68話 最終話
「ウィル皇太子殿下様万歳!! 聖女リネア様万歳!!」
歓声が、帝都中に響き渡っていた。
魔族出現から一年。
帝都は傷を負ったはずなのに——それを感じさせないほど人々の笑顔が溢れている。
復興が早かったのは、ウィルとリネアのおかげだった。
魂が奪われることもなく、都市も最小限の被害で済んだ。
そして今日。
復興祭と、ウィルとリネアの結婚パレード が行われていた。
***
「これで全部片付きましたね」
帝都のレストランのバルコニーからパレードを見下ろしながら、デーンがワイングラスを軽く揺らす。
「ああ。しばらく北部と帝都の関係は安泰だ」
ギーブもグラスを掲げ、満足そうな表情を浮かべる。
「にしても、よく魔族のバックに神族が絡んでたなんて見抜いたもんだな、嬢ちゃん」
鼻歌混じりに手を振っているレティアへ声をかけると、レティアはどん、と胸を張った。
「まぁね。なにせ私は天才大賢者様だから」
「天災の間違いでは」
アレスの突っ込みが即座に飛ぶ。
「アレスってば相変わらず、私には毒舌よね」
「そうでしょうか」
「うん。そうよ」
笑い合い、ふっと静けさが流れる。
「……本当に本来の世界に帰るのですか?」
アレスの声は、かすかに揺れていた。
レティアはバルコニー越しに馬車の上のリネアを眺め、目を細める。
「そうね。向こうに残したものも多いし、一回は戻らないと。
それに……可愛い妹の晴れ姿も見られたし」
「……妹?」
「なんでもない」
レティアは誤魔化すように笑った。
「安心しなさい。私は“この世界の住人”よ。結界に触れても問題ない。貴方の仕事が増えたりしないわ」
そう言うと、アレスはふてくされたように視線をそらした。
その様子に
「不憫ですね……」
デーンが呟き、
「ああ、不憫だな」
ギーブが深く頷いた。
***
「今日はお疲れさま」
帝城の一室。
皇位継承権第一位——ウィル。
そして皇太子妃——リネア。
夜空を背に、二人はバルコニーでワインを楽しんでいた。
「はい。ウィル様もお疲れさまでした。……なんだか夢みたいです」
「夢?」
「力を奪われたあの日は、こんな未来、想像すらできませんでしたから」
リネアは微笑む。
かつて愛した人——アンヘル。
彼は聖女の力しか見ておらず、最後は誰にも愛されぬまま……自らの選択で破滅した。
善意を当然とし、踏みにじった結果だった。
でも——ウィルは違う。
リネアを見てくれる人。
苦楽を共にしてくれた人。
「貴方と出会えて、本当によかったです」
ウィルは穏やかに笑い、肩を抱き寄せる。
「ああ、俺もだ。これからいろいろあるだろう。迷惑かけるかもしれない。それでも……ついてきてくれるか?」
「はい、もちろんで——」
言葉の続きを、ウィルの唇がそっと奪った。
それ以上の答えなんていらなかった。
***
「本当にウィル様にお会いしなくてよろしいのですか」
馬車の中。
ギルディスの問いに、銀髪の少女——デデは深い溜息をついた。
「今さらどの面下げて会えというのじゃ」
ウィルとリネアの幸せな姿を遠くから見届け、そっと帰路についている最中だった。
「力に囚われ、皆を危険に晒したのじゃ。今さら何をしてやれるわけでもない」
デデは馬車の荷台に横になり、窓の外の夜空を見つめた。
月が冴え冴えと輝いている。
「……幸せになれ。ウィル。リネア」
その小さな声は、馬車の軋む音に消えていった。
けれど――確かに。
それは、我が子のように想っていた者たちへの祝福だった。
夜空には、透き通る月が浮かんでいた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!
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