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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第2章 動き出す世界
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強襲(5)

「さぁーて、あなたたちに倒せるかしらぁー?」


 まるでゲームをする子供のように笑うユーリ。

 しかし、僕らの反応は彼女が期待したものではなかった。


「僕らに倒せるか、だってさハナちゃん」

「愚問ですわね、コーさま」

「「負けるつもりは毛頭ない……ッ!!」」

「ちっ……」


 僕らの好戦的な態度を目の当たりにして、苦虫をかみつぶしたかのようなユーリの表情が見られた。

 だけど、すぐにいつもの調子に戻り、僕らを嘲笑う。


「我に勝てるわけがないわぁー。……さぁ、かかってきなさい」

「いくよ、ハナちゃん!」

「承知しましたわ!」


 僕らが駆けだすと、阻むようにして二体の獣人が動き出す。

 ユーリはといえば、イッちゃんを地面に寝かせて高みの見物だ。

 嫌な性格だね……っ!


 シュババババババッ


「死人は大人しく火葬されるべきだよ! 豪連火ごうれんかの術ッ!」


 ボウ、ボウ、ボウッと連続して火の玉を発射する。

 しかしながら、獣人たちはその腕一つで火の玉をはじいた。


「思ったよりやるんだね……っ!?」

「なら今度はわたくしの番ですわっ!」


 ハナちゃんはさっき出していた木の根っこの残骸に手を触れた。すると木々は急速に修復されていき、瞬く間に大きな腕に変形する。


「『炎』がダメなら『力』で勝負ですのっ!」


 ブウウウンンッと空気の裂ける音を伴いながら、猛スピードの拳が繰り出される。


「……ッ!?」


 ドガァっと口なしの死人は、木っ端みじんにつぶされた。あっけなく片がつき、残るはゾウの獣人だけになる。

 一発で仕留めたのが嬉しかったのか、ハナちゃんがピースを向けてきた。


「どうですか、コーさまっ! わたくし、やる女でしょう?」

「ガタガタガタガタ……ッ」


 もうね。あまりの恐ろしさにクワガタになるところだったよ。今後ハナちゃんのスカートをめくるのはやめよう。

 僕がまったく違う方向性で震えていると、外野から眺めていたユーリがため息をついた。


「あーあ。ザイちゃんはお気に入りだったのになぁー。残念だなぁー」


 僕はその口調に苛立ちを覚えた。

 しかし、その気持ちをおさえ込んで高らかに宣言してやる。


「……残りはゾウの獣人だけだ。降参するなら今のうちだね」

「えぇー? やばぁー」


 言葉と態度がまったく合っていないとはまさにこのことだろう。

 気の抜けた、うたたねでもしているかのような口調で、ユーリは話し続ける。


「でもぉー、我はこいつが最後だって言った覚えはないけどぉー?」

「なっ……!?」

「えいやーっ」


 コンコン


 友達の部屋をノックするような、ゆるい勢いで地を叩くと、


 ズズズズズズズズズ

 ズズズズズズズ

 ッズウッズズズズズズ


「う、うそでしょ……」

「気味が悪いですわ……」


 大地から、ゾンビのように大量の獣人が出現した。

 その数、十数体。

 僕とハナちゃんは思わず肩を寄せ合った。


「ほぉーら。これでもあなたたちに倒せるというのかしらぁー?」

「でも……やるしかない…………ッ!!」


 僕は拳に力を込め、闘心を奮い立たせる。

 ――――が、その時だった。


「そろそろかしらね」


 ドドンン……ッッ!!!


 ユーリが何かをつぶやいたと同時に、ここから離れた街中で爆発が起こった。


「なにごとですのっ!?」

「なぁーに。簡単にわかることじゃないのぉー」


 ユーリは、1+1=2であるような、さも当然といった声色で告げる。


「この街には他の獣人もいるのよぉー? いつ騒ぎが起こったっておかしくないわぁー」


 信じられない言葉だった。

 いや、信じたくなかった。

 考えたくない事態を想像して、身体が勝手に走り出そうとしている。

 けれど、僕がこの場から離れるわけにはいかない。

 だから、出すべき答えは一つしかなかった。


「ハナちゃんッ! 一刻も早く、こいつらを片付けようッ! 街の人たちが大変なんだ……ッ!」

「コーさま…………」

「僕が大技を繰り出してゾンビどもを一掃する。そのあとにハナちゃんがユーリを抑えてイッちゃんを取り返してほしい!」

「…………」


 僕は精神を集中させ、印を組み始めた。

 ちょっとばかり身体にくるけど、やむをえない……ッ!


氷竜ひょうりゅうの――――」

「待ってくださいコーさま……ッ!」

「……ハナちゃん?」


 突然腕をつかまれ、僕は術を中断した。

 ボクの作戦に問題があるのだろうか。

 そう思って彼女の顔を覗くと――――



 ――――なぜか彼女は、笑顔を浮かべていた。



「やっぱり、コーさまはコーさまですわね」

「ハ、ハナちゃ」



「昔から何一つ変わりませんわ」



「え…………?」


 彼女の言っている意味がわからなかった。一瞬ばかり、昔とは出会った時の事かと思っていたけど、どうにも違うらしい。

 僕が尋ねかけようとする前に、ハナちゃんは僕よりも前に出た。


「コーさまは街の人たちを救ってきてください。わたくしがここを制圧しますわ」

「で、でもハナちゃん」

「任せてください」


 僕の前で向こうを見据える彼女の表情は見えないけれど、僕は、信じようと思った。

 背をむけ、重い重い一歩を踏み出し、駆け始める。


「絶対無事でいるんだよ、ハナちゃん……ッッ!!」


 後ろを振り向かず、前だけを見つめ走り続けた。



 *



「あらぁーお仲間さんが行っちゃったわよぉー」

「いいのです。わたくしはそんなコーさまに惚れているのですから」

「……ふーん」

「それよりも……」

「……?」



「本気の私を止められると思わないことね」

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