48話 まぁいいか。←いいのか(´・ω・`)?
「早く! 早く逃げるんだ!!」
アンヘルが馬を走らせながら叫ぶ。
すでにかなり距離は稼いだはずなのに、背後の空は魔龍の放つブレスで断続的に明るく染まり、影が地面に踊る。
恐怖が、逃げる者たちの背中を押した。
帝都から来ていた貴族や騎士が必死についていく――。
「ご無事ですか!」
前方から数十騎の部隊が現れ、馬上の男が声をあげた。
皇妃ミネルバの側近、騎士団長だった。
「母上の親衛隊!? 来てくれたのか!」
アンヘルが叫ぶと、騎士団長は馬上で深く頭を下げた。
「ご無事で何よりです。
皇子と帝都の貴族の方々は、この魔導士たちとお逃げください」
魔導士たちが次々に魔法陣を展開する。
「魔力障害。
この魔法なら龍に感知されません。セドム首都へ向かえば、皇妃と皇帝がいます」
「ありがたい!」「助かった……!」
安堵の声がもれる。
魔導士たちがアンヘル達に次々と魔法を施していると、アンヘルの護衛が騎士団長に駆け寄った。
「セドムの貴族どもを、途中で置き去りにしてきました。
砦が陥落しても、しばらくはそちらで注意を引けるかと」
「よくやった。なんとしてもアンヘル皇子を――」
騎士団長の言葉を遮るように、
―――かっ。
闇夜を昼のように照らす、激しい閃光が空を裂いた。
***
何が起きたのか、すぐには理解できなかった。
セドムの騎士たちが城壁から戦いを見守っていた。
突然、視界が白に塗り潰され――誰もが思わず目を閉じ、光が収まったとき。
「……竜がいない」
そして本来竜がいるはずのそこに立っていたのは――光り輝く剣を手にする、青い髪の青年。
ウィルだった。
銀の馬鎧を纏った名馬を操り、ギーブがウィルへ歩み寄る。
ウィルの手を高々と掲げ、大声で叫んだ。
「我らの勝利だ!!
龍を打ち取った勇者――第二皇子 ウィルをたたえよ!!」
わずか数秒の静寂。
「うおおおおおおお!!!!!」
砦中に歓声が爆発した。
***
「……一体何があった」
アンヘルたちを先に避難させ、騎士団長は遠視魔法を使う魔導士に尋ねた。
「魔龍を倒したようです。
砦も無傷――健在です」
その言葉に、騎士団長の顔色が変わる。
(セドムの貴族を囮にしたことが明るみに出れば……
アンヘル皇子の評判は地に堕ちる……!)
「まさか魔龍を倒しただと?」
騎士団長がどなると部下がうなずく。
「しかも……倒したのは ウィル皇子 のようで」
(このまま戻れば、アンヘル皇子が見捨てて逃げた事実が……!
ならば――逆に利用する。ウィルの功績を アンヘルのものにすればいい)
「途中で置き去りにしたセドムの貴族……まだ生きているな?」
「は、そのはずです」
「なら利用する! 行くぞ!」
騎士団長が馬を走らせる。
「特殊部隊はついてこい! 他は皇子の護衛だ!」
「はっ!」
***
「え? なんで俺が倒したことになってるんだ?」
砦の歓声を浴びながら、ギーブに腕を引っ張り上げられたウィルが呟く。
「もちろん。あなたが英雄になった方がアンヘルにざまぁ出来る からに決まってるでしょ」
魔龍の魔晶石を抱えて、レティアが満面の笑み。
「え、そんなの聞いてないんだが? 俺の意思は?」
「聞いたら絶対イヤって言うでしょ?」
レティアがべーっと舌を出した瞬間、
「すごいです……! ウィル様っ!」
リネアが頬を赤く染めて駆け寄る。
ウィルはレティアにツッコミかけて――やめた。
(……まぁ、いいか)
「……それでいいよ」
小さく呟いた。








