33話 貴方にこの花を贈りましょう!(決め顔)➡困惑
「豊穣祭の最終日に聖女の祈りの儀式?」
ドーナツを食べながら、ウィルがリネアに問うとリネアが頷く。ウィルとリネアは変装しお互い髪色をかえお祭りの広場に集まっていた。
豊穣祭がはじまってから28日目。長かった豊穣祭の期間も終わろうとしている。
その豊穣祭の締めのイベントとなるのが今日の開花式だ。
6年に一度の祭典に二人の周りには聖女の祭典を視ようと人がかなり集まっている。
ウィルとリネアは普通に町民が儀式を見守る会場で立ち見。
レティアとアレスは神殿の参加者として神官達の位置で観戦していた。
「はい。最後各国の聖女が集まってそれぞれ花を咲かせるのです。その花の咲き具合で、聖女の優劣を決める……みたいな行事になっていますね」
広場に設けられた祭壇を見上げてリネアが言う。
「最初の大会議といいこの二か月にいろいろ行事があるんだな。最後は、威厳の見せつけあいか。ずいぶんな儀式だな」
ドーナツをぱくぱく食べながら言うウィル。この儀式は6年に一度あるもので、各神殿から一人代表者が選ばれる。当時はまだ聖女としては若かったリネアは観戦する側だったので、参加したことはない。
今年のレティアやアレスたちと同じく聖女の観戦席でみていただけだ。
今年は中央神殿はカミラが花を咲かせることになっている。
リネアがチラリと祭壇の豪華な控えの場に視線を向けると、カミラとアンヘルが仲良く並んでいる姿がある。それが悲しくてあわてて視線を逸らすと、ぐいっと手を引っ張られた。
「え?」
慌てて視線を向けるとそこには手を繋いでいるウィルの姿がある
「いや、悪い今人の波に流されそうになってた」
そういって、リネアを自分の方に引き寄せる。
その手のぬくもりが温かくて
「すみません、ありがとうございます」
リネアは嬉しくて微笑んだ。
***
(やっとこの日がきたわ)
広場に集まった人々を見渡しながらカミラは心の中でにんまりと笑う。
(前世では、リネアがこの儀式で金の花を咲かせた。でもリネアの力は私のものになったのだから、私が金の花を咲かせるはずよ)
ひと際高い位置にある祭壇の見晴らしのいい席で、集まる人々の前で手を振りながら、カミラはふふと笑う。カミラの前に用意されているのは不思議な花で、聖女の祈りによって咲く花が変わる。その花の大きさと色で、聖女の力がわかるといわれていた。回帰前、リネアはこの儀式で大きい金色の花を咲かせた。
(リネアの力を奪ったのだから、私も金色の花が咲かせられるはず)
そう思い、チラリと視線を、神殿関係者がいる席に向ける。端の方に所在なさげに立っているリネアを確認して、カミラは満足した。
(リネア、私が金色の花を咲かせて皆に賞賛される姿を見ているといいわ。この日のために北部に送るのを遅らせていてあげたのだから……それに)
カミラは視線を西部の神殿代表であるローレに向けた。
回帰前では西部はこの儀式は別の聖女が代表だった気がするが、リネアばかり気にしていたので覚えていない。だが、どうせ大した花は咲かせられないだろう。金色の花を咲かせたらさぞ悔しがってくれるだろう。
グレ枢機卿が挨拶をし、そのまま各地の聖女が植えられた植木鉢の前に立つ。
まだ芽の状態の植木鉢に手を伸ばし――カミラは目をつぶり祈った。
そして――
「金色の花だ!! すげぇぇ!!」
「信じられない!」
「美しい」
と、観客席から歓声が一斉に沸く。
(ふふ。どう?ローレ。貴方なんて私の足元にも及ばないのよ)と、カミラがうっすらと目をあけ……カミラの前に咲いていた花は青い花だった。大きさも微妙で歴代聖女の中で立派といえる代物ではない青い花が咲いているのだ。
(……え?)
カミラが恐る恐る視線を向けると……金色の花が咲いていたのは……ローレの方だった。
「どうなってるの!?」
会場の控室に戻るなり、カミラは置いてあった花瓶を叩きつけた。
ガシャンと盛大に花瓶が壊れる。
「カ、カミラ様……」
控えの巫女が怯えたように後ずさるが、カミラはかまわず壁を叩いた。
控室の外ではいまだに興奮鳴りやまぬようで、聖女ローレの偉業をたたえる、歓声が沸き起こっている。
金色の花を咲かせられる聖女は初代聖女並みの聖女の力と言われている。
その花がローレに咲いたのだ。これでローレは金色の花を咲かせられる聖女として金色の瞳をもつカミラと同等……今後の実りの成績自体ではカミラを超えてしまうことになる。
(金色の瞳をもっているのは私なのに!! 許さない。許さないわローレ!!)
***
「何かしました?」
祭壇で金色の花を嬉しそうに掲げるローレを見ながら、アレスがレティアの耳元で小声で突っ込む。
「花の方にちょっとね」
と、答えるレティア。今日の式典のために、あの花を調べた結果。あの花は豊穣の女神の恩恵の力をはかるための花だとわかった。太古の昔に豊穣の力を測定するために作成された花なのだと推測される。その花をちょっと細工して、ローレの花は金色の花になるように細工をしていたのだ。
今頃カミラはさぞかし悔しがっているだろう。
これで、カミラの嫌がらせのターゲットはローレに向くはず。
しばらくはリネアの方への嫌がらせの手は弱まるだろう。
北部に行って力をつけてる間にちょっかいをなるべくだされないように、敵意を別に向けておく必要がある。ローレは西部の神殿の力と本人の力、そして彼女自身がカミラと争う気があるといううってつけの人材だ。
そんなことをレティアが心の中で悪い笑みを浮かべていると、ローレがいきなりレティアの事をがん見してきた。
慌てて、レティアが視線をそちらに向けると
「それでは、この花は……聖女リネア。貴方にプレゼントいたします」
祭壇からなぜかローレが嬉しそうにレティアに向けて黄金の花を差し出した。








