ハナれていく仲間(1)
どれくらいの間、僕はここにいるのだろう?
何もない真っ白な空間に、ぼんやりと漂っている。肌も髪も白くなったから、空間に溶け込んで僕という存在が消えてしまいそうな。
かといって、四六時中同じ状況だったというわけでもない。
時には周りを全て塗りつぶす黒に染め上げられ、僕という生命が浮き彫りになったような。
時には嵐が襲いかかり、ぐちゃぐちゃに弄ばれるような。
ただ、どんな環境にあっても、僕は僕でしかなかった。
僕という存在が、消えることは無かったんだ。
――――生きるということは、つまり、そういうこと。
こうやって手を伸ばしたところで、何かを掴めるわけでもない。
むにっ
…………。
掴めるわけ…………(むにっ)
「なんかつかめたんですけどッ!!?」
あまりに衝撃的な出来事に、僕の意識は覚醒した。
カッと目を見開いて、勢いよく上体を起こす。
「…………ほえ?」
次の瞬間、辺り一面は一変していた。真っ白だった空は木製の天井に、どこまでも続く水平線は襖に豹変している。
どこかで見たことある光景。
ここって……。
「宿屋なのか――――」
「どこ触ってるのコーくんっ!!」
「くうがっ!?」
部屋の中を見回していると、突然ほっぺたに痛みが走った。衝撃のままに、僕は身体を回転させてゴロゴロと転がっていく。
ガッ
「いっつぁ!?」
壁に頭をぶつけ、ぷくりとこぶが出来上がった。
涙をこらえながら痛みが引くのを待っていると、トタトタと誰かの足音が聞こえてくる。
「だ、大丈夫コーくんっ!?」
「……っ」
その可愛らしい姿を見て、僕は息を呑んだ。眠っていたはずのイッちゃんが目を覚ましていたからだ。
慌てふためいて何も言えない僕とは対照的に、イッちゃんは滔々(とうとう)と口を動かす。
「ご、ごめんねっ! いきなり胸を触られちゃったからつい反射的になって……っ!」
「む、むね……?」
彼女の言葉を反芻しながら、柔らかい感触の残った左手を見つめる。
さっき何かを掴んだと思ったけど、それって……。
…………。
無意識のうちに、ワキワキと指を動かしてみた。
「……(タラーっ)」
「思い出しちゃダメっ!(ペチイっ!)」
「あぎとっ!?」
ぼくおっぱいもんだんだーなんて自覚したから、ついつい鼻血が出ちゃったよ。
流れ出る鼻血をおさえながら、その手についた血を見て。
ウロコなんてない瑞々しい自分の腕に気がついて。
――――すべてを思い出した。
さぁっと顔から血の気が引くのを感じる。
僕は夢中になって、イッちゃんの肩を掴んでいた。
「イッちゃん! ハナちゃんは!? ハナちゃんはいったいどこにいるのっ!?」
「い、痛いよコーくんっ」
彼女が苦痛の表情を浮かべていることにさえ気づかないほど、僕は焦燥にかられていた。
「こらっ! か弱き乙女に何をするかー!(ガツンッ!!)」
「efあえ*hふぉ?oae☆」
意識を根こそぎ持っていかれるくらいの衝撃が、脳天から足の指先にむかって駆けていく。
そうやって我に返った僕に、声がかけられた。
「まったく……これだから王は困ったお方なのです」
声の主は、戦っているハナちゃんのもとへ戻ろうとした際に離れてしまった、
「ギ、ギン! それにアミちゃんまで!?」
黒い執事服に身を包んだ銀髪のギンと、高級な大坪を両手で抱えているアミちゃんだった。
…………まさか、それで僕の頭を?
色んな意味でショックを受けている僕に、イッちゃんが説明してくれる。
「この人たちがねっ、倒れたコーくんを運んでくれたんだよっ?」
「倒れた僕を?」
「うんっ」
「――――ハナちゃんと戦って意識を失ったコーくんをっ」
それから僕は、自我を失った後の話を聞くことになる。




