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瞑々に唄え  作者: 卯ノ花 腐
あのスポットライトを僕だけに
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第四十九話 名探偵の助手


 突然固まり出した不動明を放置して私は階段を駆け下りる。室内靴のソールが冷たい廊下と擦りあい甲高い音を上げる。




――私は酷くイラついている。


 この事を誰にも話せない事が更に苛立ちを募らせる。



『冬姫 舞桜』――彼女が現れてから私はイラつくことが多くなった。ムカつく、腹立たしい、気に食わない。


 そしてそれ以上に――私を構わない陣に苛立ちが募る。


 あなたは私の使い魔なの。ならば陣がいるべき場所はあんな女の隣ではなく、私の隣であるべき。そんな事はきっと彼も分かっている筈だ。


 きっとあの女だ。アイツが私の使い魔を奪って行った。許しはしない。




 廊下を下りきり、目の前の下駄箱に目をやる。部活に赴く様々な生徒で溢れかえり思うように前へと進めない。あぁ、面倒......。


 制服の色が跋扈する付近で立ち止まる私。すると、



「ふむん......すこしは頭を使え」


 立ち往生していた私の肩を軽く後ろから引いたのは先ほど固まっていた不動明だった。ずい、と入れ替わる様に前へと躍り出る。横顔がどこか頼もしく思えた。


「痛って......おいお前! 俺は急いでんだよ邪魔な奴......だ、な......」


 猛然と駆ける生徒の群れをかき分けるように不動明はその巨体をより大きく揺すりながら足を進める。


 彼の鬼神の様な表情に回りの生徒たちは一歩、また一歩とその道を譲り次第には下駄箱までの道が開いた。


「やべぇ! 不動明先輩だ! ヤラれる!」

「あいつがあの......!」

「おい、目を合わせるな! 告白されるぞ!?」


 随分と酷い言われようだった。 



 彼の内面を知っているクラスメートはそうでもないが、下級生や他クラスの生徒は彼を知らない。心無い言葉を投げかけるその光景に少し虫唾が走り咄嗟に口を開こうとしたその時、



「おい、今はそんなことどうでもいいだろう? お前にとって何が今一番なのか思い出せ。えぇ?おい」


 不動明がスニーカーに履き替えながらそう口に出した。首だけ捻り、頬を釣り上げた様な笑い顔をこちらに寄越す。


 私は開いた口を少し停止させて、閉じた。彼の背中が随分と大きく見える。


「それもそうだね」


 大きく空いたスペースを駆け抜け、私もスニーカーに履き替えると二人して校舎を出る。





 五月の蒼天の下、ジリジリと熱気がこみ上げてくる。夏はまだしばらく先だというのに肌は少しずつ季節の移ろいを感じている。


「あん? あいつらどこ行ったよ?」


 奇妙な帽子を被りつつ、不動明は辺りを見渡す。


「不動明......その帽子、なに?」



「ディアストーカーだ助手よ。知っているか? かのホームズは述べた。『事件は会議室で起きてるんじゃあない。現場で起きているんだ』とな」


「そう。それで陣達はどこに言ったと思う?」


「陣......俺はこいつと上手く会話出来る自身がないぞ。えぇ? 陣」

 どこか落ち込むような表情をみせ、その場に伏せる不動明。



 流石にもう学校には居ないかな? さっき見た様子だとどこかへ向かっている様にも見えたけど......。もしかしてオリヴィエ? それとも......まさか、どっちかの家、なんて事は無いよね? 


