66話 本来の姿
世界が揺れた。
帝都全体がまばゆい光に包まれ、大地が悲鳴を上げるように震えた。
「なんだ!? どうなってる!?」
人々は次々と倒れ、魂が抜けるように意識を失っていく。
ウィルが必死に周囲を見回す。
「デデ!! 何をしているんだ!!」
デデは冷たく笑った。
「何、すぐ終わる。彼らを力につかうだけじゃ」
その瞬間――
「っ!!」
リネアが飛んだ。
戦闘モードへ一瞬で変換し、間合いを詰める。
拳がデデの顔面をとらえ――
がこぉぉぉぉん!!
吹っ飛んだのはリネアだった。
(全力モードでも……弾かれた!?)
リネアの魔石ゲージは――残り2。
平常運転なら十分でも、全力状態だと5分持たない。
(いつもなら……レティアさんが助けてくれた――)
視線の先で、魂の抜けた自分の身体が横たわっていた。
(私がやらなきゃ……!!!)
立ち上がり、腕を大砲に変形。
魔力砲を撃ち放つ――
だが、
霧散。
次の瞬間、反対側から
「ウオオオオッ!!」
ウィルが剣を振り下ろす。
だがそれすら、ひらりと交わされる。
デデの口がゆっくりと上がる。
「なかなかよい連携だ―――が」
次の瞬間――
バンッ!!!!
二人の身体が弾き飛ばされ、建物の壁へ叩きつけられた。
「がはっ!!」「きゃ!!」
重力が十倍になったかのような圧力が、二人を地面へ押しつける。
「しばらくじっとしておれ。
我が神力を取り戻せば、この茶番も終わる。
我が世界を正しく導くのじゃ」
デデが握る水晶が、光を放ち始めた。
——魂を使って、魔族の力を神力に変換するために。
勝利を確信したその瞬間。
ぞわり。
デデの膝が突然崩れ落ちた。
「……な!?」
魔方陣が光を吸い取るはずが――
逆に、力が抜けていく。
「なんじゃ!? なぜじゃ!!」
倒れていたはずのアレスが、血を吐きながら笑う。
「貴方は甘く見ていたのですよ……“あの人” を」
アレスの視線の先――
まばゆい光の中に、金髪の長身美女 が立っていた。
デデの力が、すべてその金髪へ吸い込まれていく。
「な、なにが……何が起こっておる!!」
金髪の美女――レティアが、にんまりと笑った。
「うん★ ごめん。この術式、こっそり全部書き換えちゃった。
貴方の力も魔族の力も、ぜ〜んぶ私にくるようにね★」
「は……? そんなことできるわけが――」
「できないよ。本来ならね」
レティアが指を立てる。
「でも、“リネアの身体じゃ” 無理だった。
魔力耐久が足りないから、魂を抜いてくれて助かったわ〜。
おかげで私、自分のスーパードールに乗り換えられたもの」
デデの顔色が青ざめる。
「う、うそじゃ!!
お主の魂は元の世界に戻ろうとするはず……結界に触れて消滅する――!」
レティアはゆっくりと笑う。
「ねぇ、貴方。
大事なこと、忘れてない?」
デデの瞳が揺れる。
「…………なんじゃと」
「私がこの世界に来れた理由」
空気が止まった。
「結界は、異世界の魂を消す。
でも私は“消えなかった”。
なぜか?」
レティアが一歩、前へ。
「答えは簡単。
私はもともと、この世界の魂だったの。」
デデの表情が崩壊する。
「なっ……!」
「元の世界に戻ったのは、機械で幽体離脱とき――私の魂は“元の世界に戻ろうとした“
――ただそれだけ」
レティアは唇を歪める。
「そして偶然、自殺しようとしたリネアの身体に“入れ替わる形で乗っ取った”」
デデの膝が震え始める。
「本当、おまぬけさん。
相手を殺すつもりが、逆にパワーアップさせるなんて」
舌なめずりをして、レティアは笑う。
「いつから……この方法を考えていた……!」
「もちろん腕輪をくれた瞬間から。
貴方が気づかないと思ったの?」
レティアが振り返り、倒れているアレスを見る。
「それに、貴方はアレスも甘く見すぎ」
「なんじゃと」
「彼、いろいろ“私に気づかせようと”してたわ。
神族しか張れない防御の盾を、これ見よがしに使ったりね」
デデがアレスを睨む。
アレスは血まみれのまま――笑った。








