強襲(4)
熱のような何かを感じ取った僕は、ハナちゃんを背負って走り出していた。
シュタシュタと街の屋根を飛び続ける。
と、しばらくしたところで。
「コーさまっ!」
「あぁ、いたね……ッ!」
気を失ったイッちゃんをかかえて走っているサイの獣人と、その肩に乗っているユーリの姿を確認することが出来た。
ヤツらの前に立ちふさがる形で、僕は急降下する。
「ようやく見つけたぞ!」
「あらぁー、意外と早かったわねぇー」
見た目の年齢には似合わない微笑を、包帯まみれの少女がこぼす。
僕はハナちゃんを背中から下ろし、戦闘態勢に入った。
「さぁ、イッちゃんを返してもらう!」
「ダメよぉー、まだその時じゃないわぁー」
「だったら……」
「力づくでも返してもらいますわ……ッ!」
相手をにらみつけるハナちゃんは、手を地面につけ、能力を発動する。
ゴゴゴゴっと大地が揺れ、亀裂が入った。
「行きますッッ!」
「ダメって言ってるのにぃー」
襲い来る強大な木の根を見据え、ユーリは十字架の杖をトントンと叩いた。すると、ユーリを守るようにして地面からゾウと思われる獣人が出現する。
こいつも熱を感じない。
ミリミリミリィッ!
ハナちゃんの攻撃を、ゾウの獣人はその鼻を伸ばして受け止めた。
力は均衡し、お互いが静止する。
「くっ、面倒な……ッ!」
「あらあらぁー、この程度じゃつまらないわよぉー」
ユーリにはまだ余裕があるようで、うっすらと不気味な笑みを浮かべている。
だが、それはこちらも同じことだ!
「僕が残っているぞ!」
シュババババババッ
「豪火の術!」
「そんなもの、我には通じないわぁー」
褐色肌の少女は、再び杖を取り出し、向かい来る炎に突き出した。
炎はそのまま吸収されていく。
「あははっ、失敗だねぇー」
「それはどうかな」
「なッ!?」
僕は、突如として彼女の背後に現れた。
これが『忍者』と『暗殺者』の力だ。
初めて余裕の笑みを崩したユーリは、サイの獣人に命令を送る。
「ザイ!」
「遅いよ」
裏拳の形で攻撃を仕掛けられるが僕はなんなくかわした。その体格から繰り出される速度なんてたかがしれてる。
「次はこちらの番だ」
「く……っ!?」
彼女の認識されないほどのレベルで、僕は間合いをつめていく。
シュバッ
「剣氷の術」
「……ッ!? 間に合わな――――」
グサッ、パキパキ……。
獣人の背からど真ん中のところに氷の剣を突き刺した。ちょうど心臓を貫くような形でだ。貫いた部分を中心として、凍り付いている。
――――しかし。
「甘いわよぉー」
「ち……っ!」
パキィ……
生命を絶たれたはずのサイの獣人が勢いよく振り返り、氷の剣が砕けてしまった。
僕は一度距離をおくため、ハナちゃんのもとに戻る。
ハナちゃんもさきほどの能力を解いていた。
「あなたのその獣人、どうなってますの?」
「あれぇー? もう分かりきってると思ってたのになぁー」
くすくすと、今度は見た目に相応の子供っぽい悪戯な笑みを浮かべる。
眉をよせるハナちゃんに僕はさっきの状況から得たヒントを伝えた。
「ハナちゃん、アイツらからは熱を感じない。それに、さっき心臓を一刺ししたはずなのに死ななかったんだ」
「…………まさかっ!」
「よぉーやく気づいたのねぇー」
僕らの会話を断ち切り、ユーリはその二体の獣人を杖で刺してこう言った。
「こいつらは死んでるわぁー。つまり、死人なの」
「「……っ」」
信じられない現実をつきつけられ、僕とハナちゃんは身を固めた。
褐色肌の包帯少女は、楽しそうに謳う。
「さぁーて、あなたたちに我が倒せるかしらぁー」