「これを言うのはフェアではないが......言わないのもどこかフェアじゃあない、か」


 すくっと立ちあがると不動明はこちらをじっと見つめてくる。


「なに? 何か隠している事でもあるの?」


 含みのある言い方をする不動明に少し焦りを感じ語句を強くしてしまう。先ほど彼に助けて貰ったばかりだというのに......。


「......あいつらは別に付き合っている訳じゃあない」


「ちょっ......と、まって......え?」


 突然の情報に私は戸惑いを感じずにはいられず、思わずたたらを踏んだ。


「けど、本人たちがそう言ったってクラスの子から聞いたんだけど。実際私も聞いたし……」


「......この事を誰にも言うなよ。少なくとも陣の不利益になることはしないという点に置いては“信頼”しているんだからな」


「当たり前じゃん」


「王子......冬姫舞桜に、脅迫文が届いた」


 きょうはくぶん......脅迫文。普段ドラマや映画の中でしか耳にしない単語だから直ぐには理解できなかったけど、どうやら少し雲行きが怪しくなってきた。


「王子様の態度が気に食わない人間がいるらしい。そこで彼女は陣に助けを求めた。『()()()()()()()()()()()』とな」


「そんな回りくどい事する前に教師にでも言ったらいいじゃん。なんで陣なの」


「そこは俺も思ったが......まぁ、陣がそれを引き受けた以上俺たちがどうのこうのと言うべきではないだろう」


 いまいち納得のいかない私はやや目を伏せて足元を見る。校庭の芝生は私の気も知らず青々と輝いていた。少しばかり気に入らず、踏みつけていた足に力を篭める。ふわりと青臭い匂いが微かに鼻腔をくすぐった。


「だが、問題はここからだ」


 校門の方へと顔を向けていた不動明がしっかりとこちらに向き直り目線を合わせる。


「なんとまぁ、同じ脅迫文が陣の家にも投函されたんだ。王子様に乞われたその帰りにな」


「え? だって犯人は冬姫さんが目的なんでしょ? 陣は関係なくない? なんで陣がそんな目にあうの? おかしくない?」


 ダメ――駄目。陣は、彼はそんな境遇に合うべき人間じゃない。


「なんで......だろうな。分からないから俺は陣と共にそれを調べることにしたんだ」

 不動明が顎に手をやり、何かを考えている様な表情を作る。



「それって陣が......陣が危険な目に合うかもしれないってことじゃん、かぁ......」


 まだ学校の敷地内にいるというのに私は涙が零れ落ちそうになる。彼の事を考えると途端にメッキが剥がれた様に脆くなる、という自覚があった。


 どうすればいい? 私は私に問いかける。


 土砂降りの雨の中彼は私の手を引いてくれた。「見過ごせなかった」と言って。当初はうざい、関わらないでって思っていたけど、今ならその気持ち、凄く良く分かる。



 私の安寧は彼の傍だけ。彼を守ることは、ひいては私の安眠を守るという事。正当防衛だ。うん、これが理由。これだったら陣と学校で触れ合える。だってちゃんとした理由があるもん。きっと陣だって分かってくれる。





 出来た仮初の大義を胸に顔を上げる。涙は引いた。私は私で彼を手助けする。その結果があの女を助けることになるのが気に食わないが、今はおいておこう。


「ねぇ不動明――改めて、私を助手にしない? 陣には振られたんでしょ?」


 一瞬あっけに取られたように目を見開く不動明。うん? 何か怯えるように小刻みに震えている気がする......?


「わ、わかった。いいだろう......。だから振られたって言い方はやめろ! えぇ? おい!」


 あぁ、そういう事ね。私は思わずくすりと笑みを浮かべた。


「よろしく、探偵さん!」

 彼の頭に乗っかっていた、なんとかって帽子を剥ぎ取って装着する。うん、酷く収まりが悪い。


「名探偵フドー、と呼べ。助手よ」


 すると彼は鞄から何かを取り出そうと漁りはじめた。


 暫くその様子を伺っていると、ズルズルと白い布きれの様なものを取り出した。


「助手ならばこれを着ろ! フリーサイズだからお前でも大丈夫だ」


 見た所、真新しい白衣の様に見える。って......え、まさか、私がこれを着るの?


「ちょ、ちょっと待って、不動明。このコスプレみたいなの......私が着るの?」


「“フドー”だ、助手。さぁ! さっさと着替えて奴らを追うぞ! そして陣にせまる危機を俺たちで払うぞ!」



 意気揚々と私に白衣を押し付けると、ものすごい勢いでその場から駆けだしていった。一人残された私は白衣と彼の背中を見比べながらぽつりと呟いた。


「......月曜日って憂鬱」


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