63話 運命の人!!!(勘違い)
「ああ、ずっと探してたよ。マイハニー。やはり君が僕の運命の人だったんだ」
封印が終わり、私はほっと息をついたその瞬間――
背後から聞こえた異常に甘い声に思わず身体が固まった。
振り返ると、そこには アンヘル皇子 が立っていた。
「アンヘル皇子……」
私は、感情が凍りついた目で睨む。
彼はキラキラと目を輝かせながら、夢見心地な表情で言葉を続ける。
「カミラも、リネアも僕の周りの女どもは最低だった。けれど、君は違う。君は清らかだ。僕が心から愛せたのは君だけだよ。さぁ、一緒に逃げよう」
……え?本気で言ってる?
避難誘導で騎士たちが走り回り、民たちが悲鳴を上げている状況で、
なぜか一人だけ 恋愛脳 している皇子がいる。
(……私なんでこんな人好きだったんだろう……)
さーっと冷めていく私の感情と反比例するかのように彼は頬を高揚させさらに両手を広げる。
「さぁ、おいで、マイハニー!」
そう叫んだアンヘル皇子の背後にウィルが歩いてくるのを見つけて――私は駆けだした。
***
――やはり運命の人は彼女だったんだ。
アンヘルは確信していた。
ピンク髪の少女が駆け寄ってくる。笑顔で、まっすぐに。
その姿が、アンヘルにとって“運命”そのものに見えてしまった。
(リネアは人前で土下座しろと言うような女。
カミラは魔族と契約する屑。
でも、彼女なら……)
自分を受け入れ、敬い、愛してくれるはず。
胸いっぱいに期待を込めて、両手を広げる。
「マイハニー、こっちへ――」
たたたたたっ。
少女は――アンヘルを無視しそのまま素通りした。
……は?
アンヘルは呆然として振り返る。
そこには、ウィルと抱き合うピンク髪の少女 の姿。
「なんで!!なんで君までウィルがいいんだ!!!」
少女は振り返り、冷たい目で口を開く。
「もちろん。貴方より――
優しくて、強くて、かっこよくて、他人を思いやれて……
全部が貴方を上回っているからです」
残酷なほどさわやかな笑顔で言われる。
「……な!? 君は騙されてる!
物事の本質が見えてない!そんな男がいいヤツなわけない!
妾の子だぞ!? 血筋も、地位も、品位も僕の方が上だ!」
少女はふっと笑った。
「物事の本質? 真実の愛? 笑わせないで」
彼女の形がゆらぎ、髪の色が変わり――
姿が変わった。
「本質が見えてないのはあなたでしょう?
私は――あなたが先ほど“最低女”と呼んだリネアです」
ピンク髪は消え、そこに立っていたのは、確かにリネアだった。
***
アンヘルの顔色がみるみる青ざめていく。
「……リネア……? 嘘だ……だって、君は……」
震える手を伸ばすが、届かない。
膝が崩れ、みっともなく地面へ落ちる。
「俺の……運命の人は……君じゃないのか……?」
その声は誰にも届かない。
リネアはもう、ウィルの隣――
彼女が選んだ場所 に立っていた。
「そんな……そんなはずない……
僕が選んだのは……君だったのに……!」
世界から切り離されたように、
アンヘルの呟きだけが虚しく響いた。








