懐かしさと出会う(2)
銀髪の執事、ギン。
シオンが自らの過去を打ち明けてくれた時に登場した、彼の執事。王様として歩むシオンのそばで、まさに親友として付き添ってくれていた人物。
そんな空想上の人でしかなかった彼が、今、僕の目の前にいる。
「頼りになるじゃないですよ、アミ。まったく、私がいなくてはどうなっていたことやら」
「あっははー、ごめんねー!」
もしこの場を目撃したのがシオンだったら、どんな気持ちだったろう。
それは例えば、小学校の時に裏切った友達と顔を合わせるような感覚なのか? それとも、古き青春の日々を共に過ごした十年来の親友と再会を果たす気分に似ているのか?
どちらにしろ、僕にはわかるはずもない。
こんなところで遭遇するなんて、考えもしなかった。
「う、うーん……」
僕は陰から一歩踏み出そうか迷った。
しかし、そうすることはなかった。
「グ、グルルルル……ァァァァァァァァッ!!」
「「なっ!?」」
絶命したはずのパンダの獣人が、再び蘇ったからだ。
「私がきちりとトドメを刺したはずなのに!」
「でも生きてるじゃーんッ! ギンのバカーっ!」
驚きを隠せない二人をさしおいて、パンダの獣人が立ち上がる。
そうして、大きな変化が起こった。
メリメリメリィ……っ。
気分の悪くなるような、肉や骨がさける生々しい音が獣人の身体から生じた。手が異常に発達し、鎌に似た大きな爪に変化していく。パンダの顔面は何針も縫われたぬいぐるみのようにグチャグチャになった。
「な、何ですかこれは……?」
「よ、ようかい……」
僕はこの変身を、知っていた。
以前、命を懸けて闘った、一人の武道家が使っていた力だ。
彼は言っていた。
人間体から獣人体に変身した後、もう一段階変身できると。
「ギュルアアアアアアアアアアアアアッ!!」
このパンダだった獣人は、その技を自分の意思では使えなかったのかもしれない。
だが、死の淵に立つことで、開花することもある。
「ギュラッ!!」
「来ますよアミ!」
「うんっ!」
ツギハギだらけのぬいぐるみに似たパンダの獣人は、その異常なまでの鋭い爪で空を切り裂いた。
ビュュアッ!!
「おっと!」
「やばっ! はやい!」
間一髪、攻撃から逃れた二人は、その飛躍したステータスに目を見開く。
彼らは一旦、獣人から距離を置いた。
しかし獣人は、許すまいとして二人を追撃する。
「ギュララッ!!」
「クッ!」
ガキィンンッ!
よけることのできない攻撃に、ギンは手元のサーベルで何とか防ぐことに成功した。
と、思ったが。
スパッ
「剣が切れた!?」
爪のあまりの切れ味にサーベルはあっけなく切り裂かれてしまった。
獣人はそれを見切ってもう片方の手でギン本体を狙う。
「まずいっ!」
「大丈夫! 氷結弓矢!」
隣のアミちゃんが能力を発動し、水色に光る矢を獣人の腕に直撃させた。すると、命中した箇所が凍っていき、ギンの命を刈り取ろうとした攻撃が止まる。
「いいタイミングです、アミ!」
「まっかせてよ!」
お互いの顔を見合わせ、口角をつりあげる。
ここで、僕の直感が脳内に大音量のアラームを鳴らした。
あの二人は今、油断している。
それが命取り、だと。
直後の出来事だった。
パキイイン
凍って動けなくなった腕の氷がはじかれ、獣人が油断している二人に飛びかかったのだ。
「しま――っ」
ギンの視界が、獣人の巨大な手に覆われる。
その、コンマ五秒前に。
「油断ほど、怖いものはないんだよ」
「ギュルッ!?」
「氷竜の術!!」
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!
二人と獣人の間に僕が割り込み、隙だらけの身体に僕の上級忍術を発動した。
「ッ!!!?」
氷の竜に飲み込まれた獣人は、そのまま消滅してしまう。
「最後の最後に君が油断したから悪いんだよ? 『この人間の命はもらった』なんてことを思ったから」
消えていく竜の姿を見上げながら、僕はそうつぶやいた。
「あ、えっ? ……お?」
突如として姿を現した僕を見て、アミちゃんは困惑してるようだ。
隣のギンも、身体を固まらせている。
動けない二人に向かって、僕は気まずそうに手を後頭部にあてながら、こう自己紹介した。
「あ、どうも……。僕、ウシオっていいます」




