懐かしさと出会う(1)
「街のみんな、どうか無事でいてねッ!」
イッちゃんのことをハナちゃんに任せたボクは、街の人たちを助けるために全速力で駆けていた。爆発が起こったところまで、残り数十メートル。
もうほんのわずかというところで。
ドガガガンッ!
二度目の爆発音が聞こえてきた。
「もう我慢できない……ッ! 烈風の術!」
耐えきれなくなった僕は風の力を得て速度を上げる。
シュシュシュンッ、
まさに風のごときスピードで走り抜ける。
狭い路地の出口が見えてきた。
そこで獣人が暴れているようだ。
とそこで。
「あっ!」
路地裏の出口のその先に、パンダのような獣人の姿を確認することが出来た。
「あいつか……っ!」
僕はさらにスピードをあげ、ほんの数秒後に戦闘態勢をとれるよう構える。
その時、
タタタタンっ!
パンダの獣人に向かって赤青緑の光を灯した三つの矢がとびかかった。
誰かが戦っている……?
そう考えた僕は、出口の手前でとまり、こっそりと様子をうかがってみた。
するとそこの大通りではパンダの獣人と、奇妙な形をした弓矢を手にもつロビンフッドのような少女がすでに戦いを繰り広げていた。
「やぁ! くらってしまえー!!」
「グルルルッ」
まるで妖精のエルフが使うような弓矢を構え、見えない矢を射抜くようにして手をはじく。不思議なことに、複数の矢が出現し獣人に襲いかかった。
あれが彼女の能力なのかもしれない。
「……あれ?」
彼女の姿にはどこか見覚えがあった。
小柄で釣り目の、子供っぽい顔立ちに黒髪のツインテール。緑を基調にした妖精チックの服装に記憶はないが、その無邪気さを知っている気がする。
…………あっ!
「あの子、僕が温泉で会ったアミちゃんだ!」
以前みんなでプールを作り大火事につながったという出来事があった。
その日の夜、僕とシオンは女体化して女湯に潜入し、そこでアミちゃんに出会ったんだ。まさか、こんな形で再開するとは夢にも思わなかったけど。
僕らと同じ冒険者のアミちゃんは、その自身の能力を駆使して獣人と応戦する。
「特大のやつ、いっくぞー!!」
彼女の能力はおそらく属性を付与した矢を生成し攻撃するものだろう。作る矢によって、攻撃のバリエーションが違うのかもしれない。
現にアミちゃんは見えない大きな矢を引くように腕を伸ばし勢いよくはじいた。
「くっらえぇぇぇーっつ!!」
ビュゥンッ!!
空気を切り裂く鋭い音が聞こえたと思ったら、パンダの獣人を真っ二つに引き裂くくらい巨大な矢が目に見える形で出現した。
ズボ……ァッ!!
「ギュル……ル……」
「やっりぃー!! 命中したー!!」
真っ二つとまではいかなかったけど巨大な矢は獣人を貫いた。
だが、しかし。
「まだ仕留めたわけじゃない……」
獣人の様子をじっとうかがって、僕はそうつぶやいた。
ヤツの傷口が徐々に塞がっていくのがわかる。
アイツは、さっきみたいな死人じゃない。この傷を治す力は、ライオネルたちも見せたような、圧倒的な回復力だ。
獣人には、そんな特性がある。
だけど、そのことにアミちゃんは気づいていないようだ。
完全に勝ったと思って浮かれている。
これは危ない…………ッ!!
獣人から不意打ちがくると確信して、僕は飛び出そうとした。
「グルルルルルアアアアアアアッ!!!」
「うそっ!? 生きてた!?」
案の定、僕の予感は的中し、獣人が不意をついて彼女に襲いかかる。
「きゃあああああああっ!?」
一か八か、僕の術が間に合うか。
その直前に。
「だから甘いと言っているのです!!」
ズバアッ!
突如登場した銀髪の黒執事がその手にもつ海賊のようなサーベルで獣人を切り裂いた。
ドサリと獣人がその場に倒れ伏す。
「ふぅ、やれやれ。アミはまだまだですね」
「さっすがギン! 頼りになるよ!」
アミちゃんは、そのギンと呼ばれた執事のわきばらをグイグイと突っついた。
…………ギン?
「もしかして……シオンの話に出てきた……あの王宮の執事!?」




