第18話 暴力は全てを解決する(大事な事なので二回いいました)
ぼかっ!!!
カジノの用心棒らしき人が飛んだ。リティアさんとウィル様はバックヤードに連れていかれ、「イカサマやってるだろう?吐いてもらうぜ」と、すごまれていた。レティアさんが知らないと反論すると、用心棒らしき人が暴力をふるってきたのだけれど、……もちろん、吹っ飛ばされたのはカジノの人の方だった。どんどん援軍がくるけれど、それも全員吹っ飛ばしていく。
私とウィル様は二人並んでその様子を見ていた。
「なぁ、あの女いつもあんな感じなのか」
ウィル様の問いに、私はあははと苦笑いを浮かべて
「大体あんな感じです」
一瞬、どう答えようかまよったけれど正直に答える。毒を飲んだりクレーネ様達に暴力をふるったり、容赦ない時は本当に容赦がない。
「ひぃ、ゆるしてくれ!!」
カジノ用心棒らしき人が、命乞いをするように言うと、レティアさんがにぃっと笑った。
「そうね。じゃあとりあえず貴方達のリーダーが戻ってくるまで顧客情報でも見せてもらいながら、待たせてもらいましょうか?」
と、用心棒の人を踏みつけた。
***
「何事ですかっ!?」
カジノの支配人茶髪の長身の男デーンが驚きの声を上げた。
自らの執務室に戻るなり、縛られて転がっている用心棒達と、部屋の隅で小さくなっている従業員たち。そしてデーンの支配人専用の豪華な席には見知らぬ銀髪の少女が座り、ソファには、黒髪の青年が座っていた。少女と青年は仮装用のマスクをつけているところから、カジノの客のようだが……。
「デーン様」
用心棒たちがすがるようにデーンを見る。デーンの護衛が構えるが、デーンがそれを手で制した。
「何故このようなことをしたかお伺いしても?」
「イカサマをしたと難癖をつけられ暴力を振るわされそうになったので、こうしました。正当防衛です」
少女がふふっと笑いながら、手近にいた用心棒を軽く小突く。
「……映像は確認したはずですよね。魔力反応は」
デーンが聞くと、用心棒たちが頭を横に振る
「え、映像では魔力の痕跡は見られませんでした」
「ではなぜイカサマだと判断したのですか?」
「30戦して全勝ですよ!?ありえますか!?」
「証拠があったわけではないのですね?」
デーンの問いに用心棒はぐっと息をのむ。
「私が不在の間に余計な事をするなと指示したはずです」
そう言って、デーンは視線を少女に戻した。面白いものを見るかのように見ている少女はどこか異質さを感じた。歳は16歳前後といったところ。正直小娘といって差し支えない。それなのに彼女から感じるオーラは熟練の魔術師を彷彿とさせ、彼女の瞳は動物を狩る前の肉食獣だ。背を向けたら途端に喉元を食いちぎられそうな気迫をかんじ、デーンは息をのむ。
デーンはもともと小さな商家の一人息子だった。商家を、一代でのし上げた。
一代でそこまで大きくできたのは、彼独特の嗅覚で利益になることを察知し、同時に危機を感じ取り未然に回避できていたからこそだろう。
デーンのカンが告げている。この少女に逆らうのは悪手だ。
「申し訳ありませんでした。これは支配人たる私のミスです。こちらの不手際のため、慰謝料を含め多めに払わせていただきます」
デーンは深々頭をさげると、連れの従者に
「払ってください。もちろん色を付けて」
と、指示をだす。
「あら、ありがと♡」
少女は否定することなく、それを受け取った。
「それで、どうしたら許していただけるでしょう?」
少女にデーンが問う。そう彼女ははじめから金銭が目的ではない。
執務室のテーブルに置かれた資料。
そこには顧客情報がずらりと並べられている。
その書類はすべて皇妃派の貴族の関係者ばかり。
(――これは脅しだ。おそらくこちらの正体がばれている)
デーンが皇妃派を一掃するべく動いているという事実に気づいているという脅しをかけてきているのだ。
「私、頭のいい人間は好きよ」
そう言って、少女は立ち上がる。そしてデーンの前に来ると、
「剣闘士を一人買い取ってほしいの」
と、囁いた。








