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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第3章 思いがけない邂逅
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ハナれていく仲間(2)

「起きてください、イネ」

「……んむ…………っ?」


 長い夢を見ていたイネは、馴染みある声に目を覚ました。重たいまぶたをこすりながら、とろんとした瞳で声の主を見上げる。


「ハナ……っ?」

「そうですわ」

「まだ暗いよぉ……もっと寝かせて……っ」

「ちょっ、寝ないでください!」

「あと五分……」


 優しい眠気にいざなわれ、再びワンダーランドへと旅立とうとしたイネだったが、寝そべったところでふと違和感を覚えた。


「あ、あれ……? まくらはどこぉ……っ? みんなで作ったふわふわわらのまくらちゃーん……」


 ぼやける視界と頭の中、懸命に手探りするが見当たらない。

 徐々に明瞭になり始めた意識。

 そして、そばに立つ人物の一言が決定打となった。


「ここはいつもの家じゃありませんわよ。あなたはさっき、ユーリとかいう少女に連れ去られたじゃありませんか」

「ふぁ……っ!?」


 イネの視界に入ってきたのは、真っ赤なドレスを着たハナだった。いつもはホワイトとオレンジを基調にしたドレスだから、彼女は不思議に思った。

 それからイネはカッと目を見開き、暗くなったあたりを見回す。

 暁の頃合いだと思い込んでいたが、夕暮れの感触が残った空は、間違いなく夜を物語っていた。ともに、記憶がよみがえってくる。


「そういえば、大きな男の人がいきなり襲ってきてっ! わたしは包帯まみれの女の子につかまってっ! それで……それで……あれっ?」

「相変わらず、イネはどんな状況でもイネですわね……」


 臨場感の欠片もないイネのキョトンとした様子に、ハナは不安と安堵の嘆息をもらす。

 と、そんな場合じゃなかったとハナはやるべきことを思い出した。


「さあイネ! とりあえずわたくしについてきてくださいな!」

「ふぇ? あっ、ハ、ハナちゃんっ!?」


 こめかみに指を当てうーんと悩んでいたイネの手を取り、ハナは走り出す。

 イネは混乱したまま、彼女に導かれるのだった。

 ややあってから、ハナの足が止まり、つられてイネも立ち止まる。


 ――――心臓が止まったかと思った。


「え……うそ…………そ、そんな……」


 目の前に広がる状況に、イネは血の気が引いた。

 見渡す限り、ドス黒い血の海が広がっている。

 死体なんてこれっぽちもなかったが、ぽつりと倒れている真っ白い人物が浮かび上がっていた。

 そう。

 彼女はここに肝を冷やしたのだ。

 震える唇が、その名を口にする。


「コ……コーくん……?」

「そうですわ」


 その白い肌は、もはや人のものではなかった。爬虫類の鱗のようにひび割れ、黒かった髪も白髪のように真っ白に変色している。

 彼はもう、イネの知っている彼とは言えなかった。

 ただ、この状態に心当たりはある。

 以前みんなで話し合ったことだろう。


「これって……」

「えぇ。例のやつですわ」


 確認するように尋ねると、想像通りの返答がくる。

 そうなると、するべきことは決まっていた。


「頼みましたわよ、イネ」

「うんっ、任せてっ!」


 ドンと豊かな胸をたたき、彼女は倒れている彼のもとに歩み寄っていく。

 そばまでくると、注射器を取り出した。事態を解消するべく薬を、イネの能力で生成する。

 彼女は意識を失っている彼の表情を一瞥した。それはまるで、逃れ続けられない永遠の呪いに蝕まれているようで。


「すぐに治してあげるからねっ、コーくんっ!」


 注射器を握る手に、力がこもる。


「えいやっ!」


 ぶすりと、その鋭い針を彼の尻に突き刺した。


「な、なにもお尻にしなくても……」


 治療の様子を眺めていたハナが、少しひきつった表情を浮かべる。

 イネは構わず薬を注入した。注射器の中身がみるみるうちに無くなる。イネは額から垂れる一筋の汗をぬぐった。

 あっという間に、処置が終了する。


「ふぅ……これでおしまいっ」

「さすがイネですわ」


 やることを終え、イネとハナは一息ついた。

 すると。


「あらっ。もう薬が効き始めましたわね」

「うんっ。即効性もあるからねっ」


 彼の干からびた腕は潤いを取りもどし始め、人間らしい弾力のあるものへと戻っていった。身体からは淡い光がこぼれ、全身が元通りに変化していく。

 唯一、白く染め上がった髪は、毛先から半分くらいまでしか黒くならなかった。


「素晴らしい! 完璧ですわ!」

「そ、そんなっ。髪だって全部黒くならなかったからまだまだだよ……っ」


 褒めたたえるハナに対し、イネは謙遜する。

 だがこれで、一応は解決した。

 一旦落着したところで、イネはハナにこれからの予定を尋ねる。


「ねえハナ。このあとはどうするの?」


 さりげなく。

 いつもの調子だったのに。

 彼女の返事にイネは絶句することになる。



「わたくしは……もうあなたたちとは一緒にいられません。お別れになります」

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