ハナれていく仲間(4)
意を決して、僕はギンたちに本当のことを告白した。
出会ったときに嘘をつかなければよかったのだが、成り行き上、仕方のないことだった。
「王……ではないのですか……?」
「うん。ごめんね、ギン」
瞳孔を広げ固まるギンに、僕は誠意を込め頭を下げた。
静かな流れが漂う。
状況を理解し始めたギンは、スッとした目で僕を見据え、いくつかの質問を投げかけてきた。
「……ウシオさん。あなたの髪色は黒ですが、それは生まれつきですか?」
「そうだよ。とはいっても、今は白と黒が入り混じってるけどね」
前髪をいじりながら、ははっと苦笑する。自分の髪色がどうなってるのかわからないけど、ハナちゃん曰く頭の根っこから半分くらいが白く変色してるらしい。……たぶん、僕が獣人化した影響だろう。
ここにきて再び、自らが獣人になってしまった現実と向き合うことになる。
「…………」
少しひび割れた指先を見て、物思いにふける。
僕は……僕は…………どうして?
「……大丈夫ですか?」
「えっ!? あっ、う、うん……」
急にうつむいた僕を不思議に思って、ギンが尋ねかけてくる。
僕はあわてて取り繕い、さきほどの話題に振り戻した。
「そ、それで。ほかに何か聞きたいことがあるんだよね?」
「はい。これが一番知りたいことです」
「任せて!」
鍛え上げられた胸板をドンと誇らしげに叩く。
するとギンは、ふっと表情を和らげつつ、緊張感のある声色でこう言った。
「この世界の王様……銀髪の王と親友というのは本当ですか?」
「うっ……」
第三者から親友なのかと問われ、僕は少しためらった。さっきは勢いのままに親友なんて口走っちゃったけど、冷静になってみると恥ずかしい。
うぐぐっと気まずそうにしていると、ギンがむっと顔をしかめた。
「どうしたのですか? まさか、私たちに嘘をついたのでは……?」
「いやいやいやっ! そういうことじゃないよ!」
「では、ウシオさんは王と親友なのですね?」
「うぐゥ……っ」
ここまで言われても、いまだ素直にうんと頷くことができない。
顔を真っ赤にしている僕を見て、隣のイッちゃんがふふっと口元に手をあて微笑んだ。
「そうだよギンさんっ。コーくんとシオンくんは妬んじゃうくらい仲がいいんですっ」
「ちょっ、イッちゃん!?」
小悪魔っぽく、にひひっといじわるな笑顔を彼女は浮かべる。穴があったらいれ……じゃなくて入りたい!!
ぐももっと床に頭をこすりつけ、気を紛らわせる。
「ねぇねぇ! シオンくんって誰?」
「そうですね。私も同じように思っておりました」
ずっと話を聞いていたアミちゃんとギンが、そんな素朴な疑問を持つ。
あれ?
アイツの名前がシオンって、知らないのかな?
「シオンはシオンだよ。ほらっ、この世界の王様」
「あー! 王様の名前がシオンなんだー!」
「シオン……。王はそのように呼ばれているのですね」
ずいぶん前からの付き合いのはずのギンが顎に手を当てて納得している。
「あのさ、シオンって王宮にいたとき何て呼ばれてたの?」
「え? 王に名前はありません」
「そうなの!?」
じゃあ『シオン』っていつから呼ばれてるんだろう?
僕みたいに『どうしよ』ってつぶやいたのを聞き間違えられた。
……なんてバカな話はないよね。
「それでウシオさん」
「ん?」
「王は今どこにいらっしゃるのでしょう?」
当然の質問がやってきた。
……いい機会だ。現状を話しておくとともに、今後の方針もみんなに話しておこう。
僕は、かいつまんで現状況をギンとアミちゃんに伝えた。
シオンたちはリコちゃんという仲間を取り戻すために敵を追っているということを。
僕たちは連れ去られたイッちゃんを追ってハナちゃんと行動していたということを。
そして、そのハナちゃんが知り合いに協力を仰ぐため、一人で王宮に向かったということも。
「なるほど。そんな状況になっていたのですか」
話を聞き終えたギンが考え込むように顎に手をやった。ひょっとすると、彼の癖なのかもしれない。
黙り込む二人を見て、イッちゃんは僕に視線を送ってくる。今後どう動いていくのか、指示を待っているらしい。
強張っていた肩から、ふっと力が抜けていった気がした。
僕もまだ、やっていける。
「みんな。聞いてほしい」
勢いよく立ち上がって、その場の視線を集める。
快活に、それでいて落ち着いた口調で、僕は口を開いた。
「僕たちもこのまま王宮に向かう。シオンやハナちゃんたちと合流するんだ」




