22話 皇子<(妾にした方がいいのでは?) 従者<(怒)
(――どうもやる気がでない)
アンヘルは執務室で書類を書きながら頭をかかえる。
「アンヘル様、お茶を」
執事がアンヘルにお茶を差し出し、アンヘルはそのお茶を一口飲み……ため息をついた。
「これは本当にいままで飲んでいたお茶なのかい?」
今まで飲んでいたお茶との味の違いにアンヘルは眉をひそめた。このお茶はもっとこくがあり、心がやすらぐような香りだったのに、今は苦みが強くなり、つんとした匂いもきつくなっている。リネアが祈るのをやめてカミラの祈りになってから味も効能も落ちたという噂通りだ。
アンヘルの問いに執事は困ったように頷いた。
「はい。このお茶葉今年収穫したものです――」
「もうリネアが祈った年の茶葉は残ってないのかい?」
「――はい。申し訳ありません」
執事の答えにアンヘルはため息をついた。
カミラの祈った作物は確かに収穫量は多い……が、質が悪いという報告が上がっている。調べさせたところ、味が落ちたと輸出が減っているというのだ。
この大陸は帝国が治めているが、海を渡れば別の王国が複数存在する。彼らはカミラと別の聖女をあがめ、祀り、その聖女たちに祈ってもらっている。
(他の国では味が落ちたなどの報告は聞かない。やはり帝国で変わった事と言えば、祈る聖女がリネアからカミラにかわったことだ)
「母上はこのことを知っているのか?」
もともと婚約者をリネアからカミラに変えろと指示してきたのは、皇妃ミネルバの指示だ。彼女はどう思っているのだろうと聞くが執事は困ったように視線を彷徨わせる。
この様子だと誰も進言できていないのだろう。
母の機嫌をそこねると、僻地に移動や、酷いと爵位の取りあげなどがあるせいか、誰も逆らえない。
溺愛されているアンヘルを除いて。
「やはりリネアを僕の妾にしたほうがよかったのではーー?」
ウィルと仲良く手を繋いで廊下をかけていくリネアの姿が脳裏に浮かび、アンヘルがぽつりとつぶやいた。確かに母親に言われて別れたが、彼女に愛着がなかったわけではない。
最初は伝説の黄金の瞳をもち心優しいと噂のカミラと婚約に浮かれはしたが、付き合ってみるとイメージが違った。どうしてもリネアと比べてしまう。
何より、あの無能なウィルと付き合うということが、許せなかった。
「アンヘル殿下、そ、それは……彼女は力をなくしていますし……」
執事が困ったように言うと
「でも、戻るかもしれない。手元には置いておくべきだ。お前には迷惑はかけない。母上に会いに行くぞ」
と、立ち上がった。
***
「リネアとウィル皇子に尾行がまかれた?」
皇城に用意された、カミラの部屋で、商人を呼んで宝石を買いあさっていると、部下の一人が報告してきた。ウィルとリネアの面会日、護衛など全て引き上げさせたが、リネアとウィルの醜態を調べるために尾行はつけていた。が、それをどうやら見失ったらしい。
「はい。二人が何をやっていたかまでは把握できませんでした」
「そう、なら仕方ないわね」
そう言ってカミラは商人が持ってきた高価な宝石を手に取る。
(どうせ二人とも北部送りにしたら破滅よ。無能な皇子と聖女として断罪される手はずだもの。北部に行ったが最後。北部もろとも滅んでもらうわ)
前世で、カミラが北部で失態してしまったように、リネアも同じ目にあわせないと気が済まない。カミラが大罪人と処刑された理由は北部にある。それは北部の鉱山だ。
北部の鉱山にウィルとともに送られてしまい、そこでやってはいけない大失態をおかした。
そのせいで北部の砦も領地も壊滅し、甚大な被害をもたらしてしまったのだ。
(今世ではあなたが断罪される番よ。あのウィル皇子も北部の領主もみんなまとめて死ねばいんだわ)
回帰前の記憶がよみがえってきて、ふつふつと怒りが沸いてくるがカミラは首を横に振る。今回はリネアにその罪をかぶってもらう。その為の計画はすでにたててある。
本当はすぐにでも北部に送ってしまいたいが、まだリネアにはカミラの活躍をみてもらわないといけない。北部へ送るのはもう少しだけ先だ。
「それと気になる事がもう一つ……」
「何?」
「アンヘル殿下が二人をしきりに気にしていました。噂では妾にする話まであるとか……」
その言葉に一瞬カミラの動きが止まる。
(まだ皇子はリネアに未練があるというの?忌々しいっ!!絶対リネアに恥をかかせてやるんだから!!)
カミラは手に持った宝石を床にたたきつけた。








