28話 約束が違うじゃない!!
(うふふ。悔しがってる、悔しがってる)
レティアは心の中でほくそ笑んだ。
リネアが聖女として普通に会議へ参加すると知ったときの、カミラの悔しそうな顔。思い出すだけで笑いがこみ上げる。――よほどリネアを出席させたくなかったのだろう。
『やりましたね、レティアさん! カミラがすごく悔しがってますよ!』
隣でふよふよと浮かぶリネアが、頭の中に話しかけてきた。
デデが売ってくれた魔導ピアスのおかげで、ふたりは思考をそのまま共有できるようになっている。
『ガルザ族の巫女様に頼んだ甲斐があったわね。高額な交通費もグレ枢機卿に押しつけたし、マジ最高☆』
レティアがそう答えると、リネアは嬉しそうに何度もうなずいた。
以前なら「そんなことして大丈夫でしょうか?」とおろおろしていたはずだが、最近のリネアは少しレティア色に染まりつつある。
――とてもいい傾向である。うん、たぶん。
そんなことを思いながら、レティアは気弱なリネアを演じて、おずおずと控えめに席につく。
隣から放たれるカミラの「気に入らないオーラ」を浴びながら、心の中で小さくガッツポーズをした。
やがて会議は、女神像に宣誓する役を誰に任せるかという、どうでもいい議題に移る。
『カミラが私に出てほしくなかったのは、この件があったからでしょうか?』
『おそらくね。宣誓の儀――リネア、選ばれるのはあなたよ』
『え!? 私ですか!? まさか!?』
レティアの言葉に驚くリネア。
その直後――。
「はい、私は宣誓の儀にリネア様を推薦いたします」
黒髪の美貌を持つ西部の聖女ローレが、真っ先に挙手した。
「私も異論はありません。リネア様を推挙します」
続けて、東部の聖女セレンも発言する。
東西の聖女は仲が悪い。
ゆえに、互いの陣営から誰かを立てるよりも、関係のない中央の聖女を推薦しようとするのは自然な流れだった。
カミラがグレ枢機卿にまで手を回し、リネアの会議出席を拒んだのは、まさにこの展開を恐れていたからだ。
案の定、隣からカミラの不機嫌オーラが滝のように流れてきて――レティアはうっとりと目を細める。
『いやぁ、たまらないわ。この感じ♡』
『はい! いい気味ですね!』
『リネア、自分で言うのもなんだけど、ちょっと私に毒されてない?』
『そうでしょうか?』
うん、やっぱり少し毒されてる。でも女は強い方がいいと、誰かが言ってた気がする。
そう思いながら、レティアは教皇に呼ばれ、静かに立ち上がった。
心の中で、カミラに勝ち誇りながら――。
***
「グレ枢機卿! 約束が違いますわよ!!」
大会議が終わるやいなや、カミラは廊下で枢機卿に詰め寄った。
彼の隣には付き巫女が控えている。
「カミラ様、今はそのお話は――」
「リネアが宣誓者に選ばれてしまったじゃないの! この責任、どう取ってくれるのよ!!」
怒りに震えるカミラ。
せっかく回帰前の知識を活かして邪魔をしたというのに、名誉ある宣誓者にリネアが選ばれてしまったのだ。
力を奪っていたため、前世のように女神像が光る最悪の事態にはならなかったが、それでも屈辱には変わりない。
――どんっ!!
背後で、何もないのに花瓶が盛大に落ち、音を立てて割れた。
途端、グレ枢機卿の顔が真っ青になる。
「聖女カミラ!! その話はあとでと言っているだろう!!!」
怒号に、カミラはびくりと身をすくめた。
これまでなら、皇妃の後ろ盾ゆえに逆らうことなどなかった男が、今は恐怖に駆られたように怒鳴っている。
(な、なんで!? この男、私のしもべのはずなのに……!!)
「それでは失礼する!!」
グレ枢機卿はそのまま立ち去ろうとしたため、カミラが抗議しようとしたが部下が立ちはだかり、カミラの行く手を遮った。
「な、何なのよ!!」
カミラの叫びが、虚しく廊下に響く。
――その様子を、柱の影からレティアとリネアがニマニマ眺めていた。
「最高♡」
花瓶を落としたリネアにガッツポーズを送り、リネアも嬉しそうに「やりました!」と返す。
これで、“除霊に失敗した原因はカミラがトラウマを刺激したせい”という筋書きが完成。
デデはまだ霊がついていると偽って、枢機卿からぼったくり放題、カミラと枢機卿の仲は決裂――完璧な展開である。
「あなた、本当は魔族でしょう?」
背後でアレスが半眼で言う。
「甘いわね。魔族は使命をまっとうする種族。感情だけで動く私の方が、よっぽど上よ」
「……一体何を競ってるんですか……」
アレスが呆れる中、レティアは胸を張る。
「これでしばらく、あの男から金をむしれるのぉ。……そうじゃ、レティア」
一緒に様子を見ていたデデが思いついたようにレティアを見る。
「うん、何?」
「稼がせてもらう礼じゃ。受け取るがよい」
そう言って、デデは腕輪を差し出した。
「これ、リネアと話せるピアスみたいな能力あるの?」
「いや、特にない。ただの“おまじない”じゃ。これを毎日つけておると運気が上がるらしい。神に近い我らの言い伝えじゃから、効果はあるぞ。遠慮なく使うがよい」
にっこりと笑うデデに、レティアは「ありがとう」と言いながら腕輪をはめた。
エメラルドグリーンの宝石が、きらりと光を放った。
いつもお世話になっております!!
ポイント&ブックマーク&リアクション&誤字脱字報告ありがとうございます!!
読んでいただけて大感謝(๑•̀ㅂ•́)و✧
35話~40話付近で訂正しないといけなくなる(かも)なシーンがあるので、今日から更新を隔日にさせていただきます!!
ラストまでばっちり書けて矛盾が生じないのが確定したらまた毎日更新に戻しますので何卒よろしくお願いいたしますー!!( •̀ ω •́ )✧








