27話 もうなんなんのよぉぉぉぉ!!!
今日はカミラが待ち望んだ大会議の日。
前世ではグレ枢機卿の付き巫女として、彼の背後で控えるだけだった。だが今回は――中央神殿から選ばれた「聖女」として堂々とこの場に立っている。
(この会議で、リネアが豊穣の女神の宣誓者に選ばれたのよね……前の人生では)
カミラは中央の女神像に目を向けた。
四百年前からあると伝わるこの像は、中央・東部・西部の神殿それぞれに一体ずつ存在し、女神が選んだ聖女に祝福を授けるといわれている。
宣誓の義では、会議に参加できる聖女の中から一人が選ばれ、誓いの言葉をこの像へと捧げる。
その祈りに応じ、女神像が光を放てば――女神に愛された子として、国中から称えられるのだ。
だが、像が光を宿した記録はたった三度。三百年前、百年前、そして五十年前。
もはや伝説と化していたその奇跡を、前の人生で成し遂げたのが、よりにもよってリネアだった。
(東部と西部の聖女が、そろってリネアを推薦したのよね……あの犬猿の仲が、なんで)
カミラは苦い記憶を噛み締める。
だが今回は違う。リネアは付き巫女としての参加。宣誓に選ばれる資格はない。
少なくとも――そう、思っていた。
けれど、なぜかグレ枢機卿の隣ではなく、聖女代表として列席するリネアの姿が目に入る。
(な、なんで!? グレ枢機卿の付き巫女が別の子に!?)
信じられず、グレ枢機卿を睨みつける。
だが彼は気まずそうに目を逸らすだけだった。
(やめてよ……また前みたいに、あの子が選ばれたら……!)
嫌な予感が胸を締めつける。
そして――
「私は、宣誓の義にはリネア様を推薦いたします」
東部の聖女ローレの声が響く。
(もうなんなのよぉぉぉぉ!!!)
カミラは内心で頭を抱えた。
***
話は数日前へと遡る。
「よいか、グレ枢機卿殿。悪霊化しかけておるメリルを成仏させるには――彼女の“願い”を叶えるしかないのじゃ」
祈るようにすがる枢機卿へ、デデが低く告げる。
部屋の四方には結界の紐と無数の札。静寂の奥で、かすかに何かが叩く音が響いていた。
「付巫女になれなかったメリルを鎮めるには、彼女に似た外見の者を“代わり”に立て、除霊の儀を行うしかない」
「で、ですが……聖女カミラが――」
言いかけた瞬間、
――ガン、ガン、ガンッ!
外から激しい衝撃音が鳴り響いた。結界の紐が震える。
「見よ。お主がリネアに手を出そうとしたせいで、あの霊の怨念を刺激してしまった。
聖域である神殿の中、そして我の結界でも浄化できぬほど荒れ狂っておる。霊の中でも最強部類じゃ。これ以上刺激すれば……神殿ごと呪い潰すぞ」
「ひ、ひぃぃ……!」
「だから言う通りにせい。アレスに頼み、霊を降ろせる巫女を探しておる。
その巫女にメリルの魂を仮憑依させ、会議に出し、そこで願いを果たさせるのじゃ」
「わ、わかりました……!」
グレ枢機卿は膝をつき、深々と頭を下げた。
もはやカミラの命令など聞いている余裕はない。
もし大会議中にメリルが暴れでもしたら、中央神殿は終わりだ。自分だけでなく、一族ごと粛清されるだろう。
(カミラには知らせないで内密に進めねば。どうせまた皇妃を使って邪魔をしてくる……)
こうして、リネアは聖女として参加し、付き巫女はメリルに似た少女へと差し替えられることになった。








