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逆襲聖女~婚約解消?わかりました。とりあえず土下座していただきますね♡~  作者: てんてんどんどん@★見捨てておいて コミカライズ開始★


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42話 忌々しい記憶

「聖女カミラ万歳! 聖女カミラ万歳!!」


 歓声が帝都の大通りに響き渡る。

 人々が列をなし、その中心を、白馬に引かれた馬車がゆっくり進む。


 馬車の中で微笑むのは――カミラ。


 北部の鉱山で魔龍を封じ、魔物を消し去り、

 大量の鉱石を発見させた聖女として、帝都中から称賛されていた。


 かつて「力のない聖女」と蔑まれていた彼女が、

 いまは英雄のように歓迎されている。


(あのシャーマンの言葉に乗って正解だったわ。

 私こそが聖女であり、ヒロイン――)


 封印の儀式を行い、魔石へ聖なる気を注いだその瞬間。

 魔物の湧きが止まり、鉱山への立ち入りが再開された。


 北部で大歓迎を受け、帝都では持ち上げられ――

 まさに、絶頂だった。

 その瞬間。


「きゃあああああ!!」


 歓声が悲鳴へと変わる。

 馬車から身を乗り出したカミラの視界に映ったのは――


 巨大な、凶悪な魔龍。


 封印に失敗し、復活させてしまったのだ。


「お前のせいだ! お前のせいだ! お前のせいだ……!」


 群衆が怒号へと変わった。


 がばっ!!


 カミラは跳ね起きた。

 荒い息を吐き、胸を押さえる。


 ……夢?


 思い出したくもない回帰前の記憶。

 シャーマンの甘言に乗せられ、

 魔龍復活の責任をすべて押しつけられ――

 断罪された。


「なんでこんな夢を見るのよ!!」


 カミラは枕を投げつける。


 今ごろ、リネアたちもシャーマンに誘導され、儀式へ向かったはずだ。

 怪我が仮病であることもとっくに報告で知っている。


(あの女も、同じように堕ちる。

 私みたいに地獄を見るがいい……リネア)


 カミラの唇が冷たい笑みに歪んだ。


 ***


「リネア様、お気をつけて!」「期待しております!!」


 北部の砦から馬車が出発すると、なぜか住民が次々と声をかけてきた。


 ……何故、既に広まっている?


「傷を負ったお身体で、我らのために……!」


 拝む住民まで出てくる。


「なんで、これこんなに知れ渡ってるの?」


 レティアが眉をひそめる。


 確かに、アンヘル皇子が再度来たときのため、

「怪我を押して見に行く」という建前にした。


 しかし、


 言い広めろとは言っていない。


 普通なら、情報が一般市民まで降りるにはもっと時間がかかる。

 この世界にはテレビもネットも存在しない。


 たった二日で噂が広がるのは――


 誰かが意図的に流している。


「シャーマン・ガルザが言いふらしたのでしょうか?」


 リネアがきょろきょろ辺りを見ながら言う。


 その可能性もある。

 確認は必要だ。


 だが――


 レティアはふっと笑った。


(仕掛けてくるなら……利用するだけ)


 誰が企んでいるかは問題ではない。

 レティアにとって重要なのは、ただひとつ。


 敵対してくるものには等しく鉄槌を。誰がどう仕掛けてきたのだとしても、結局は最後全員叩き潰すのだ。敵の策略なら利用するだけのこと。


「面白くなってきたわ。ねぇ、アレス、いる?」


 馬車の外を走るアレスへ声をかける。


「はい? どうなさいましたか?」


「ちょっと、デーンの部下に伝言お願いしたいのだけど」


 レティアが口元を寄せ、こそりと耳打ちする。


「……またお前、何かやばいこと考えてるだろ」


 ウィルが腕を組んで突っ込んだ。


 ***


 馬車でゆっくり移動して五日。

 シャーマンに案内された場所は、鉱山から離れた岩場だった。


「こちらに、隠し通路があります」


 岩壁の裏に、魔除けの術式が施された入口。

 レティア、ウィル、リネア、アレス、護衛、神官たちが洞窟を覗きこむ。


 本来なら領主も来たかったが、

 国境付近で魔物が湧いたため対応に追われていた。


「どうして、今までこの通路の存在を隠していたのですか?」


 北部の騎士が問う。


「魔物に追い詰められた時の退避通路です。

 普段知られてしまえば、鉱山発掘のために使われ、

 通路に施した魔除けが壊れてしまいますので」


 騎士は、言葉に詰まった。


 確かに、知られれば皇族派に利用されるだろう。


 レティアが確認する。


「本当に、最深部の祭壇で聖なる石に力を注げば、魔物は出なくなるのですね?」


 シャーマンは頷いた。


 この鉱山には 暗黒竜(魔龍) が封じられている。

 封印が弱まり、漏れた魔力が魔物を生み出しているらしい。


「わかりました。行きましょう」


 レティアが微笑む。


 だが。


 ウィルだけが、険しい表情で隠し通路を凝視していた。


「殿下? どうかなさいましたか?」


 リネアが声をかけると、ウィルは眉を寄せたまま呟いた。


「……なんつーか、マジでここ嫌な感じがする」


「霊感が強い者なら、魔龍の波動を感じても不思議ではありません」


 アレスが言う。


「んー……なんか、そういうのとは違うんだけどな……」


 ウィルはぼりぼりと頭をかく。


「具合が悪いなら、帰りますか?」


 レティアが言うと、ウィルは首を横に振った。


「いや、行く。ちゃんと、自分の目で確かめたい」


 不服そうに眉を寄せながらも、足を進めた。

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