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56.その歌姫は、想われる。

「はぁー久方ぶりに笑い倒した」


 まだ腹を抱えて笑っているアーサーに、好きなだけ笑えとルヴァルは舌打ちする。

 そんなルヴァルの様子を見ながら、喉を鳴らしたアーサーは、


「重症だな。そんなお前が見られる日が来るなんて、夢にも思わなかった」


 新しいおもちゃでも見つけたかのようにそういった。


「まぁでも、今回はお前のとこの使用人が全面的に正しいよ」


 不機嫌そうなルヴァルの横顔を見ながら、


「愛情表現は大事らしいぞ。妻の機嫌を損ねるとおっかない」


 そう言って肩をすくめる。


「……お前に怖いもんなんかあんのかよ」


「あるある。妃の機嫌は、政務に直結するしな?」


 うちの妃は聡明な上に、家臣たちの信頼も厚いからと冗談めかしてアーサーはそういうが、まぁ確かにそうなのだろうとルヴァルは思う。

 たった1つの椅子を射止めた彼女は、公私ともにアーサーを支えており、危険な橋を渡りがちなアーサーの悪癖さえも楽しんで見せる度量がある。


「今日はエレナ嬢に用があったんだが、彼女がいないのでは話にならないな」


 アーサーはトンっと偽造通貨判別機を指で指す。

 ルヴァルがエレナを連れて来て計画を聞いたときは半信半疑だったが、どのような状況下であっても、確実に音を聞き分かるエレナの能力の高さに納得せざるを得なかった。


「沼地の件は?」


「目下調査中。って言っても、ルヴァーが焼き尽くしたせいで何も残ってないがな」


「緊急事態だったんだ。仕方ないだろ」


 視力を奪われた上エレナを抱えていたあの状況ではああするより他に手段がなかった。

 それもエレナがいたからこそ取れた手段ではあるが。


「ノルディア側は?」


「動きなし。が、このまま手を引くとも思えない。涼しい顔をして居座っているよ。あちらの王太子も随分と面の皮が厚いようだ」


 警告した上であからさまに見張りを増やして圧をかけているというのに、ノルディアの王太子カルマからは焦りも苛立ちも感じられない。

 座して機会を待っているのか、あるいはこの状況すら楽しんでいるのか。

 どれほどの手駒を用意しているのか、その手の内が読めないとアーサーは肩を竦める。


「まぁ、陛下の具合が良くないこの状況で事を構えたくはないのだが、向かってくるなら容赦はしない」


 ぐっと組んだ両手を握りしめ、アーサーは険しい顔をする。


「……陛下はそんなに悪いのか?」


「魔毒に侵されているからな」


 魔法が使える魔力保持者は体内に魔蔵と呼ばれる魔力を生成する核を有している。

 魔力保持者の心臓部と言っていいそこが病に侵されるとヒトはたちまち自身の生成する魔力に耐えられなくなり、自家中毒におちいり最期は死にいたる。

 魔毒の原因は未だ解明されておらず、有効な対策もないのが現状だ。


「父上は、もう長くはないかもしれない」


 淡々とそう告げるアーサーの横顔を見ながら、ルヴァルは1回目の人生を思い出す。

 このままだと陛下はこの年の冬を越せず、亡くなるのだ。

 そして、まだ年若いアーサーが即位することになる。現国王陛下が国民に慕われ、賢王と讃えられているが故に、若過ぎる王の誕生を全ての人間が歓迎したわけではなかった。

 それが、反逆者達の追い風になった。偽造通貨でバーレーを陥れ、王家と分断させ、国防最前線は落とされた。

 それは、あってはならない事だった。


「それはそうと、ウェイン侯爵家の次男エリオットが失踪した。ジルハルトはエリオットに呼び出されたらしい」


 アーサーの声でルヴァルの思考が現在に戻る。


「……そうか」


「驚かないんだな」


「なんとなく、そうだと思っていた」


 閃光により視力を奪われたとき、エレナはエリオットの名を呼んだ。

 おそらくあの場にいた術者はエリオットだったのだろう。

 偽造通貨の流れを辿ればウェイン侯爵家に辿り着いた。

 ただ製造に関わっている痕跡も意図的にウェイン侯爵家がばら撒いた証拠もない。

 それだけならウェイン侯爵家はただ嵌められただけと見ることもできたのだが。


