44話 問題はそこじゃない!
「リネアたちが、シャーマンの言う通り儀式を行ったのは間違いないわね?」
カミラが満足そうに尋ねると、従者は静かに頷いた。
「はい。密偵からの報告では、封印に聖なる力を注ぎました。
そして……封印を弱める工作も仕込んであります。
魔龍が復活するのも、すぐかと」
(やっと……やっとよ。
前世どおり、魔龍が復活して罪を問われればいい――
あの女もウィルも、私と同じ地獄へ堕ちればいいの)
カミラは口元に笑みを浮かべ、椅子に座る。
回帰前――
儀式は「封印を強めるため」だった。
だが、結果として 魔龍の力を閉じ込めすぎて逆に復活を招いた と判断された。
北部領主は命と引き換えに魔龍を討ち、
それでもウィルもカミラも断罪された。
(今度こそ、あの女を終わらせる)
その時。
コンコン、とノックが響く。
「入って」
扉が開き、神官が駆け込んできた。
「カミラ様、大変です!!」
「どうしたの?」
「アンヘル皇子が、聖女リネアに命じて魔龍封じをさせたと……
街中がその話題で持ちきりです!
聖女リネアと皇子の仲が良いなどと噂になれば――!」
神官は焦っている。しかし問題はそこではない。
(は? リネアとウィル皇子を罪に落とす“予定”だったのに?
なんでアンヘル皇子が出てくるのよ!?)
カミラは従者を睨む。
視線で問いかける。「止められないの?」と。
だが従者は苦しげに首を振った。
「……もう儀式は完了しています。
我々の力では、どうすることも……」
「――あのぼんくら皇子ィィィィィィ!!!!」
カミラの絶叫が、部屋に響き渡った。
***
「さすがアンヘルだわ。鉱山問題を解決して、鉱山を手に入れるなんて」
報告を聞いた 皇妃ミネルバ が、うっとりした声を漏らした。
アンヘルが突然北部に向かったと聞いた時は、
リネアを追って行ったのではと心配した。
だが――
封印を“強化”し、鉱山を再稼働させ、
北部へ 微々たる田畑と二年分の備蓄食料 を渡すことで、
代わりに 膨大な資産を生む鉱山の権利 を得た。
(やっぱり……私の息子は頭が良いのね)
ミネルバは満足げに報告書に目を通すのだった。
***
「まさか、あっさりアンヘルの手柄にするとは思わなかった」
ウィルが半目でレティアを見る。
北部の隣領セドムの兵士たちが、魔物消失の調査を進めていた。
功績はアンヘルのもの。
鉱山の管理も北部ではなく、セドム に移った。
ウィルたちが戻った時にはすでに、
密約が成立していた。
北部は 田園と二年分の食料支援 を受けたが、
鉱山の価値とは比べものにならない。
「レ、レティアさんのことだから……絶対なにか考えがあるのですよね?」
リネアが不安げに聞く。
レティアはゆっくりと立ち上がり、静かに笑った。
「貴方たち……私という人間を、まだ理解してないわね」
「え?」
「相手に勝ったと思わせて――
その後、容赦なく絶望に突き落とすほうが楽しいじゃない」
視線は、遠くの鉱山へ向けられていた。
「だって、アンヘル皇子に連絡したの、私の密偵だもの」
「え!?」「そうなのか!?」
リネアとウィルの声が重なる。
アレスが小さく頷いた。
アンヘルに「手柄を奪え」と吹き込んだのは、
リネアが皇子側に潜り込ませていた密偵――
その密偵を操っていたのが、レティア。
つまり、
アンヘルは罠に飛びこんだだけ。
そもそも、この鉱山は封印を強めようが放置しようが――
魔龍が復活するのは時間の問題だった。
封印の仕組みはこうだ。
昔は周囲の鉱石が魔龍の魔力を吸っていた
採掘により鉱石が減り、「吸収」ができなくなった
溜まった魔力が復活条件を満たした
レティアが封印を強めなくても持ってあと二年
早ければ 一年以内に魔龍は復活していたはずだ。
結局今回の封印の処置をしてもしなくても復活したのである。
リネアを陥れる意図で噂を流した人物は、
魔龍復活を知っていたはず。
だが――
その情報を知らずに権利を貰って喜んでいるバカが一人いる。
アンヘルだ。
皇妃もパーティーを準備しているようなので除外。
デーンが放った密偵の話ではカミラが皇妃にしきりにパーティーを中止し、利権も今は様子見をしたほうがいいと進言していたらしい。
(……ってことは、今回裏で動いてたたのはカミラの可能性が高いわ)
レティアは冷静に思考する。
問題はカミラと契約している魔族。
カミラがしきりに皇妃にパーティーをやめて、利権もセドムに渡したほうがいいと進言しているところをみると、おそらく魔龍の復活をしっていた。そしてリネアを魔龍を復活させた不手際で陥れるつもりだったのだろう。
それなのに事もあろうに、皇子が自分の手柄にしてしまったため、このままいくと魔龍を復活させたのはアンヘル皇子となってしまう。
(さて、突発イベントだけど、しっかり痛い目にあってもらうわ♡
さて、かわいいカミラちゃんは――どう出るのかしら?)
レティアは楽しげに目を細めた。








