45話 アンヘル皇子万歳!(破滅フラグ)
「アンヘル皇子万歳!!」
北部の鉱山と隣接する領地セドムの城の舞踏会ホール。
豪華なシャンデリアが輝き、音楽と笑い声が満ちていた。
今宵の主役は――アンヘル皇子。
北部が食糧難で弱っている隙をつき、
たった“わずかな田畑と備蓄食料”との交換で
鉱山利権をもぎ取った として称賛を浴びていた。
「北部の魔物を封印させるとは……!」
「さすがアンヘル皇子だ!」
帝都から駆けつけた貴族たちが持ち上げる。
アンヘルは、天使のような笑顔で答えた。
「帝国の繁栄のためになると思ったから指示しただけだよ。
これでまた民たちに富が還元される。私としては嬉しい限りだ」
眩しい笑顔。
それに、貴族令嬢たちが小声で囁く。
「……素敵……」
「皇子さま、かっこいい……」
アンヘルは満足げに微笑む。
そもそも、リネアとウィルの手柄であるとアンヘルは露程にもおもっていない。
昔から、リネアの功績は全部自分のもの だと信じて疑わない男だ。
(ピンク髪のあの子も、この偉業を聞いているだろうか)
好きだと告げたら涙目で逃げた少女。
(きっと照れて逃げたのだろう。
また会えたら、彼女を神殿から解放してあげないと――)
そこへ、部下が報告に来た。
「皇妃様がこちらへ向かっています。明日には到着するそうです」
アンヘルは誇らしげに頷く。
――と。
「殿下!! 大変です!!」
パーティーの入り口から、兵士が息を切らして駆け込んだ。
「鉱山から!!鉱山から!!」
兵士が震える指で、窓の外を指す。
全員の視線が向いた。
窓の彼方――
夜空を裂くように、巨大な竜が飛んでいた。
***
(どうする……どうする……!?)
カミラは自室でぐるぐると歩き回っていた。
リネアとウィルに魔龍復活の罪を着せるはずが、
なぜかアンヘルの手柄として広まってしまった。
皇妃に “危険だからやめた方がいい” とこっそり進言したが――
皇妃は浮かれきって耳を貸さない。
新聞にまで情報を流し、
帝都中がアンヘルの功績で騒ぎ出していた。
(こんなの……予定と違う!!)
魔族との契約を思い出す。
(魂を削って願えば、封印を戻せる?
でも……願いが強いほど魂が削れるって……
前は奇跡的に死なずにすんだだけ……
ここで願えば死ぬ……! それは嫌!!)
壁を蹴りつける。
(全部アンヘル皇子が悪い!
外面だけよくて、中身は浮気性で最低で屑!!)
だが、ふと気づく。
(……結婚はまだ。
失脚するなら切り捨てればいい。
私は関係なかったって顔をすればいい)
呼び鈴を鳴らした――その瞬間。
ガチャッ!!
「カミラ様!! 大変です!!」
神官が飛び込んでくる。
「どうしたの!?」
「セドムの砦の近くで……
魔龍が現れたそうです!!」
カミラは悟った。
……遅かった。
***
「きゃー!! いやあああ!!」
舞踏会の城は、一瞬で阿鼻叫喚と化した。
貴族が馬車へ殺到し、悲鳴が飛び交う。
北部の鉱山は城から近い。
そして――城は高台にあるため、外が見える。
夜空を飛ぶ竜は、恐怖の象徴だった。
「待て! 慌てるな!!」
アンヘルの側近が制止する。
「皇子!! どういたしますか!!」
「貴族だけ避難させろ!!
兵士はすべて貴族の護衛につける!!
平民は……」
迷いなく、吐き捨てた。
「邪魔だ。置いていけ」
その場にいた側近たちは黙って頭を下げた。
***
「なんだか騒がしいな……?」
城門前で、帰宅しようとしていた平民がぼそりとつぶやく。
いつもより城壁のたいまつが眩しい。
そのせいで、外の異変に気づけない。
騎士たちは急いで城門を閉じていた。
平民が外に出られないように。
魔龍がむかってくるとも知らずに。








