47話 リミッター解除
「本気ですか!? 魔龍と戦うなんて……!
いくらあなたが前世は大賢者であろうと、今の身体はリネア様なのですよ!
勝てるとお思いで!? あれは上位魔族と同等の力を持つ竜です!」
走りながら追いついたアレスがウィルへ結界を展開する。
烈火のような風が吹き荒れ、地面が振動する――魔龍の存在そのものが大気を震わせていた。
「言ったでしょ? 神族以外の戦闘には慣れてる って。
むしろ魔物のほうが戦いやすいわ」
レティアは軽い調子で答えながら、魔龍の注意が砦へ向かないよう空を舞う。
「魔物の方が戦いやすいって、どういう理屈だよ!」
アレスの結界の中、ウィルが叫ぶ。
「簡単。魔石なんか使わなくても――」
レティアは舌なめずりした。
「魔力の源が目の前にいる からよ」
「魔力の源って……」
「まさか嬢ちゃん、魔龍から魔力を奪い取るつもりか!?」
ギーブが魔龍のブレスを弾きながら聞く。
「もちろん。魔物って額に魔晶石あるでしょ?」
「ああ。どの魔物にもあるな」
「それをいただくの。
で――魔力そのものの龍をそこに封印して使いたい放題」
「言ってることは理解できました。が、やろうとしてることが理解できません」
アレスが半眼で呟く。
「今さらこいつに常識を求めても無駄だろ」
ウィルが嘆息する。
「流石リネアさんです!」
リネアが戦闘形態で竜の注意を引きながら突っ込む。
「常識とは、十八歳までに身につけた偏見のコレクションである――って誰かが言ってた!」
「誰がだよ!
てか、生け捕りにされて魔力吸われ続ける魔龍って、実は一番不憫じゃないか」
「この世界には魔物愛護団体は存在しないのでヨシ」
「まえから思ってたが、こいつ倫理観やばいだろ!」
「今さらです」
アレスが淡々と言い放ち、
「それが嬢ちゃんの取り柄だろ?」
と、ギーブが豪快に笑う。魔剣でブレスをはじき返す。
「じゃ、封印魔術完成まで時間稼ぎよろしく☆」
「マジかよ!?」
「武器は全部私製だし、リネアもいるから余裕余裕♪
――ってことで、リミッター解除! 戦闘モード・フル!」
レティアの合図に、リネアの魔力が爆発的に跳ね上がる。
(フル戦闘モードのリネアは 5分しか保たない)
(魔方陣の完成は――4分)
レティアが地面に光の陣を描き始めた。
「アレスは私の護衛。ウィルとギーブはリネアの援護」
「了解」
「わかった!」
「任せろ!」
全員が散開した。
***
「いったい何があったの!?」
セドムへ向かっていたミネルバ皇妃が悲鳴を上げた。
彼女の視線の先――夜空が赤く染まっているのが見える。
「セドム国境の砦に、魔龍が……!」
「アンヘルは!? アンヘルは無事なの!?」
「まだ確認できません!」
「騎士団長! 今すぐ兵を連れてアンヘルを助けて!
現場の指揮はあなたに一任します! 何が何でもアンヘルを守りなさい!」
「はっ! 皇妃殿下はセドム首都へ避難を!
そこなら魔術師が結界を張っています!」
馬が砂を蹴り、騎士団長は砦へ駆けていった。
***
――閃光。
魔龍のブレスが夜空を貫く。
リネアは飛行モードで急旋回し、ブレスをかわしながら魔龍の視線を上へ誘導する。
(あと1分……!)
両腕を前に突き出す。
リネアの腕が変形し、魔力砲が顕現する。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」
魔力弾が魔龍の眼へ向けて放たれた。
その瞬間――
「今だッ!!」
ギーブが魔剣に魔力を収束させ、一気に放つ。
刃が光の波動となり、魔龍の片翼へ――
――切り裂いた。
「きしゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
魔龍が絶叫し、翼の一部が焼け落ちる。
「よっしゃ! これで飛べない!」
ウィルが拳を握る。
だが――
怒りに染まった魔龍の目が、地上を捉えた。
その先にいるのは、魔方陣を描くレティアと、それを守るアレス。
「しまっ――!」
魔龍が巨大なブレスを放つ。
「レティアさんっ!! アレス様!!」
リネアが叫んだ瞬間――
アレスが手を掲げる。
巨大な光り輝く十字の盾を展開し、二人を覆い守る。
ブレスが直撃。
轟音。大地が揺れる。
盾にひびが走る。
「まだですか!? レティアさん!!」
アレスの額に汗が流れ、盾は崩れかけ――
「おまたせ――!」
魔方陣が完成した。








