ランクアップ(2)
「……『暗殺者』」
自分の見た目、手を握る感触を確かめて納得する。
なるほど、これはたしかに『能力進化』なわけだ。
フッ――――、
「チェックメイト」
「おっ……?」
試しにシオンの背後にまわり、首筋に指をさし当てた。当の本人がどういう状況かまったく理解できていないどころか、周りのみんなも僕の存在に気づいていない。
「ここだよ、シオン」
「えぇ……ッ!!? ウシオが消えたと思ったらオレの後ろにッ!?」
「……嘘だろ……?」
「あれーっ? コーくんが消えちゃったぁっ!?」
イッちゃんに至っては、まだお探し中のようだ。
…………よぉーし。
スッ――――、
「イッちゃんここだよー」
「ふぇっ?(ぷにっ)」
イッちゃんの後ろから声をかけ、こちらに振り向かせたところで、指でほっぺたをつついてみた。
やっべ! お餅みたいにモチモチのふわふわなんですけど!?
「も、もうっ! イタズラなんてひどいよっ!」
「あははっ。ごめんごめん」
ぷにっぷにの頬をふくらませながら、ポカポカ叩いてくる。
かわええ……。
僕とイッちゃんから和やかな雰囲気が流れ始めるが、僕の新たな能力を垣間見たリュウたちは絶句していた。
「……”ランクアップ”ってやつは、こんなにも恐ろしいものなのか……?」
「おっしゃる通り、”ランクアップ”によって大幅な成長が見込めますが……コーさまの場合は伸びしろがあったというわけですね」
「伸びしろのレベルじゃないだろ……」
みんな相当驚いているようだけど、そんなにスゴくなったのかな? 僕的にはそこまでの実感はないんだけど……。
それに、他のみんながまだやってないんだから、比べようがないよね。
「それじゃあ次はリュウの番!」
「……ふん。いいぜ」
自信ありげなリュウは僕と入れ替わって、みんなの前に出た。
ぷすす……忘れているようだけど、”ランクアップ”するにはあの中二病全開の恥ずかしいセリフを口にしないといけないんだよ?
まぁ、あれを乗り越えたからこその力――――
「……生命」
ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!?
台詞ふっ飛ばして最後のとこだけ言ったんですけど!? アリなの!? それ、アリなの!? 先に言ってよもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
打ちひしがれる僕をよそに、リュウはさっそく変身を終えたようだ。
が、しかし。
「きゃああああああああああああああああああっ!?」
「こわいです! こわいですーーっ!!」
リュウの姿を見たであろうイッちゃんとリコちゃんが絶叫した。ビックリした僕は、あわててリュウのほうに視線をやる。
「出たァァァァァッ!! 妖怪顔なしおばけだァァァァァァァァァァ!!?」
視界に入ってきたのは黒スーツに真っ赤なマントを羽織った、目や鼻などの顔のパーツがないバケモノだった。
「……誰がだ、バカ」
「いてっ!?」
妖怪と化したリュウが僕に一発げんこつを下した。
「なにすんだよリュウ! ……って、マスク?」
痛みで涙を瞳に浮かべながら、リュウが顔のマスクを取ったのを見た。
どうやら、顔なしマスクをかぶっていたらしい。
「見た目から判断するに、どうやら”怪盗”のようですわね」
「……らしいな」
黒スーツをさわりながら、自分の姿を確認してリュウはうなづく。
「へぇ~。”囚人”から”怪盗”になったわけかぁ……ふむふむ」
「……な、なんだよ」
ナツミちゃんにジロジロと見つめられ、リュウはたじろぐ。
彼女は、それから少し考え込んだ後、
「生命!」
唐突にランクアップを宣言した。




