビニなんて、生クリームたっぷりのロールケーキがあまりに人気だからって、その生クリームだけを発売しちゃったくらいだしね。
そんなことを考えながらうんうん頷いていたら、ミラベルさんの甘いの一言に今度はリーファちゃんたちが食いついた。
「あまいの!?」
「あーちゃ、あたちも!」
まぁ、そうだろうなぁ。でも生クリームって油を多く含んでるから、食べすぎると気持ちが悪くなる人がいるそうなのよねぇ。
それにこの二人、小さめとはいえもうパンを3枚も食べているもの。あまりたくさんあげるべきじゃないと思う。
「二人にもあげるけど、さっき甘いイチゴジャムをいっぱい食べたでしょ。だから今日はちょこっとだけね」
「え~」
「えぇ~」
ちょっと不満気味な反応だったけど、こればっかりは仕方がない。
「代わりに果物も一緒にのっけてあげるから、今日はそれで我慢してね」
私はそういうと、生クリームの上に大き目なオレンジのひと房を何個かに切って載せてあげた。グレープフルーツはちょっと苦いからね。
「はい。果物がのどに詰まったりしたら大変だから、よく噛んで食べるのよ」
「あいっ」
そして食べやすいようにスプーンと一緒に渡すと、二人ともオレンジごと生クリームをパクリ。
「おいちい!」
「あたち、これしゅき!」
あれ? イチゴジャムの時よりも、こっちの方が反応がいいような?
もしかして二人にも、フルーツサンドを作ってあげた方が良かったのかなぁ。
「まぁ、フルーツサンドはまた今度作ってあげればいいか」
嬉しそうにオレンジと生クリームを食べる二人を見ながら、私はほっこりとした気分になるのだった。




