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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第1章 成長の先に見えるもの
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何度でも刃を重ねる(3)

「続きダ、シオン」


 左半身ヘビのようになったウシオが、オレめがけて向かってくる。

 その移動速度は、忍者以上のものだった。


「死ネ!」


 ウシオはウロコまみれの左腕を突き出し、術を発動した。

 手のひらから、つららのような、鋭い二本の氷が襲いくる。


「させるかよ……ッ!」


 すかさずオレは影を操って、つららに沿わせるようにし、バキイっと折ってやる。

 そのまま攻撃のモーションへと移った。


舞舞葉まいまいばの術!」


 空中に現れた何枚もの葉っぱが、まるでナイフのような鋭さを伴って、猛スピードで飛んでいく。

 しかしそれを、ウシオは虫を払うような簡単なそぶりではじいた。


「ち……っ」


 左腕のウロコ、相当な硬度だな……。

 アレをどうにかしない限り、攻撃は通らないか。


猛火もうかの術!」


 ゴオオオオオ


 炎をよけるようにして、半分ヘビ人間となったウシオが後方へと下がる。


「…………」

「…………」


 じりじりと、お互いが様子をうかがう。アイツの目、まるでヘビのように威圧的だな。さしずめオレは、ヘビににらまれたカエルってとこかな……。

 そんなことを考えながら、オレはふと疑問に思った。

 あのウロコ、アレって何かの術なのか?

 それに、アイツの様子も変だし。

 ……ちょっとばかり確かめてみるか。

 オレはウシオの状態が気になり始め、それを調べるために再び動き始めた。


 シュババババババッ


剣氷けんひょうの術」


 パキパキパキ


 ウシオお得意の術で氷の剣を生み出し、一つ振りかざしてみる。

 するとウシオは、案の定、そのウロコに覆われた左腕で防いだ。


 ガキイイイン


 切れ味が特に優れているこの術でも、このウロコに傷一つつけることはできないか。

 どうしたものか、と少し油断したところを、ウシオは見逃さず突いてくる。


「ほらほらァ、隙だらけだよォ……ッ!!」

「グッ!?」


 空いた右手に、トラのような氷の爪を、オレに突き刺してきた。

 間一髪ながらも、オレは影で自分の身を守る。

 しかし、ウシオの猛攻は止まらなかった。

 ウシオはヘビのようにしなやかな動きでオレの背後にまわり、再び氷のクローで引き裂く。


「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」


 痛烈な悲鳴が、思わず口からこぼれてしまった。オレは反射的に、ウシオを遠ざけようとして、影をふるう。

 ウシオはそれを軽々とよけ、オレから距離をとった。


「はぁ……はあ……ッ」


 くそ……ウシオのやつ、本当に我を失ってるみたいだぜ。

 …………まさか、な?

 とある憶測が脳裏をよぎってしまうが、オレは即座にそれを否定した。

 そんなこと、オレたちにあるはずがない、と。


「……ハハ」


 ウシオが、不敵な微笑をこぼす。

 どうであれ、アイツを殺す勢いで戦わないといけないな。

 …………。

 オレは少しうつむき、そして、顔を上げた。


「……やるとしますか」


 シュババババババシュババババババッ


 高速で印を組み、術を唱えていく。


剣氷けんひょうの術」

剣炎けんえんの術」

剣雷けんらいの術」


 生み出されていくそれぞれの剣を、影の手で握り、


三剣心さんげんしんの陣……ッ!!」


 紅、あおい黄金こがね

 三色それぞれの剣を掲げ、静かに構えた。


「楽しそうだね、ソレ」

「覚悟しろ、ウシオ」


 ガガガガガガガガガガッガガガガガガガッガッガガ!!!


 瞬く間にウシオのそばに近づいたオレは、巧みに影をあやつり、切り刻んでいく。ウシオはそれを左腕一本で防ごうとするが、三本もの剣に対応することはできなかった。


 ガガッズババッガガガッズバ……ッ!!


