赤いひまわり(2)
「私のすべてを受け止めるですって……?」
血のこびりついた頬を苛立たし気にぬぐいながら、ハナちゃんは僕の言葉を反芻する。
想いよとどけとばかりに、僕は言葉を強く重ねた。
「あぁ、そうだ。全力でこい…………っ!」
「……イライラさせるわね」
血に染まったこぶしを震わせ、彼女は歯を食いしばる。
「…………」
じりじりと相手の様子をうかがい、攻撃のきっかけを見据える。
「あなたはペシャンコにして殺してやる!」
「きた…………ッ!」
戦いの口火を切ったハナちゃんは、手足のように自由自在に植物を操った。
ツタのような細長い根が僕の手足を狙う。
「ハァ…………ッ!」
身動きを奪おうとするツタを、僕は独楽のように体を回転させ氷の剣で微塵切りにした。
「よ…………っ!」
その回転エネルギーをバネに変え、風のごとくハナちゃんとの距離を詰めていく。速すぎる僕の姿を捉えていない彼女の足元を狙って、手を伸ばした。
しかし、ハナちゃんを守るようにして、自動的に周りの植物の障壁が生まれる。
僕の手首に、緑色のつるが巻き付いてきた。
「しまっ…………」
「なっ!? もうこんな近くに間合いを取られて……!?」
僕の存在に気のついたハナちゃんが、慌てるように距離をとる。その動作と流れるように並行して、ハナちゃんは植物を差し向けた。
鋭い先端をもった木の枝が、四方から僕を串刺しにしようと襲いくる。
「危ない……ッ! 炎陣の術!」
メラメラッ
僕を中心として円を描くように燃え盛る炎が地面から生じる。手首にまとわりついていたつるが燃えちぎれ、迫っていた木の枝々も炎の中で灰になっていく。
「危なかった……はっ……!?」
炎系の術を発動したことで、氷の鎧の性能が少しばかり減衰した。
しまったとばかりに僕は悪態をつく。
「あら? どうやら失敗したみたいね。これはチャンスかもしれないわ」
鋭い眼光で僕の状態を見抜いたハナちゃんの口元が歪む。
これはまずい。
もう一度術を発動するエネルギーなんて残ってない。
あと数手で決着をつけなくちゃいけないことになった。
とはいえど、まだまだ先の続きそうな戦いを終える策など、すぐには思い浮かばない。
「そら! こないならこちらからいくわよ!!」
硬直する僕よりも先にハナちゃんが動き出してしまう。
「仕方ない……ッ! 戦いの中で打開策を見つけるしかないかッ!!」
腹をくくって、僕は切れかけの身体強化の術を無理に使用しながらぶつかり合った。
ガッ!!
ガガッ!!
………………
ガガガガガガガガガッッ!!!!!
「あははははっ!! 楽しいわぁ……ッ!!」
「くそ……ッ! なんて連撃なんだ……ッ!?」
氷剣と大樹が幾度となく重なり合っては身体に衝撃が走り、再びぶつけ合うことを繰り返す。
苦渋の表情を浮かべる僕とは対照的に、ハナちゃんは満面の笑みを浮かべていた。
シュウゥ…………
「――――あ」
激戦の中、ついに鎧が消えてしまった。
「もらったわッ!!」
ドガアアアアアアアッッ!!!
「がは……っ!?」
隙を見せてしまった僕は、その雨のような連撃を正面からまともにくらってしまう。吹き飛ばされた僕は地面に転がり続ける。
勢いがとまった頃、僕の意識はもはや朦朧としていた。
かすれた視界の中で、近づいてくる彼女の足元が見えた。
「終わりですわ」
冷たい声が僕の心を刺す。
……………………パキッ
――――何かの割れる音がした。
パキ……パキパキッ
ゆらりゆらりと、僕は立ち上がる。
「なんですの……その姿は……?」
彼女の、震えた声が聞こえた気がした。
「」
――――僕はまだ、死ぬわけにはいかない。




