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逆襲聖女~婚約解消?わかりました。とりあえず土下座していただきますね♡~  作者: てんてんどんどん@★見捨てておいて コミカライズ開始★


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35話 誰だよこんな事したのは!!(大体レティアのせい)

「やっとリネアが帝都から出ていくのね」


 ウィル皇子が馬車で出発する姿を、バルコニーから見送りながらカミラはつぶやいた。

 本来なら豊穣祭で恥をかかせるはずだったのに、結果は全て裏目にでてしまった。

 屈辱を味わったのは、自分の方だったのである。


(本当に忌々しい……。だったら最初から北部に追いやっておけばよかった。でももういいわ。あの二人は、北部で勝手に破滅する)


 唇に笑みを浮かべながら、カミラは遠ざかる馬車を見送った。


****


「帝都領を出たぞ! いよいよ北部だな!」


 馬車の中、ウィルが嬉しそうに声を上げる。

 豊穣祭が終わった直後、ウィルとレティアには“北部行き”の勅命が下った。

 そのままリネアも同行し、今は北部へ向けて旅立って三日目になる。


 一応、護衛としてアレスも同行しているが、護衛の数はたった四人。

 皇族の旅としては、あまりにも質素だった。

 泊まる宿も、町民が使う普通の宿ばかりだ。


 けれどウィルは、初めての長旅がよほど楽しいらしく、道中を満喫している。


「ずいぶん楽しそうね。北部は長年、皇室と揉めている領地よ?

 そこへ実績のない皇族が食料支援の指揮官として乗り込んでも、歓迎なんてされないわよ?」


 レティアが呆れたように言うと、ウィルは胸を張って笑った。


「もちろん分かってる。でも、不遇なのは今さらだろ?

 少なくとも、リネアやレティアと会うのにコソコソしなくていいし、ずっと一緒にいられる。それだけで十分だ」


 そう言って笑うウィルに、リネアの頬がぽっと染まる。

 それを見て、レティアはため息をついた。


「……それ、本人の前で言う?」


「え? なんでだよ。二人は俺と一緒が嫌なのか!?」


「そ、そんなことありません! うれしいです!」


 慌てて否定するリネアに、ウィルが満足げに笑う。

 その空気に、レティアが苦笑いを漏らした。


「でも……北部に行くと、食料支援は“聖女が来たから”と打ち切られるはずです。

 そうなれば、ウィル様やレティアさんへの風当たりも強くなります……大丈夫ですか?」


 リネアの不安げな言葉に、レティアは肩をすくめる。


「そんなの今さらよ。むしろ“ざまぁ相手”が増えるだけで上等じゃない」


「おう、俺も平気だ。なんとかするだろ――こいつが」


 ウィルが親指でレティアを指す。

 リネアは思わず笑い、そして頷いた。


 ……そのとき。


 ガタンッ!


 馬車が、森の中央で急に止まった。


「なんだ!?」


 ウィルが剣の柄を握り、身構える。

 リネアも戦闘モードのボタンを出そうとしたが、レティアが止めた。


「大丈夫。ここで力は使わなくていいわ」


 そう言ってレティアが馬車を降りると、外は暗殺者ギルドの集団に包囲されていた。

 アレスが張った結界が、馬車を守っている。


「どうなってる!? 誰の差し金だ!」


 ウィルが剣を抜いて叫ぶ。

 いくら皇妃に冷遇されていても、皇族を暗殺すれば反逆罪。

 そんな無謀を誰が――と思った瞬間、レティアがぶりっこ口調でこう答えた。


「もちろん、わ・た・し!」……と。


****


「リネアが暗殺者に襲われたですって!? で、無事なの?」


 帝都の皇妃の私室で、報告に来た騎士団長へミネルバが問う。


「はい。負傷はしましたが、アレス様の対応で無事でした。

 現在、現地に調査員を派遣しています。……ただ、使われた闇ギルドが問題です」


「まさか……」


「はい。『黄昏の闇』です。

 このギルドを動かせるのは、皇妃様の利になる立場の者だけ。

 敵対する依頼主なら、依頼した時点でこちらの指示通り暗殺されるはずです」


 その言葉に、皇妃の顔色が変わった。

 つまり――犯人はアンヘル、カミラ、もしくはグレ枢機卿や皇妃を信望している貴族だ。


「依頼主は分かっているの?」


 騎士団長は首を横に振る。


「秘密主義が裏目に出ました。指示役は全員、現地で護衛に殺されたようです」


「暗殺者を殺せる護衛なんて……まさか」


「アレス大神官です。ここまで強いとは想定外でした」


 皇妃は唇を噛みしめる。


「……わかったわ。誰の指示か分からない以上、夜盗の仕業にしなさい」


「はっ」


 騎士団長が深く頭を下げる。

 皇妃は心の中で、次々に名前を思い浮かべた。


(アンヘル? それともカミラ? あの子はリネアの北部行に異様にこだわっていた……。

 でもローレの件で怒っていたから、気が変わって暗殺を目論んだとしても不思議じゃない。

 とにかく――捜査は有耶無耶にしておくべきね)


(それにしても、厄介だわ……)


 手にしていた審議書を、皇妃はぐしゃりと握りつぶす。


(リネアが負傷した以上、食料支援の打ち切りも難しくなる……。

 まったく、余計なことをしてくれたわね。誰の仕業か、調べなくては)


 皇妃は紙束を丸め、壁に叩きつけた。


****


――話は少し遡る。


「こんなことをして、ただで済むと思っているのか」


 死体が転がる執務室のような部屋で、暗殺者ギルド、黄昏の闇のギルドリーダーが呻いた。


「さて、どうでしょうか?」


 狂気を宿した瞳で笑うデーン。

 その足元には、すでに息絶えたギルド員たちの亡骸が転がっていた。


「皇妃がお前を許すものか! 北部の領主と繋がっていることは分かっているんだぞ!」


 リーダーが叫ぶが、デーンは穏やかに笑う。


「初めから皇妃に逆らうつもりの人間に、そんな脅しが通じるとでも?

 悪名高い“黄昏の闇”のリーダーがこの程度とは……失望しました」


「な、なんだと……!」


「貴方も暗殺部隊と共に現地で死んだ――そういう筋書きです。

 さぁ、逝ってください」


 デーンの背後から、副リーダーが姿を現した。


「ま、まさか……お前……!」


 リーダーは悟る。

 ――この依頼自体が罠だったのだと。


「今までありがとうございました、リーダー。

 あとは私が引き継ぎます」


 その言葉と同時に、リーダーの首が宙を舞った。


「まったく、自分で暗殺者ギルドに依頼して、そのギルドを乗っ取るとは……やることが大胆なお方だ」


 ごろんと落ちた首を見つめて、デーンがつぶやくのだった。

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