40 二度目のお家拝見
軽く絶望を感じた(どっちだよ!}けど、今更悔いたところで後の祭り。
それはそれ、これはこれ、心に棚を作れということで今は忘れることにする。
そうと決まればタリスさんたちとは挨拶したし、子供たちにもしておこうかな。
できたら仲良くしたいし。
私はとにかくかわいいものが好き。
こんな自分とは似ても似つかないようなアバターを使っているくらいだからね。
そのリアルかわいい子たちが目の前にいるのだから、最初の印象で嫌われるなんてことは無いようにしないと。
そう思った私はフローラちゃんの前まで行くと、座って目線を……あら? 座るとフローラちゃんの方が高くなってしまったわ。
でもまぁ、立ったままよりはいいだろうとそのままご挨拶。
「フローラちゃん、リーファちゃん。私は隣に引っ越してきた、アイリス・フェアリーガーデンっていうの。仲良くしてくれるかな?」
そう言ってニッコリ笑うと、フローラちゃんはちょっと考えるような仕草で少し上を向き、リーファちゃんはお姉ちゃんの真似なのかな?
その後ろに隠れたまま、よく解らない顔をしながら同じようにちょっと上を向いている。
仲のいい姉妹なんだなぁ。
その光景に私のほほが緩んでいくのを感じていると、考えがまとまったのかフローラちゃんが私を見てこう言ったのよ。
「じゃあ、アイちゃんだ! よろしくね」
「あいちゃんだぁ! よろちくねぇ」
フローラちゃんを見て、慌てて真似をするリーファちゃん。
なるほど、私の呼び方を考えていたのか。
「じゃあ、私は何て呼べばいいの?」
「あのね、私はフロちゃんだよ。こっちはリーファ」
あれ? リーファちゃんには愛称は無いの?
そう思ってミラベルさんを見上げると、この子は妹だからとの答えが。
なるほど、フローラちゃんはお姉ちゃんだから、いつもリーファちゃんを呼び捨てにしてるのね。
「じゃあ、私もフロちゃん、リーファちゃんって呼ぶね」
「うん、いいよ」
「いいよぉ」
私の問いかけに、二人ともニッコリ。
それがかわいくてついニッコリしてしまったんだけど、そんな私の手を引っ張りながらフローラちゃんがこう言ったんだ。
「アイちゃん。お家の中、見ていい?」
「みていい?」
「いいわよ」
可愛らしくお願いされtら断れるはずないよね。
ってことで、本日二度目の内覧会。
二人を連れてドアの所まで行くと、なぜかミラベルさんだけがついてきた。
「タリスは畑仕事がまだ残ってるから」
だから少し首をかしげながらミラベルさんを見るとそんな答えが。
「ああ、なるほど」
さっきは騒ぎが気になって、仕事中に手をとめてここに来たって訳ね。
納得した私は、ドアを開けながらさっきクラリッサさんにした時と同様、土足厳禁だと伝えた。
「家に入る時に靴を脱ぐなんて、変わった風習があるのね」
「でもそのおかげで、家の中が汚れないんですよ」
そう言いながらスリッパを出してあげると、それに履き替えたフローラちゃんたちが家の中へと突入していった。
「私、いちば~ん!」
「わたちも、いちぃ」
パタパタとスリッパを鳴らしながら走っていく二人を苦笑しながら見送ると、私とミラベルさんはゆっくりと中へ。
すると最初の部屋である応接室のところで、フローラちゃんたちが固まっていた。
「ほえぇ~」
「ふわぁ~」
そう言えばこの家の家具ってほとんどゲーム時代のものをそのまま使っているから、結構豪華なんだよね。
フローラちゃんたちは初めて見るそんな家具に、ちょっとびっくりしちゃったみたい。
「これは確かにすごいわね。流石ウォルトン商会の錬金術師。いいものばかりを使ってるわ」
ああ、ミラベルさんもか。
クラリッサさんがあまり大きなリアクションをとらなかったから、こんなに驚かれるなんて思わなかったよ。
でもよくよく考えるとあちらは大商会のお嬢様、それと同列に語る方が間違ってるのか。
そう思った私は、フローラちゃんたちに声を掛けた。
「そんなにびっくりしたの?」
「アイちゃん! すごいね。お城のお部屋みたい」
「おしろみたい!」
その一言で魔法が溶けたのか、大喜びで部屋の中へ。
真っ先に目についたのか、クラリッサさんが驚いたクレイジーブルの革でできた大きなソファーに向かって行ってそのままドーン。
「わわっ! 柔らかくって椅子に食べられてるみたい」
「きゃあ~、たべあれう~」
その柔らかさが気に入ったのか、そんなことを言いながら二人で大笑いだ。
「あらあら、そんなに柔らかいの?」
「うん。干し草より、ず~っと、ず~っと柔らかいよ」
「ここ! ここ、すあって」
リーファちゃんが寝転がってる自分のすぐ横をパンパン叩くものだから、ミラベルさんはニコニコしながらその場所に腰を下ろした。
「あら、本当に柔らかいわ。まるで椅子に吸い込まれて行くみたい」
「ねっ、食べられてるみたいでしょ」
ミラベルさんを見ながら、これはきっとお化けの椅子なんだよって笑うフローラちゃん。
いやいや。それは魔物の皮を使ってるけど、お化けじゃないよ。
「ウォルトン商会のお嬢さんも驚いてたけど、そのソファー、ちょっと柔らかすぎたかな?」
「この椅子、ソファーって言うんですか。こんなの私も子供たちも初めて見るからちょっと驚いたけど、ふわふわですごく座りやすいわ」
ミラベルさんが言うにはぺスパの家では木の椅子が主流で、こんなソファータイプの椅子はまず見かけないらしい。
だから驚いただけですよって言われてしまった。
「慣れてくると体を包み込まれるようでゆったりできるし、かなりいいものなんでしょうね」
「どうだろう? 使っている革自体はいいものだけど、ソファー自体はそれほど珍しい造りじゃないし」
クレイジーブルの皮であることはばれるとまずそうなのでナイショ。
「欲しいなら作らせますよ」
「いえいえ。流石にこれは、私たちの住む家にはちょっとすぎたものですよ」
でも、たまにここで座らせてほしいなぁと笑うミラベルさん。
その横ではフローラちゃんたち姉妹がぐでぇ~ってしながらこっちを見て私も私持って言ったものだから、私は笑いながらどうぞと答えておいたんだ。




