第17話 バカ皇子<(もう別の男と!?) 従者<(……)
「殿下どうかなさいましたか?」
皇城の渡り廊下。第二皇子のウィルとリネアが手をつなぎながら、どこかに向かう姿を見かけてアンヘルは歩をとめた。
「あれは?」
アンヘルに問われて従者がリネアと第二皇子の姿を確認し、「ああ、あれはウィル第二皇子と聖女リアナ様ですね。婚約するお二人の顔合わせの日だったと思います」と告げる。
「大体初顔合わせの時は会話したあと街を散策する風習はありますが……供一人つけられないとは、よほどウィル様は人望がないと見える。恥ずかしい」
その言葉にアンヘルは眉根を寄せた。
従者としては供もつけられない哀れな皇子ウィルと嘲笑しているのだろうが、それよりもアンヘルが気になったのは、リネアの方だった。
「私の婚約者だったのに? もう別の皇子と婚約を?」
「……皇妃様のご命令ですので」
アンヘルの声に怒りを感じて、従者がおずおずと答える。
「リネアはあんな屈託なく笑う女性だったのか……」
ウィルの腕を引っ張りながら笑顔で歩くリネアを見つめ皇子はぽつりとつぶやくのだった。
★★★
「なぁ、なんで俺達こんなところにきてるんだ」
貴族相手の煌びやかなカジノで、ウィルが薄目で突っ込んだ。
全員身分を隠すためか、マスクをした状態でカジノに参加している。
「ここは闘技場と伝手がありますから、買い戻すのでしょう?」
前にいたレティアが上目遣いに言い、すぐ視線をそらす。
「私、カジノなんてはじめてです」
ウィルの隣のリネアが目を輝かせてきょろきょろしている。
その呑気な様子にウィルは内心大きなため息をついた。
「なぁ、俺達まだ会って数時間もたってないよな? カジノに来るほど親密な仲だったか?」
「人付き合いで大事なのは過ごした時間ではないわ。交流をかわした密度よ」
前を見ながら真顔で言うレティア。
「いや、密度とかそういう以前に、俺達交流すらなかった気がするんだが」
ウィルがレティアに抗議するが、「貴方カードゲームやったことある?」と完璧に無視された。
「ん?まぁ、ギルディスと小さいころやっていたことはある。もちろん金はかけてないが」
小声で答えるウィル。
「じゃあ、これだけあるから勝ちまくって増やしてきて」
そう言ってレティアが金貨10枚をウィルに渡す。
「は!? そんな強いわけじゃないぞ俺!?」
「勝てそうな時勝負にでて、負けてる時は降りればいいだけよ。そんなの簡単でしょ?」
「んな、簡単にいうけど、そんなことできるわけが……」
「簡単じゃない。相手のカードの内容がわかるんだから」
そう言ってレティアはリネアの方に視線を向けた。
その視線にリネアとウィルが視線を合わせ……『なるほど』二人そろって納得した。
「ウィル殿下。いま勝負にでたら100%勝てます」
カードゲームのテーブルで、三人の相手をしているウィルにリネアが囁いた。
あれから、レティアの言う通り、リネアが相手のカードを確認し、そのままウィルに報告しているので、勝っているときは勝負。負けているときは降りるを繰り返し常に賭けには勝っている状態だ。こいつ強いと噂され、こぞって皆勝負を挑んでくるため、ウィルの周りには人だかりができている。
――目立ちまくっているけど本当にいいのかこれ。
カジノであまり目立てば、オーナーに目をつけられることがあるのはウィルでも知っている。常に相手の手の内が読めているような行動をとるのは自殺行為だ。
ウィルが冷や汗をかきながら、隣にいるレティアに視線を向けるが、やれといわんばかりににっこり笑って威圧してくる。
――知らないぞ。俺は。
「チェック」
ウィルの言葉と共にそのテーブルについた五人がカードをだすと、歓声があがった。
ウィルの勝利に皆どよめく。
「絶対いかさまだ!」
「いや、神の加護があれば可能なのかもしれん。そういう加護があるってきいたことがある」
「でも、それって加護を使ってるならやっぱりイカサマじゃないか?」
「神をイカサマ扱いするとは何事だ!」
と、当人たちを無視して盛り上がるギャラリーたち。そんな中ーー
「お客様、少しよろしいでしょうか」
と、明らかに係員と思われる黒いスーツをきた男達にウィルとレティアは囲まれる。
――ほら、やっぱりこうなったじゃないか。
ウィルは薄目でレティアを睨むのだった。








