46話 希望の光
「平民は全員、閉じ込めろ!!」
帝都の騎士の叫びに、セドムの騎士は耳を疑った。
「な……何を言っているんです!?
魔龍の進行方向はこちらだ! 城に残せば領民が――!」
「だからだ。」
帝都の騎士は冷たく言い放つ。
「龍は“生きた人間”がいる限り、殺し尽くすまでその場を離れない。
平民を囮にしている間に、皇子と貴族を逃がす。」
「そ、そんな――!」
「階級の低い騎士も置いていけ。
腕の立つ者だけ、皇子の護衛につけろ。」
怒りに震えるセドムの騎士が反論しかけた瞬間――
「私の命令が聞けないのか?」
背後から、アンヘル皇子が現れた。
淡々とした声。
反論の余地はなかった。
「……い、いえ。仰せのままに」
セドムの騎士は震えながら頭を下げるしかなかった。
***
「なんで私たちは出してもらえないの!?」
中流貴族の令嬢が城門で叫んだ。
「騎士と物資に限りがあります。
アンヘル皇子の命令で――
高位の貴族と帝都の貴族のみ避難させる と」
セドムの騎士が答えると、
その場にいた中・下流貴族の顔が青ざめた。
「それでは、ここで死ねと!?
竜がこちらに向かって飛んできてるのを見たでしょう!」
しかし、兵士は首を横に振るだけ。
「命令です」
その間も、上位貴族の馬車だけが城門から出ていく。
「待ちなさい!! 私達も出る!!」
「通せ!!」
叫ぶが、騎士たちは盾で道をふさぐ。
「誇り高きセドムの貴族として、この場に――」
その瞬間。
――「ギャオオオオオッ!!」
咆哮。
夜空が、真っ赤に染まった。
魔龍の吐いた炎が、闇を焼いていた。
その瞬間、城に残っていた平民たちも異変を察する。
「開けろ!! 出せ!!」
「ここにいたら死ぬ!!」
「お願いだから、出して!!」
怯え、泣き叫ぶ声。
それでも――城門は騎士によって閉ざされたまま。
魔龍は迫ってくる。
暗かった空が、炎の光で赤く染まり始めた。
「皇子が俺たちを見捨てた!!」
怒号、悲鳴、混乱。
そして――ついに。
漆黒の翼をもつ魔龍が、城壁の前に着地した。
***
城の方が赤く光っていた。
逃げていた貴族の馬車列が、それを遠くから見る。
「龍は全滅するまでそこに留まる。
今のうちに逃げるぞ!!」
帝都の騎士が叫び、馬車の速度が上がる。
しかし次の瞬間。
帝都騎士の剣が――
セドム貴族の馬車を止めた。
「セドムの貴族はここで待機だ」
「なっ……なぜ!?」
「分かっているだろう?」
冷酷な笑みを浮かべる。
「皇子を守るのが貴族の務め。
竜が来たら――囮になれ」
剣先が、逃げようとする馬車を阻む。
***
「魔龍だ! 魔龍が来た!! 矢を放て!!」
城壁の歩廊で、残った兵士たちが叫ぶ。
「そんなものが効くかよ!!」
「やらないよりマシだ!!」
上級騎士はほぼ全員、アンヘル護衛で外へ出てしまっていた。
残された兵士は指揮系統が崩れ、混乱している。
その時――
「慌てるな!!
魔龍はまだ城壁の外だ!
入ってこられる前に追い出すんだ!!」
外から声が響いた。
兵士が胸壁の隙間から外を見る。
――複数の騎馬が魔龍に戦いを挑んでいた。
「誰だ……!? 皇子か!?」
「違う! あれは――北部の旗だ!!」
騎馬の旗には、北部ランドウムの紋章。
そして――
黄金の鎧をまとい、大剣一本で魔龍に挑む男。
「……あれは!
北部ランドウム領主――ギーブ様!!」
歓声が上がった。
「助かる……! ギーブ様を援護しろ!!」
希望が、城の中に灯る。
***
「まったく嬢ちゃん!!
魔龍なんてとんでもないもんを復活させてくれたな!!」
ギーブが魔龍の爪を剣で受け流しながら笑う。
「私じゃないわ。
どうせ復活したわよ、私が力を注ごうが、注ぐまいが」
レティアは魔龍のブレスを結界で防ぐ。
ギーブはレティアから事前に
魔龍復活の連絡 を受けていたため、
すでに戦闘準備万端だった。
「にしても……倒せるのか? これ」
ギーブの剣から放たれた波動が魔龍に当たる――が、
傷ひとつつかない。
「倒せるに決まってるでしょ?
私を誰だと思ってるの? 大賢者レティア様よ?」
「初耳だ!」
「今言った!」
レティアが楽しげに叫ぶ。
ギーブはにやりと笑った。
「なら見せてもらおうか――大賢者様の実力を」
そう言って、
レティアが作った 魔剣 を手に取った。








