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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第3章 思いがけない邂逅
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懐かしさと出会う(5)

「ハナ……ちゃんなの?」


 見渡す限りに広がる死体の山の頂上に立つ少女。

 干からびる喉をかすらせながら、僕は必死になって声を紡いだ。

 返り血で染め上げられたドレスを揺らめかせながら、彼女は僕を見下ろしてくる。その瞳に光彩はやどっておらず、死神を連想させた。


「あなたは…………?」


 血のこびりついた人差し指で唇をもてあそびながら、僕を凝視し続ける。

 その背後で何者かが動いた。


「うう……この女ぁ、いったい何者なのよぉ……」

「お前は、ユーリ!?」


 遺骸の積まれたその先に、ハナちゃんと対峙していた『革命軍』のユーリの姿があった。しかし、彼女の真っ白だった包帯はところどろこ赤くにじんでいる。褐色の肌にも、細かな傷跡がたくさんつけられていた。


「おいちびっこ! ここで何があったのか教えてほしい!」

「ちびっこ……だと?」


 僕に呼ばれたユーリがわなわなと震えだすが、そんなことにかまう暇はない。ハナちゃんに何があったのかを詳しく知りたい。

 けれど、返答を受ける前に状況が変わってしまった。


「ダメだって。あなたは私に料理されなくちゃ……ぁ?」

「ひっ!?」


 骸の王となったハナちゃんがゆらりと立ち上がり、ユーリに攻撃を仕掛け始めたのだ。

 彼女が手を前に突き出すと、それに呼応するかのように周りの木々たちがメキメキと伸張する。先端を針のようにとがらせることによって、それは槍の千雨のように襲いかかった。


「危ない……ッ!」


 たまらず僕は瀕死のユーリの前に立ち防御の構えをとった。


「氷陣の術ッ!」


 ピキピキピキ……っ


 僕とユーリを包むように氷の膜が出来上がり、迫りくる木々を凍てつかせる。思った通り、氷と木の相性はよかった。

 とはいえど。


 パキっ


「ぬっ! やっぱり長くはもたないよね……!」


 壁の表面にひびが生じ倒壊するのを、僕は何とか防ごうとする。

 必死になって術を発動しながら、ユーリに向かって逃げろと喚起した。


「な、なにを言ってるの!? 我は革命軍! あなたの敵なのよ!?」


 幼い声を荒げて、ユーリは僕の提案を批判した。

 が、僕は即座に答えを返す。


「ちびっこの方こそ何を言ってるの! 敵味方はあるとしても、目の前の命を見捨てることなんてできないでしょ!」

「……っ。で、でも! 我はこの女を誘拐したわ!」


 地面でぐっすりと眠っているイッちゃんを指さして、ユーリは叫ぶ。

 そんなの……!


「確かに許せないことだけど、イッちゃんは死んでなんかいない! なぜならちびっこがそうしなかったからだ!」

「そ、それは……っ」

「ちびっこ」


 破壊寸前の防御壁をつなぎながら、僕は自分の芯なる考えを伝えた。


「命っていうのは、光そのものなんだ。生きることは誰かの心を照らすこと。だけど、光のせいで闇が必ず生まれてしまう。誰かが死んでしまう。無くそうとして無くせるものじゃない。切り離そうとしてもダメだ。それがこの世界のルールだから」


 命をかけ、僕は声をつなぎ続ける。


「でもね、見るべきところはそこじゃない。僕たちが知っていなくちゃいけないのは」


 光と闇の調和


「なんだよ」


 パキィィ……ッ!!


 ついに、攻撃を阻む障壁が崩れてしまった。

 ハナちゃんの追撃は絶えることなく、続々とあとを追ってくる。


氷竜鎧ひょうりゅうがいの術……ッ!」


 ゴオオオオオアアアッ!

 ピキピキパキパキ……ッ!!


 召喚された氷竜が、僕を取り巻くように包んでいく。

 僕の姿が見えなくなったところで、氷竜の身体がはじけた。飛び散った氷の破片が、ダイヤモンドのように、月光に反射する。

 氷竜の鎧を身にまとった僕は落ち着いた声色でユーリに話しかける。


「早く逃げて。ここは僕がおさえるから…………」


 僕を見上げるユーリは、何かいいたげな面持ちでフラフラと力なく立ち上がった。

 それから小声でつぶやく。


「……あなたの……さっきの言葉。まるで…………」

「時間がないんだ。早く行ってくれ…………!」


 佇むユーリの背中を押すようにして、促す。そうして彼女はその十字架の杖を使って、新たなる獣人のゾンビを呼び出した。

 それを一瞥して、僕は彼女に最後の言葉をかける。


「死人を弄ぶことは何よりも重い罪だから。そのことは自覚しておいてね…………」

「……ふっ。やはりあなたはあなたなのね」

「…………?」

「まぁいいわぁ。とりあえず、今日はこのくらいにしておいてあげる」


 そんな風に言い残して、ユーリは獣人の肩に乗り、去っていった。

 彼女の背中を見送ってから、僕は周りの状況を再確認する。


「…………」

「あららー。逃がしちゃってくれたのね、あなた」


 ここに残ったのは、鎧をまとった僕と倒れているイッちゃん。

 あとは、目前の赤く染まったハナちゃんだけだ。


「ハナちゃん。本当にどうしたんだよ…………」


 僕たちを嘲笑うかのように、ペロリと口元に付着した血を舐めるハナちゃん。


「ハナちゃん…………ッ!!」

「……ふふふー」


 僕の声は、彼女の心に届かない。


「さーて。次はあなたを殺しちゃいましょうか」

「絶対にさせないぞ……ッ!!」


 声が届かないなら。



 ――――届く距離まで、近づけばいい。

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