ハナれていく仲間(3)
「ハナちゃんと……お別れだって……?」
イッちゃんの語る事実に、金づちで殴られたような衝撃を覚える。
息詰まる僕の様子を見て、イッちゃんは慌てて訂正した。
「ち、違うよコーくんっ! お別れっていっても、ずっとさよならじゃないからねっ!」
「え……?」
不意打ちになる形で、一縷の希望の光が差したのを見て、僕の口調は小さく弱々しいものになる。イッちゃんは、早とちりする僕の誤解をとくよう説明を加えた。
「ハナが言ってたのはね、一旦別行動しようってことなのっ」
「別行動……? それって今、僕らとリュウたちが別れて行動している、みたいな?」
「う、うんっ」
少し影のある表情を、イッちゃんは浮かべる。
真実を知って、僕は彼女の複雑な気持ちの理由が分かった気がした。
イッちゃんも、ハナちゃんと離れるのは少しの間だと理解してホッとしたのだろう。だけど少しのあいだとはいえ、ハナちゃんと別れることになる。
それに、僕たちは一抹の不安を胸に抱いているのだ。
――――血に染まり、赤いドレスを身にまとったハナちゃん。
――――僕たちの知らない、彼女の秘密。
これらのことが後押しして、何かとんでもないことに繋がるんじゃないかと思えてならない。
「「………………」」
僕とイッちゃんは下にうつむいて、しばらくの間黙り込んでしまう。
少ししてから、その空気を断ちぎるようにギンが声を発した。
「それで、イネさん。彼女はいったいどこに向かうとおっしゃっていたのですか?」
「たしかに! そこって大事だよねー!」
ギンの台詞に、アミちゃんもキザな感じであごに手をあて同意する。
二人の言うように、僕も気になっていたことだ。
僕ら三人の視線を受け、イッちゃんは目をキョロキョロさせながら早口で答えた。
「あ、あのっ! えっとっ。ハナはね、王宮に知り合いがいるから、まずはその人たちに会ってみるって言ってたよ?」
「王宮に知り合い、ですか……?」
王宮の執事であるギンが腕を組みながら首をかしげる。
心当たりがあるのかと思い、僕はギンに尋ねてみたのだが。
「私には心当たりがありませんね」
と、期待外れの返答をうけた。
「ギンですら分からないなら、相手が誰だか知るのは難しいだろうね……」
「だね……」
イッちゃんと顔を合わせながら苦笑いを浮かべる。
「……?」
僕の発言がおかしかったのか、ギンは身を乗り出して顔を近づけてきた。
「いやいや、王よ。あなたのほうがお顔が広いのでは? 一応、王様ですしね」
「そういえばそうだったね! あなたって王様なんじゃんー!」
「……ふぇ? コーくんが王さま?」
あっちゃー。
状況がややこしくなる前に、ネタ晴らししとけばよかったかも。
うーんと頭を抱えながら、でもそんな暇もなかったよなーと思い返す。
「コーくん?」
何も知らないイッちゃんは、目を点にして頭にはてなマークを浮かべていた。
かわいい。
…………。
はぁ、これはギンに謝り倒さないといけないなぁ。
気の乗らない気分にはなりつつも、僕は一呼吸してからギンに向き直った。
誠意を込めて、真実を告げる。
「ごめん、ギン。僕は王様なんかじゃない」
「は? …………またまた。いつものご冗談で」
「――――僕はウシオ。この世界の王の、シオンの…………親友なんだ」




