こんにちは、アンダーワールド(1)
リュウがライオネルと出会う、二日前のこと。
さらわれたリコを取り戻すべく、リュウとナツミそしてシオンは大男の背中を追いかけていた。
「……ハア、ハアッ。 くそ……ッ!」
でかい図体をしている割に、大男の駆ける速度ははやい。それに、体力も相当あるらしい。走るそのフォームに一切のブレがない。
彼はまさしく精錬され磨き上げられた戦士だ。
「リュ、リュウ! あれ見てっ!」
「……もうこんな近くにまで来てたのか」
並走しているナツミの指さす先には、例の白い王宮がそびえたっていた。
それを一目見たシオンの顔に、しわが生じる。
心境を察したリュウが彼に一声かけようとするが、
「覚悟はできてる、よな……?」
重ねるようにして、シオンが言葉を発した。
リュウやナツミに投げかけたのか、それとも自身に問いかけたのか。
駆け抜ける森のどこかから、ガサリと音した。
夕闇に遊ぶ、一筋の風だった。
通ってきた細道が開ける。
森の中から、リュウたちは飛び出した。
出口の外は、王宮の裏側のようだ。
裏口のそばで、二人の人物がやりとりをしている。
「…………頼んだぞ」
「承知いたしましたわ」
彼らの視界に入ってきたのは、リコをさらった大男と、黒いローブを纏った小柄な人物だった。声からして、シオン達よりも少し年上の女性だろう。
小柄な人物は、大男からリコをお姫様だっこの形で受け取る。
「追い詰めたぞ! リコは返してもらう!!」
三人の中から一歩踏み出して、シオンが咆哮した。
大男とローブの女性の視線が、彼に向く。
ふと、ローブの女性から声がこぼれた。
「……あら、王さまじゃありませんか。久しぶりですわね」
「…………?」
この上品な声に、シオンは聞き覚えがあった。
ずっとずっと前の記憶。
記憶をなくす前の彼が仲よくしていた、誰か。
彼女の顔は、黒いフードに覆われていて見えない。
「…………任務に私情をはさむな。行け」
「もう、仕方ありませんわね。それでは」
「あ……っ!」
声をかける前に、リコを抱えた女性は裏口を通り抜け、王宮の中へと消えていった。懐かしき想いで心がいっぱいになったシオンは、ただその後ろ姿を見つめるだけだった。
「……バカ! 何見とれてんだよ! リコを連れていかれたじゃねえか!」
「あっ! しまった!?」
呆然とするシオンの背に、リュウがバシッと気合いを入れる。
リュウに続き、ナツミが肩を並べた。
「二人とも、早くあの人を追いかけよう!」
「……あぁ」
「だねっ!」
王宮の中に連れ込まれたリコを追いかけようと、再び足を動かそうとするが。
三人の前に、一人の猛者が立ちふさがる。
「……やっぱり。このまま簡単に通してくれるはずがないよなァ……ッ」
リュウは思わず舌打ちした。
一方、大男はその無情な言の葉で、こうつぶやく。
「…………アクト1終了。これよりアクト2に移行する」
「……来るぞッ!!」
歴戦の覇者との戦いが、始まる。