「あが…………ァッ!?」


 数秒の出来事。

 ウシオはあっという間に切り刻まれ、その場に倒れこんだ。

 砂煙が、舞う。


「ふう……これでひとまずは解決かな」


 オレは術を解除し、素の状態へと戻った。

 倒れているウシオの様子を確認してみる。


「とりあえず生きてる」


 微かではあるが、ちゃんと呼吸している。

 ここまでやる必要は……なかったかもな。ま、いつも美味しいとこばっかり持っていきやがるから、今日くらいはいいだろう。

 日頃のうっぷんが晴れ、すがすがしい気分を味わった。


「よし、コイツ担いで隠れ家に戻るとするか!」


 早く風呂に入れて回復してやらないと、ちょっと本気で死んでしまうかもしれない。

 それくらい容赦なくやったからね。ま、ハナとイチャイチャしてるからこうなるんだよ。仕方ないことだ、うん。

 そう深く深く頷いていると、倒れているウシオがピクリと動いた。

 意識を取り戻したらしい。


「………………」

「おい、ウシオ。一人で立てる――………………え?」


 オレは目を疑った。

 ウシオの立ち上がり方が、異様過ぎたからだ。仰向けになって倒れていたウシオが、体勢を変えることなく、そのまま起き上がったのだ。

 それはまるで、死んだゾンビが蘇るような感じ。


「……ッ!」


 オレは直感で、離れなければマズイと感じ取った。

 不幸なことに、予感は的中してしまう。


「キエエエエエエエエエェェェェェェェェエエェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェエエエッッッ!!」


 もはや人間の声とは思えないほどの奇声を、ウシオがあげた。

 いや、もうウシオかどうかすらも分からない。


「お、お前…………その姿は……ッ」

「…………」


 ウシオの原型はほとんど残っていなかった。黒い忍者服も光となって消え失せ、素肌が露出している。

 だけど、それは人間のように柔らかいものなんかじゃない。全身が白いウロコに覆われていて、顔すらもヘビの特徴をとらえたものに変化している。

 見たまま表現するなら、シロヘビ人間。

 そしてオレは、その正体を知っていた。


「…………獣人」


 震えた声が、ポツリとこぼれる。


「シュルルル」


 コイツの声を聞いて、覚悟を決めた。

 オレは、この世界の王として。

 友として。

 ……拳を強く、握りしめる。


「わかった」


 一言、そうつぶやく。


「――――――」


 ブワアっと、散りばめられた影が、オーラのように纏わりつく。



影零式ぜろしきの術」



 ――――全てを終わらせてやる。



 *



 僕の手を誰かが握っているのが分かる。

 やわらかくて、そして、温かい。


「……ん」


 ぼんやりとした視界が徐々に明瞭になっていく。

 あれ……ここって僕の部屋? 僕はさっきまで何を…………。

 重たいまぶたをこすりながら、むくりと起き上がった。手にはまだ、さきほどの感触が残っている。


「……?」


 けれど、僕の部屋には誰もいない。

 外も暗くなっていて、月明りが部屋の中を照らしていた。


「……僕は…………って、あぁぁッ!!!」


 思い出した!

 僕はシオンと戦っていて、それで……それ、で……。


「……あれ? 結局、どうなったんだっけ……?」


 途中までのことは、思い出せるんだけど……。また、いつもみたいに夢オチとかだったのかな……?


