強襲(1)
「…………作戦を決行する」
ズア……ッ、
僕らの前に突如として現れた大男が、無駄のない動きで距離を詰めてくる。
「二人とも……ッ!!」
「……分かってる!」
「もう動いてるぜ!」
僕の合図に、リュウとシオンの返事が即座にきた。
二人はバラバラになっていた女の子たちを抱えて僕の場所に集まってくる。
「よし! 氷陣の術ッ!」
ピキピキ……ッ
一か所に集まった僕らを覆うように、分厚い氷の膜ができあがる。
よし、これで少しの時間をかせいで……。
「…………フン」
パキィィッ!
力づよい拳を一振りされただけで、僕の算段はあっけなく崩された。策を失った僕をフォローするように、後ろからリュウとシオンが出てくる。
「……情けないやつだな! よっと!」
「それにオレの術を加えてやる! 炎加の術」
リュウが地面に手をつけると、大きな鉄格子が敵を遮るようにして出現する。それにシオンが忍術を使って、炎を纏わりつかせた。
ゴオオオッと、何百度にも熱された鉄格子が僕たちの身を守る。
「……お前ら、今のうちに外へ出るんだ!」
切羽詰まった口調で、リュウが命令を送る。
が、しかし。
「…………くだらんな」
バゴンンッ!!
女の子たちを家内から脱させたところで、大男は真っ赤な鉄格子さえもその剛腕で吹き飛ばした。
さすがのリュウも、顔が青ざめている。
「……嘘だろ……?」
「…………作戦を続行する」
「……ちっ! バケモンめ……ッ!」
壊された鉄格子の炎が木材に移り、家が燃え始める。メラメラと揺らぐ炎の明かりに照らされた大男の姿は、さながら百戦錬磨の軍人を彷彿とさせた。
現在ここに残っているのは僕、リュウ、シオンの三人。
協力して戦わなければ、勝てそうにもない相手のようだ。
……もしかすると、それでも勝てないかもしれない。
「いくよ、みんな!」
「……俺に命令するな」
「一番乗り……ッ!」
「えぇ!?」
僕の掛け声に、まったく応じない二人。
もう、こいつらはほんとにさぁ……ッ!
……ま、わかってたけどねッ!!
何度も刃を交えてきた二人に続いて、僕も動きだす。
最初に攻撃を仕掛けたのはシオンだった。
「影分身の術!」
スウウっと、シオンの影が複数に分裂し、瓜二つの姿をしたシオンが何人も現れた。連続するようにして、彼らは印を組み続ける。
「変化の術!」
ボンボンっと煙に包まれ、あらゆる姿をした女の子に変わった。
しかしその中に一人、シオンの姿がある。
「…………」
軍人のようなその漢は目を細め状況を見据えた。
陽動は戦いにおいて基本のものだ。相手を混乱さえ、一秒でも頭の中を空白にさせる。その一瞬で、勝敗は分かれてしまうんだ。
「「「さぁ、オレはどぉーれだ!」」」
シオンのこの技は、その点においてとても有効だった。複数の見知らぬ姿を見せつけ、さらにはその中に元の姿を加えることによって、心理的な思考戦が始まる。
どれを攻撃すればいいか分からなくなり、思考が停止してしまうのだ。
そして、答えはそこにはない。
「もらったァッ!!」
シオンは、影分身の集団の中からではなく、大男の背後から飛び出て攻撃を仕掛けた。
これが彼の戦術。
僕とリュウも成功したと思った。
だが。
「……………青いな」
「ガア……ッ!?」
俊敏な動きで振り返った漢は、襲いかかろうとするシオンに鉄拳を与える。為すすべもなくモロに受けてしまったシオンは、猛スピードで吹き飛ばされた。
「…………そんな基本的な陽動が通用するものか」
大男がこちらに視線を戻し、ポツリとこぼす。
まずい……こいつは想像よりはるかに強いぞ。
「痛つつ……」
パラパラと木っ端をこぼしながらシオンが立ち上がった。
僕はリュウとシオンにアイコンタクトを送る。
コイツには小細工は通用しない。
全力で叩き潰せと。
シュバババババババババッ
僕ら全員が、一斉に印を組み始める。
――――その時だった。
「きゃああああっ!!」
避難しているはずのイッちゃんたちの悲鳴が聞こえてきた。




