62話 大団円?
ごぉんッ――!
カミラの顔をした化け物を、ピンク髪の少女が上空へ全力で殴り飛ばした。
カミラの身体は空高く宙を舞い――
「んじゃ、いっちょいけやぁぁぁぁぁ!!」
ウィルの剣から放たれた波動が、空中のカミラをまとめて切り刻む。
だが、切り裂かれた肉片は地面に落ちる前に、ぬるりと手足を再生してしまった。
「くっそ、化け物かよ!?」
ウィルが叫ぶ。
「化け物ですよ!」
駆けつけたギルディスが、素早く印を結び始める。
「どうするつもりですかっ!?」
リネアは、落下しそうになるカミラを蹴り上げながら問いかけた。
「わらわ達が封印の魔方陣を作る! それまでお主らは――耐え抜いてれ!」
ギルディスの後ろから、デデが叫ぶ。
「わかった、時間稼ぎなら任せろ!」
ウィルが波動で粉砕し、修復に気を取られたカミラをリネアが再び空へ浮かせる。
地上への被害を最小限に抑えるため、二人はただひたすらそれを繰り返した。
「……あれは、私の天使じゃないか……」
ピンク髪の美少女が空中戦を繰り広げる、その姿を――
遠くからアンヘルが、息を呑みながらつぶやいた。
***
「なるほど。あの霊能者を使ってカミラを封印し、わが主の復活を阻止するつもりですか」
外の気配を察知し、アレスが低くつぶやく。
「そう。魔族はカミラを媒体にして復活しようとしている。でも完全に復活する前に封印されれば――再び封印完了ってわけ」
レティアがアレスを蹴り飛ばす。が、アレスは軽く身を捻り、かわす。
「いやはや、本当に魔族の事を熟知していらっしゃる。……実にやりにくい」
アレスはしゃがみ込み、足払いを仕掛けてくる。
レティアは軽やかに跳び上がり回避した。
「貴方の力なら、復活した魔族ごと闇に葬ることができるでしょう? それを何故しないか、当てましょうか?」
距離を取ったアレスが、ふわりと着地する。
「貴方の名推理を是非聞きたいわね」
レティアも拳を握り、構える。
「簡単なことです。カミラの意識が残っているうちに、我が主の意識がない間に封印すれば――その瞬間だけ我が主の意思は消え、魔族としては別個体になる。私は主不在となり、世界を守る命に準ずる者に戻る。貴方とは敵対関係ではなくなる。しかし……」
アレスの背中から、無数の触手が放たれる。
「主を倒してしまえば、私も消える可能性が高い。だから封印を選んだ。違いますか?」
「この世界に貴方が来たのは、私に隔離されたわけじゃない、貴方にとっては『私を』隔離しただけ」
「よく分かっているじゃない。ちょっとは友情に感動してくれた?」
レティアが聖女の結界を展開し、触手をすべて弾き飛ばす。
アレスは小さくつぶやいた。
「……甘い人だ」
「ん?」
「その甘さは命取りになりますよ。全力で来なさい!!」
空間が歪む。
無数の闇の槍が、レティアに殺到した。
***
「デデ! まだか!?」
どれだけ波動を放ったか分からない。
落としたら街が壊滅する――ただそれだけを考え、ウィルは攻撃を続ける。
カミラの巨大化が加速し、波動だけではもう抑えきれない。
「もう少しじゃ!!」
デデとギルディスの描いた魔方陣が光り輝く。
「できました!! リネア様、魔方陣の中に!!」
リネアが頷き――
全力でカミラを魔方陣の中心へ叩きつけた。
***
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
広場が歓声に包まれる。
デデの魔法陣により、広場からカミラの姿は消えた。
ウィルが勝利を宣言し、リネアは安堵しながら地面に降り立つ。
(……なんとかなってよかった)
魔石はかなり消費したが、まだ少し残っている。
しかし、これ以上長引いていたら危なかった。
(はやくウィル様の所に――)
歩き出そうとしたその時。
「待ってくれ!!」
聞き慣れた声に振り返ると――
そこにはアンヘルが立っていた。
***
「なんとか勝ったようね」
通信の魔道具越しに流れる声で、レティアは状況を把握した。
目の前には、息を切らせて倒れ込むアレス。
異界の魔王を倒したレティアに、アレスが勝てるはずもない。
攻撃を避けるのがやっとだった。
「さて。封印できたし、貴方の主は消滅した。これで貴方を縛るものはないでしょう?」
レティアが手を伸ばした、その瞬間。
アレスが、ガッとレティアの手を掴んだ。
「ん?」
「捨てなさい……今すぐその腕を……ッ!」
言いきるより早く、アレスの口から緑色の液体が溢れ出す。
「なっ!?」
苦しそうに倒れたアレスを、レティアが慌てて抱き寄せた。
「やれやれ。力の一部を取り込まれた程度では……魔族の主従契約は破れない、か」
そうつぶやいて――
彼女が現れた。