「この作品って夢オチ多いよねぇ」


 何気なく出てきたそんな感想をこぼしながら、僕は自分の部屋を出た。居間に着くと、そこにはリコちゃん以外のみんなが集まっている。


「あっ、コーくん…………」


 イッちゃんが僕の存在に気づき、続くようにして他のみんなが僕のほうに顔を向けた。心なしか、みんな浮かない顔つきをしている。


「どうしたのみんな? 何かあった?」

「……いや……別に」


 いつもは強気なリュウでさえも、気まずそうな雰囲気だ。

 いったい何だというんだろう。


「?」


 僕ははてなマークでいっぱいになりながらも、それ以上深く追及することはなかった。今は言いたくないんだろうし、またいつか聞けばいいかなって。

 僕は話題を変えるために、ふと思ったことを口にする。


「そういえばリコちゃんは?」

「リコちんなら、外にいるんじゃないかな~」

「リ、リコちん……?」


 ナツミちゃんの言葉に少し戸惑いつつも、僕はそちらに行くことにした。だってこの場の雰囲気、めちゃくちゃ重いんだもん。


「そ、それじゃ僕はこれで……っ!」


 逃げ去るように居間をあとにした僕は、そのまま外へ。リコちゃんは玄関を出てすぐのところにいたので、簡単に見つけることが出来た。

 太陽の光で輝く宝石のように夜空に舞う星々。

 負けず劣らず美しい月を眺めているリコちゃんからは、外見に似合わぬ哀愁が漂っていた。


「リコちゃん」

「……お兄ちゃん」


 僕は声をかけ、三角座りしているリコちゃんの隣に腰を下ろした。


「リコちゃん、月なんか眺めて何してるの?」

「…………」


 リコちゃんからの答えはない。

 彼女はただ、再び可憐な夜空を見上げた。

 そうして、一筋の流れ星がこぼれたとき。


「……あたし、迷っているんです」

「ん……?」


 弱々しい声を消してしまわぬように、僕は優しい声色で尋ね返した。

 リコちゃんは続けて話し始める。


「あたし、ある男の子と約束してるんです。次会うときは、立派になった姿を見せるって。お兄ちゃんたちについていったらきっと成長できます。でも……」


 ……あぁ。

 僕たちと一緒に革命軍と戦うか、悩んでいるのか。


「……でも?」

「あたしは、今までお兄ちゃんたちを騙してきました! 騙して、きたんです…………」

「…………」


 リコちゃん……。


「あたしは、成長したいです。その人には何度も救われてて……今度はあたしが助けてあげたいんです……! そうしないと…………」

「……そうしないと?」


 僕がそう聞くと、リコちゃんは顔をうつむけてしまった。

 月明りが、赤く染まった彼女の耳を照らしている。

 ……ふふっ、そっか。


「リコちゃん」

「……はいです」

「僕たちについておいで」

「で、でもあたしは――――」

「大丈夫」


 僕はリコちゃんの声をかき消してそう言った。

 そうして、もう一度言ってあげる。


「大丈夫。だって僕たちはリコちゃんのことを今でも”妹”のように想ってるよ?」

「――ッ」

「だよね、みんなっ!」

「ほぇ……?」


 僕がそう声をかけると、陰からこちらの様子をうかがっていたイッちゃんたちが出てきた。


「そうだよリコちゃんっ。わたしたちは家族なんだからっ」


 そう優しく言い聞かせて、お母さんのようにリコちゃんを包み込むイッちゃん。


「私たちが悪いやつらからリコちんを守ってあげる!」


 手で銃の形を使って、バンっと狙い撃つナツミちゃん。


「わたくし、こう見えてもお姉さん気質なんですの!」


 ドレスと共に舞いながら、華麗に月明りを浴びるハナちゃん。


「見えそうで、見えそうで……見えない……ッ!!」


 ハナちゃんのスカートに弄ばれ、悔し涙を流すバカ。


「……シオン、お前正直キモイぞ」


 それを冷ややかな目で見下すリュウ。

 みんな、あんなにドンヨリしてたのに……ははっ。


「そうだよ、リコちゃん。僕たちはリコちゃんのことを”家族”同然だと思ってる」

「……あたしは……ついていってもいいんですか?」

「「「もちろん」」」

「あたしは……お兄ちゃんたちと一緒にいてもいいんですか?」


 見上げるリコちゃんが、僕たちに尋ねてくる。

 僕は手を差し伸べて、


「おバカだなぁ、リコちゃんは。ほらっ、家に戻ろ?」


 それを聞いた他の皆が、笑顔で家へと戻っていく。

 リコちゃんも、夜を照らす太陽のような明るい笑顔で、僕の手をとった。


「はいです、ウシオお兄ちゃん!!」


 これでもう、悩むべきことは無い。

 あとはただ、前を見据えて進むだけ。



 ――――そう思ってたんだ。

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