懐かしさと出会う(4)
白い街で王宮の執事・ギンと旅人のアミちゃんと出会った僕は、二人をつれてハナちゃんのもとに向かっていた。
「それで状況はどうなっているのですか、王よ」
僕のことをシオンだと勘違いしているギンが走りながら声をかけてくる。
「詳しい話はまた後でするけど。とりあえず、仲間の一人が人質にとられているんだ」
「それはまた厄介ですね」
黒いスーツとは対照的な白い手袋で顎をしゃくるギン。冷静に物事をとらえようとする彼の瞳は、見ているだけでひんやりするほど青く輝いている。
……あれ?さっきは赤かったはずなだけど……。
目を細めて考えてはみるものの、今はハナちゃんのことに集中しようと気を確かにする。
獣人のゾンビを自由自在に操ることができる『革命軍』のユーリ。ビキニの上に全身包帯という異質な格好をしている彼女だけれど、実力は計り知れない。
僕やリュウ、シオンが束になってかかっても歯がたたなかった軍人のようなあの漢と、同等の力を誇るのだろう。そんなやつを相手にハナちゃん一人で立ち向かわせるなんて、よく考えなくとも無茶だったことがわかる。
街の人々を助けたい一心だった過去の僕をうらんだ。
「大丈夫、おーさま?」
「えっ?」
僕の様子に違和感を覚えたアミちゃんが、大地を蹴りながら顔を覗き込んでくる。
「大丈夫……じゃないのかもしれない」
「……やばいんだ」
アミちゃんの肩が強張ったのに、僕は気づいた。
彼女につられ、僕の頭のてっぺんから指先にかけて、その上脳みそまでもが固まってしまいそうになる。
「……だからこそ一刻も早く彼女のもとに駆けつけなくちゃ」
誰にいうでもなく、勝手に口が動く。
「ごめん。さきにいくね!」
「あっ! ちょっと!」
「王よ! そう焦ってはいけません!」
嫌な予感を覚え、夢中になって走る速度を上げる。
後ろのふたりの声が小さくなるのに、僕はなんの気もかけなかった。
*
数分して、ハナちゃんと別れたところに戻ってくることができた。
けれど、ここがもといた場所だと理解するのには数十秒かかった。
「……あ…………え…………?」
ポタポタ……っ
ポタポタ……っ
この世界にきて僕は、血というものを見たことがなかった。
いつも鼻血なんかを出しているが、それはまた別の話。
今言っている『血』は、生きるために必要な、いわゆる『血』のことだ。
「あ……あぁ…………あああ……ッ!!」
目の前に転がっているのは、数えきれないほどの死体の山。四肢という四肢がそこら中にぶちまけられており、数えてはいけない人生の終わりが当然のように横たわっている。
「」
僕は、生まれて初めて、『死』という現実を、目の当たりにした。
「……うぁッ」
襲い来る吐き気。
食べ物なんか口にしてないのに、僕の中から何かが飛び出そうと暴れている。懸命になってその何かを抑え、必死になって目を開けようと抵抗した。
そうして、視界に入ってしまう。
「…………」
上り始めた月の明かりに照らされ、佇む少女が、一人。まるで、ひまわり畑で幸せそうに花を愛でるように、彼女はその血で染まった美しい指先を、ぺろりと一舐めした。
ゆらりと、その恍惚とした瞳がこちらに向けられる。
「…………ハ、ナ……ちゃ、ん……?」
「ふふ……っ」
その微笑みは、あまりにも可憐で儚く、それでいて狂喜的だった。




