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瞑々に唄え  作者: 卯ノ花 腐
あのスポットライトを僕だけに
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第四十七話 犯人登場?

「おいおい? お前俺と昼食買いに行く約束を忘れてたのかよ? えぇ?おい」

 教室でやけに寂しげな雰囲気を醸し出す岩山があるなぁと思っていたらなんとびっくり俺の親友 不動明 幽だった。


「いや、すまん本当に」

 返す言葉もなく俺はただただ頭を下げた。俺は岩山に頭を下げる奇特な人間では決してない。


「まぁいい。もしもの為にと俺のロッカーにはカップ麺が常備されているからな。それを使った。この代償は高くつくぞ?」

「安い代償だな」


 休み時間もあと五分で終わりを告げる。各々が次の授業の準備を整え始めていた。

 それで、とちらりと俺の方へと顔を向ける幽。どこか期待の眼差しが含まれている。



「今日から本格調査だな。名探偵フドーの名を天下に知らしめよう。助手よ」

 あぁ、なんで今日一日こいつが張り切っていたのか漸く分かった。


「その事なんだが......」

 濁すように言葉を泳がせる。


「うん? どうした助手よ! ......あぁ! お前用の服がない事に腹を立てていたんだな。安心するといい。きっちりここに――」


「本当にすまん。今日は無しでいいか? 今日の放課後、冬......舞桜に料理を教えることになった」

 俺は誠心誠意を篭めて両手を合わせる。


 瞼の力を抜き、少しばかり目を見開く。


「探偵コスを用意してきた。サイズフリーだから誰でも気兼ねなく使えるぞ! そうだな、放課後は一度お前の机で集まろう。そして王子の後をしっかりと調査するんだ。あからさまに怪しい奴がいたらそいつにも注意を払おう。万が一という事があるからな。あと、事前に王子の帰宅ルートを聞いといてくれるか? その方が俺たちとしても動きやすいし」



「いや、本当にごめんごめん! 許してくれ! お願いだから白目を向きながら壁に話しかけるのを止めてくれ!」


 眼前の光景を受け入れたくは無かった。

 幽の不可解な行動に周囲の生徒たちが騒めきだした。



「......あたしもう知らないから! 陣の馬鹿! あほ! 寝顔が引くほど気持ち悪い!」

「最後のは言わなくて良くない!?」

 うそー。俺の寝顔そんなに酷いの?


 目に涙を溜めてドスドスと床を踏みしめながら幽は教室を出て行った。


 自然と周囲の生徒の目が、教室に取り残された俺の方へと向く。


「烏羽って王子様と出来てたんじゃ......?」

「不動明君と王子様の二股ってこと?」

「そういえばいつも一緒にいるもんね」

「どう見ても天秤壊れてるよな烏羽って......」

「不動明 幽......ライバルね。いいわ。恋の敵ってのは、より強い方が良いものよ。燃えてきちゃうわ!」




 幽の背中を掴もうと伸ばした手がだらりと力なく頭を垂れる。


「はいはーい。みんな、もう授業始まるわよ......って烏羽君!? めちゃくちゃ顔色悪いけど大丈夫!?」


 チャイムと同時に古文担当の新見先生が教室の扉を開いてやってきた。入って来るなり俺の姿を視界に入れぎょっとした顔を作る。




 ――どうやら俺は本格的に月曜日に嫌われているらしい。




* *



 俺はホームルームを終えると我先にと、一番早く教室を飛び出し冬姫の教室の前まで向かった。


 冬姫も俺を待ちわびていたようで自身の教室ではなくその前の廊下で佇んでいた。



「......で、その子、()()?」

 俺は胡乱げな視線を送りつける。


「なに......とは?」

 俺の質問の意図が分からない様に小首を傾げる。


「あぁ!? 王子様! その角度も良い! 最高です!」


「いや......そこは分かれよ。今絶賛お前を盗撮してるやつだよ」


「いえ! これはれっきとした撮影です! 盗撮ではありません!」

 随分と小柄な生徒がこちらに食って掛かった。


「あ、すんません盗撮さん」

 悲しいかな俺はその鬼気迫る姿勢に怯えて咄嗟に謝ってしまう。


「あのですね......私は王子様と同じクラスの大鬼(おおおに) 美是(みぜ)というもので盗撮という名前ではないです!」


 小さな体をずいと俺の前まで寄せた随分と小柄な女の子――大鬼さんは顔を真っ赤にしてこちらを睨みつける。

 少し明るくさせた髪をゆるくサイドテールにくくっており、動く度にその毛先が撥ねる。前髪は眉のあたりできっちりと切りそろえられている。そんな彼女の手にはしっかりとカメラが握られていた。


「そもそも! 貴方だれですか! 男子のくせにそんな髪伸ばして! 根暗ですか貴方。あと黒目がちっちゃいですね! 怖いです!」


 初対面の人間にここまで言ってのけるのはある意味で大物なのかも知れない。


 俺と同じ身長の冬姫の傍に居るためか、大鬼さんは随分と小さく見える。いや、実際に小さいな。多分百五十もないんじゃないか。


「失礼な! ギリのギリギリであります!」

「心を勝手に読んでくるな!」

「読まれるような単純な思考回路を持つ貴方が悪いんです!」


 ふーふーと怒りを表すように犬歯を剥き出しにする大鬼さん。俺、なにも悪い事してないよね......?


「まぁ、まぁ、落ち着いて。陣は悪い人じゃないんだ。ただちょっと見た目がアレなだけなんだ」

「アレっていうなアレって」


「はい、王子様」

 目の中にハートマークでも浮かんでそうなほど溶けた表情で頭を撫でる冬姫に頬を寄せる。


「それよりも、早く帰ろうぜ......腹、空いてんだろ?」

 彼女の作った弁当を分けたものの公平に半分とは言えなかった。俺でも今は小腹が空いているというのだ。冬姫はもっとだろう。



「そう......だね。すまない。撮影はここまででいいかい? これから彼とデートなんだ」

 そっと膝を折り、大鬼さんと目線を合わせる。


「デー......と?」

 言葉は聞き取れたずだが、理解が追い付いていないのだろう。呆けた様に口を半開きにさせている。


「そう。彼は、その......恋人なんだ......僕の。だからこれからデートに行くんだよ」

 冬姫は少し照れ臭そうに右耳の裏をかいた。耳元にぶら下がるシンプルな銀色のピアスが少し、揺れる。


「そう、なんですか......へぇ、王子様が」


 大鬼さんが手にしていた大きなカメラから嫌な音が鳴った。


 知らず内に彼女の手に力が込められていたのだろう。その音に気が付いてから慌てるようにカメラから手を放す。幸い首からストラップをかけていたおかげで地面に叩きつけられるような悲惨な事にはならなかったが......。



 これは......ひょっとして――。


「だから、悪いな大鬼さん。こいつ、借りるわ」

 俺は咄嗟に冬姫の手を握りその場から立ち去った。


「彼氏さんなら......しょうがないですよね。本当に――しょうがないです」


 振り返りながら「すまない」と謝る冬姫に向けて晴れやかな顔で見送る大鬼さん。その顔はなんというか、まぁ......随分と無理をした笑顔の様に俺は思えた。


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