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瞑々に唄え  作者: 卯ノ花 腐
あのスポットライトを僕だけに
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第五十二話 戦略的撤退と言えますか?


 陣達がスーパーに入ってから暫く様子を伺っていた。どうやら一緒にご飯を作るみたい。


「ねぇ、フドー。このまま陣の家に押しかけるのはどうかな?」


「あまり得策とは言えんな。そもそもお前があの中に入っていったら混沌とするのは目に見えているからな」

 


 大きな身体で商品棚から二人をのぞき込む不動明。


「おじさん、どいて。お菓子が取れない」

 小さな男の子が不動明の身体に隠れたお菓子を指さして言った。



「ふむん......すまない。これが欲しかったのか。どれ取ってやろう」

「ありがとうおじさん!」


「気にするな。俺は年下に優しい男だ。だが、おじさんじゃないぞ」


「うわー! 変なおじさんがお菓子コーナーにいる! 俺知ってる! こーいうひとってふしんしゃって言うんだろー! ふしんしゃだー」

 その小さな男の子の友達が何人かやってくると不動明を指さして口々に「ふしんしゃ」と罵った。


 傍から見ている分にはちょっと微笑ましい。けど、周囲のざわめきに私は少しばかり嫌な予感が過った。


「ちょ、ちょっとフドー? 出なおそっか」

「おい! 君! 俺はおじさんじゃないぞ!? まだ十六だ!」


「うそだー! ふしんしゃが嘘言ってる!」


 周囲の子供からの嘘つきコールが始まった辺りで私は不動明を連れてスーパーの出入り口目指して走る。



「あぁ......もう!」


 不動明の掴みやすい部分を手にしてその場から逃げる。ちらりと振り返ると陣があの冬姫さんと楽しそうに挽肉のパックを手にしていた。




――陣、私の事を置いていかないで......。放置しないで。




「おじさんじゃない! おじさんじゃ......っておい氷川! 髪の毛を引っ張るな!」


「うるっさい!!!」


 目じりに溜まった涙が揺れる身体に合わせて零れ落ちそうになった。







「――全く、探偵なら尾行くらいまともにしたら?」


 スーパーの駐車場で不動明を正座させながら私はどうしようか決めあぐねていた。


 このまま帰るのも気に食わない。多分家に帰っても悶々と過ごすだけだろう。陣と冬姫さんがこれから何をするのか気が気ではいられない。


 かといって家に行こうにも陣の家を知らない。不動明は知ってる筈だけど教えてはくれない気がする。


「はぁ......」


「おい、俺を見て深いため息を零すな」


「はぁ............」


「より深くなってんじゃねーか。えぇ? おい」


 痺れはじめたのか、砂利の付いたズボンを叩きながら身体を起こす不動明。


「どうする、このまま帰るのか?」


「それは嫌。どうせ家に帰ってもやる事ないし......陣とあの女が一緒にいるって思うとなんか......嫌だし」


 左耳辺りにある水色のヘアゴムにそっと触れる。そう簡単に外れる訳はないのに少し心配になってあるかどうか確認してみた。ヘアゴムは確かに私の色素の薄い髪をまとめあげ、存在していた。


 はぁ......。なんだか空回りしている気がする。遊園地で彼と結んだ契約は確かに私たちを繋ぎ止めた。決して離しはしない二人だけの楔。


「陣が言ったんでしょう......魔女と使い魔だって......」


「あん......なんだぁ? 魔女? 使い魔?」


「あんたには関係ない事。私と陣だけの秘密」


「へーへー。......ったく......こうも動き回ると喉が渇くな」


 首元のボタンを外し開放感を感じた不動明は鞄から財布を取り出し自販機の方へと向かってゆく。



「あ、いいとこあった」


「ぐぇ......あばぁ!!??」


彼の『喉が渇いた』という発言で一つの妙案が思い浮かぶ。


 咄嗟に彼の襟元を掴んだため、引き殺されたカエルの様なうめき声を上げアスファルトに後頭部を打ち付ける。


「いいとこってなんだ!? 天国の事を指して言ってんのか!?」


「え、何言ってんのこわ......」


「お前がこえーよ!?」



 私は少し笑みを携えて、アスファルトで寝転がる不動明に手を差し伸べる。



「おすすめのカフェに連れて行ってあげる。学校一の美少女とカフェデート、どう?」







* *







「こんにちわ......」


 スーパーから十五分程住宅街を歩いて見えてきた質素な公園を抜ける。すぐそばの雑居ビルの階段を昇り重たい扉を開いた。手作りの看板はいつもとかわらず渇いた音を立てて私を出迎えてくれている。


 店内は白熱灯で揃えらえ、どこか温もりを感じる。家では感じることのない特別な温もり。


 店内のインテリアはセンス良く様々な物で溢れかえっていた。アイアンのスツールやミモザのドライフラワーもいつもと変わらない。その事に安堵を感じる。


「いらっしゃいませー......って霧華ちゃん!」


 店内の静かなムードからかけ離れた随分と朗らかな声が私の名前を呼んだ。


「一夏さん、お邪魔します」


 彼女は一夏さん。初めてここ『オリヴィエ』に来た時から私の事を気に入ってくれているのか良く構ってくれる。私もそれが嬉しくてここに通うにつれて仲良くなった。


「やぁーん! その髪型も可愛い! 似合ってるね......ってあれ? そのヘアゴムもしかして......」


「えと......たまたま、ですよ。ホントに!」


「あれあれ~? まだなにも言ってないけどなぁ~」


 随分と一夏さんは楽しそう。眼が山なりを描き、にやけを隠そうともしていない。


「霧華ちゃん、いらっしゃい」


 そんなやり取りをしていると、カウンターからどっしりと重みのある声が飛んでくる。この店のマスター、宗森さんだ。


「あ、マスターさん。お邪魔します」


「さぁ、好きな所へかけて。ひとりかい? 残念だけど陣君はお休みでね」


「あぁ、今日は一人じゃないんです......ってあれ」


 そこまできて漸く気が付く。そういえば不動明の気配がない......?


 辺りを見回しても見当たらない。おかしい、あれ程の巨体がどこへ......。と目を走らせていると入り口の扉で止まった。



 スチールでできた重そうな扉が少しだけ開き、顔の三分の一程飛び出した不動明の顔がそこにあった。



「......なにやってんの」

 私は深いため息とともにその扉に声をかける。正直羞恥で居たたまれない。他のお客さんが一人しか居なかったのが幸いだ。



「おい......途中からもしかしたらって思っていたんだ......場所が場所だったからな」


 蚊の鳴くような小さな声だった。普段の彼の声とはかけ離れている。


「......で?」


「たのむ......帰っていいか......後生だ......」


「なんでそんなに帰りたがってるのか分かんないんですけど? 不動明ってこういったお店苦手?」


「いや、そういう訳じゃあないんだが......」


 尚も言葉を濁す不動明。すると、


「うん? ふどーみょー?」


 私の言葉に反応を示した一夏さんが目線を追い扉の方へと顔を向ける。




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