「ウェイン侯爵家の後ろには叔父上がいるから、あんまり刺激したくないんだけどねぇ」


 侯爵家の次男がこの件に深く関わっているのだとすれば、ウェイン侯爵家にも管理責任を問わないわけにはいかないだろうなとルヴァルは思う。


「生きていると思うか?」


 魔物が跋扈してたあの状況下で、身を守る術を碌に持たない魔術師にもなれない程度の魔力しか持たない人間が。


「消されてなければ、おそらくは」


 自分と同じ結論をアーサーが出した事でルヴァルは青灰の目を細め、エリオットの顔を思い浮かべる。

 エレナに突き放されて、絶望したような表情を浮かべた身勝手な男の顔を。


「ならば、絶対にエレナに近づかせるわけにはいかないな」


 追い詰められた人間というのは予想だにしない行動を取る。

 逆上しエレナに直接的な危害を加える可能性だって十分に考えられる。

 エレナが傷つくことだけは、絶対に許せないと青灰の瞳に静かな怒りが宿る。

 今にも喉元に噛みつきそうな番犬、といった感じのルヴァルを見てクスリと笑ったアーサーは、


「だというのなら、早急にエレナ嬢に求婚でもしたらどうだ?」


 肩をすくめてルヴァルに助言する。


「はぁ? 求婚って、俺達はすでに結婚して」


 何を言ってるんだと目を細め訝しげに自分を見てくるルヴァルに、


「まぁ、確かに籍は入ってるし、書類上は間違いなく夫婦だがな」


 アーサーはお前今なんで面会謝絶を喰らっているのか忘れてるだろと呆れた口調で言葉を紡ぐ。


「どうせお前のことだから、妻としての役割は求めないだの、ただ利用するために連れてきだのと馬鹿正直に言ってるんだろう?」


 言った。

 確かにエレナを連れてきた当初にそれは言った。

 だが、その当初と比べ互いに2回目の人生を歩んでいると言う秘密を共有した今では随分とエレナとの関係性が変わったのではないかと思っているのだが。


「図星かよ。相も変わらず、不器用だなぁ。お前は。せっかく無駄に綺麗な顔してるんだから、ハニートラップでも仕掛けて裏切らないように骨抜きにでもしとけばいいのに」


 まぁそれができないのがルヴァルという男なんだけど、と腐れ縁の悪友を揶揄うように見たアーサーは、


「自分は言葉にしろと相手には求める癖に、自分の気持ちは察してくれなんて、都合が良過ぎるんだよ。態度でわかるだろうなんて、傲慢すぎる。欲しいなら、ちゃんと繋ぎとめておけ」


 固まってしまったルヴァルに、エレナと向き合うためにやる事があるだろうと促す。

 ルヴァルはエレナの事を思い浮かべる。バーレーに連れてきた当初のエレナは心身ともにボロボロで、今だって完全にそれが癒えたとは言い難い。

 卑屈なまでに身を小さくして、誰かから無条件に愛される事があるなんてまるで考えたこともないかのような彼女。

 それも当然だろうな、とルヴァルは改めてそう思う。

 家族から虐げられて、婚約者からは裏切られ、夫になった男からは金で買われたと告げられた。

 どれもエレナが悪いわけではない。そんな彼女に自分の気持ちを察してくれだなんて、確かに虫が良すぎたと思う。

 そうして思考を巡らせていると、そもそもエレナには自分の事をどう思っているのかと聞いた事がないとルヴァルは思い至る。

 

『私、自分の買取額に見合うくらいこれから一生懸命働くね!』


 以前、エレナに金で買った話をした時、彼女は目を輝かせてこういった。そして、出てきた"愛人稼業"という言葉。

 下手をしたら、自分はエレナからただの雇用主としか思われていないかもしれない。

 それは流石にまずい。


「……具体的には、どうすれば」


 まさか人生上で、この男に恋愛相談をする日が来るなって思わなかった。

 やや苦虫を噛みしめたような顔をして、ゆっくりため息をついたルヴァルは、苦渋の決断でもするかのような面持ちでアーサーに助言を乞う。


「自分で考えろ、と言いたいところだがエレナ嬢が寝込んだままだと俺も困る。ってわけで今回は特別に助けてやるよ」


 ニヤニヤ笑うアーサーに若干嫌な予感がしつつ、他に相談できる当てもないルヴァルは素直にアーサーに従うことにした。

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