強襲(5)
「さぁーて、あなたたちに倒せるかしらぁー?」
まるでゲームをする子供のように笑うユーリ。
しかし、僕らの反応は彼女が期待したものではなかった。
「僕らに倒せるか、だってさハナちゃん」
「愚問ですわね、コーさま」
「「負けるつもりは毛頭ない……ッ!!」」
「ちっ……」
僕らの好戦的な態度を目の当たりにして、苦虫をかみつぶしたかのようなユーリの表情が見られた。
だけど、すぐにいつもの調子に戻り、僕らを嘲笑う。
「我に勝てるわけがないわぁー。……さぁ、かかってきなさい」
「いくよ、ハナちゃん!」
「承知しましたわ!」
僕らが駆けだすと、阻むようにして二体の獣人が動き出す。
ユーリはといえば、イッちゃんを地面に寝かせて高みの見物だ。
嫌な性格だね……っ!
シュババババババッ
「死人は大人しく火葬されるべきだよ! 豪連火の術ッ!」
ボウ、ボウ、ボウッと連続して火の玉を発射する。
しかしながら、獣人たちはその腕一つで火の玉をはじいた。
「思ったよりやるんだね……っ!?」
「なら今度はわたくしの番ですわっ!」
ハナちゃんはさっき出していた木の根っこの残骸に手を触れた。すると木々は急速に修復されていき、瞬く間に大きな腕に変形する。
「『炎』がダメなら『力』で勝負ですのっ!」
ブウウウンンッと空気の裂ける音を伴いながら、猛スピードの拳が繰り出される。
「……ッ!?」
ドガァっと口なしの死人は、木っ端みじんにつぶされた。あっけなく片がつき、残るはゾウの獣人だけになる。
一発で仕留めたのが嬉しかったのか、ハナちゃんがピースを向けてきた。
「どうですか、コーさまっ! わたくし、やる女でしょう?」
「ガタガタガタガタ……ッ」
もうね。あまりの恐ろしさにクワガタになるところだったよ。今後ハナちゃんのスカートをめくるのはやめよう。
僕がまったく違う方向性で震えていると、外野から眺めていたユーリがため息をついた。
「あーあ。ザイちゃんはお気に入りだったのになぁー。残念だなぁー」
僕はその口調に苛立ちを覚えた。
しかし、その気持ちをおさえ込んで高らかに宣言してやる。
「……残りはゾウの獣人だけだ。降参するなら今のうちだね」
「えぇー? やばぁー」
言葉と態度がまったく合っていないとはまさにこのことだろう。
気の抜けた、うたたねでもしているかのような口調で、ユーリは話し続ける。
「でもぉー、我はこいつが最後だって言った覚えはないけどぉー?」
「なっ……!?」
「えいやーっ」
コンコン
友達の部屋をノックするような、ゆるい勢いで地を叩くと、
ズズズズズズズズズ
ズズズズズズズ
ッズウッズズズズズズ
「う、うそでしょ……」
「気味が悪いですわ……」
大地から、ゾンビのように大量の獣人が出現した。
その数、十数体。
僕とハナちゃんは思わず肩を寄せ合った。
「ほぉーら。これでもあなたたちに倒せるというのかしらぁー?」
「でも……やるしかない…………ッ!!」
僕は拳に力を込め、闘心を奮い立たせる。
――――が、その時だった。
「そろそろかしらね」
ドドンン……ッッ!!!
ユーリが何かをつぶやいたと同時に、ここから離れた街中で爆発が起こった。
「なにごとですのっ!?」
「なぁーに。簡単にわかることじゃないのぉー」
ユーリは、1+1=2であるような、さも当然といった声色で告げる。
「この街には他の獣人もいるのよぉー? いつ騒ぎが起こったっておかしくないわぁー」
信じられない言葉だった。
いや、信じたくなかった。
考えたくない事態を想像して、身体が勝手に走り出そうとしている。
けれど、僕がこの場から離れるわけにはいかない。
だから、出すべき答えは一つしかなかった。
「ハナちゃんッ! 一刻も早く、こいつらを片付けようッ! 街の人たちが大変なんだ……ッ!」
「コーさま…………」
「僕が大技を繰り出してゾンビどもを一掃する。そのあとにハナちゃんがユーリを抑えてイッちゃんを取り返してほしい!」
「…………」
僕は精神を集中させ、印を組み始めた。
ちょっとばかり身体にくるけど、やむをえない……ッ!
「氷竜の――――」
「待ってくださいコーさま……ッ!」
「……ハナちゃん?」
突然腕をつかまれ、僕は術を中断した。
ボクの作戦に問題があるのだろうか。
そう思って彼女の顔を覗くと――――
――――なぜか彼女は、笑顔を浮かべていた。
「やっぱり、コーさまはコーさまですわね」
「ハ、ハナちゃ」
「昔から何一つ変わりませんわ」
「え…………?」
彼女の言っている意味がわからなかった。一瞬ばかり、昔とは出会った時の事かと思っていたけど、どうにも違うらしい。
僕が尋ねかけようとする前に、ハナちゃんは僕よりも前に出た。
「コーさまは街の人たちを救ってきてください。わたくしがここを制圧しますわ」
「で、でもハナちゃん」
「任せてください」
僕の前で向こうを見据える彼女の表情は見えないけれど、僕は、信じようと思った。
背をむけ、重い重い一歩を踏み出し、駆け始める。
「絶対無事でいるんだよ、ハナちゃん……ッッ!!」
後ろを振り向かず、前だけを見つめ走り続けた。
*
「あらぁーお仲間さんが行っちゃったわよぉー」
「いいのです。わたくしはそんなコーさまに惚れているのですから」
「……ふーん」
「それよりも……」
「……?」
「本気の私を止められると思わないことね」




