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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第1章 成長の先に見えるもの
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何度でも刃を重ねる(2)

 影一つない広々とした場所で、僕とシオンは刃を交え合っている。

 さんさんと照る太陽のもと、幾度となく金属のぶつかり合う音が響き渡った。

 現在優勢なのは、僕の方だ。剣術は特に力を入れて修行している分、差が出てきているのだろう。


「ここだ……ッ!」

「うわっと!?」


 キィンッ!!


 投げつけられたクナイを避けようとして、シオンの体勢が崩れた。

 狙い通りだ!


「隙ありッ!」

「グ……ッ!?」


 スバッ!


 シオンを倒す勢いで切りつけたのだが、間一髪のところでよけられてしまった。

 そう、簡単にはいかないか。

 一旦後方へと下がり、改めて相手の出方をうかがう。


「シオン。強くなってるね」

「お前こそ、相当剣さばきが上手くなってるじゃん」


 ニヤァっと、獰猛な獣のように笑いあう僕たち。

 強くなっているという自覚を感じるのが嬉しいということもあるが。なにより、こんな頼りになるやつが仲間で安心できるんだ。

 本戦を迎えたとき、背中を任せて戦える。


「いくよッ、シオン!!」

「こいッ、ウシオ!!」


 バッと駆け出し、印を組みながら相手に接近する。


 シュババババババッ!


豪火ごうかの術!」


 メラメラと空気を焼きながら、炎の塊がシオンに襲いかかる。

 けれど、彼は表情を一切変えず対応した。


水壁すいへきの術」


 直後に水の壁が立ちはだかり、ジュウっと水蒸気を伴いながら炎が消失する。


「なっ、なに!? ウシオがいない!」


 消えた術の先に、僕の姿はなかった。

 そう、さっきのは陽動に過ぎない。

 ここからが本当の攻撃だ。


「こっちだ、バカ!」

「いつの間にッ!?」


 シオンは声のする上空へと顔を上げた。

 そこには、今にも次の術を繰り出そうとしている僕がいた。

 もう遅い!


水滝牙すいろうがの術ッ!」


 空気を切り裂くような鋭い水の流れが、シオンめがけて生じる。


「まずい……ッ! 森球しんきゅうの術ッ!」


 モゴゴゴと地面から太い幹が出現し、シオンの身を守るように球状へと形を変えた。ズババババアっと、皮を剥ぎながら水が流れ落ちていく。

 幹にひびが入ったものの、惜しいことに攻撃は防がれてしまった。


「あっぶねえ……」


 ため息をつきながら、球の中からシオンが姿を現す。

 隙を見せたな……っ!


「甘いぞ、シオン!!」

「な、なにを言ってるッ!?」

「下だ……ァッ!!」


 降下しながら叫ぶ僕の声に反応し、地面に目をやったシオンはぎょっとした。


「水が溜まってるだと……っ!?」

「その通り! 僕の狙いはこれさ!」

「ま、まさかっ! さっきの炎は目隠しと同時に地面にへこみを作るために!?」

「今更気づいたところで、手遅れだ!」


 スタッと着地すると同時に、シオンの浸かる水たまりに手をつける。


雷伝らいでんの術……ッ!!」


 バリバリバリバリバリバリッッ!!!


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 水中を泳いでいくかのように、電流がシオンのもとへとたどり着き、彼の身体中を駆け巡る。目を覆うほどのまぶしい光で包まれた。

 僕は確信する。

 この勝負は、もらったと。



「――――今、油断したな?」



「……ッッ!!?」


 ドドンッッ!!


 シオンの声がしたと同時に、僕の身体に衝撃が走り、吹き飛ばされてしまった。ズザザと、地面を滑って勢いが止まる。


「ゲホ、ゲホ……ッ!」


 ぼやける視界のピントを懸命に戻し、目の前を見据えた。


「なっ……!? どうして無傷なんだ!」

「ふふん、不思議か?」


 視界にとらえたのは、傷だらけのはずのシオンだった。

 だけど、シオンは何事もなかったかのようにピンピンしている。

 ど、どういうことだ……?

 僕は何が起こったのかを分析するため、目を細めた。

 シオンの周辺には何もない。

 じゃあ僕を襲った衝撃の正体は何だ?

 シオン本人が殴ってきたわけではないだろうし。

 考え事にふけっていると不意に声をかけられた。


「次はオレの番だぜ……?」


 ドンっと地面を蹴って、僕のほうへと駆け寄ってくる。

 くそ、考えてる暇もないな!

 僕は頭を切り替えて、シオンのほうへと意識を集中させた。

 シオンは印を組んで、早くも攻撃を仕掛けてくる。


炎砲えんぽうの術!」


 ボオ、ボオ、ボオッ!


 いくつかの火の玉が僕に向かって発射された。

 ぬるいっ!

 この程度の火の玉なら、僕の剣氷で真っ二つにできる!


剣氷けんひょうの術!」


 パキパキパキ……


 僕の手元から氷の剣が生まれ、火の玉すべてを切り裂いた。

 地面に落ちた火の玉がメラメラと炎柱をあげる。


「弱いよ、シオン! 瞬烈風しゅんれっぷうの術!!」


 ヒュッ、


 風を身に纏った僕は、その名の通り、風のごとき速度で動き始める。


 ヒュヒュヒュッ、


「目くらましのつもりか? 炎砲えんぽうの術!」


 ボオ、ボオ、ボオッ!


 さきほどの炎の玉で狙い撃ちしてくるが、高速で動く僕には当たらない。


「なら、もっとでかい技で……炎球撃えんきゅうげきの術ッ!!」


 ゴオオオオオッ!!


 すさまじい音をうねり上げる、まるで隕石じゃないかと思ってしまうほどの炎の玉ができた。

 辺り一面、影が生まれるほどだ。


「これで終わりだ……ァッ!!」


 挙げていた腕を振り下ろし、それに呼応するかのように、強大な火の玉が降下してくる。


「さすがに、これはまずいな……ッ!!」


 僕は動きをとめ、大技を繰り出すために精神を集中させた。

 そして、術を発動する。


氷竜ひょうりゅうの術ッ!!」


 ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!


 周りの空気が凍りつくほどの冷気を纏った、巨竜が出現する。

 迫りくる炎に激突し、強大な余波が生まれた。


 ジュウウ……


 その余波は地面から出ていた炎柱をも吹き飛ばし、辺り一面が廃れた街のように変貌してしまった。ここは何もない広場なので、崩れた瓦礫などはないにしろ、驚異的な破壊力だ。


「……やるな、ウシオ」

「……お前こそ、シオン」


 僕とシオンは互いに笑いあった。

 それと同時に思う。


 ――――こいつには、絶対負けられないと。


 全力を出すしかない。


「絶対に負けないぞ、シオン」


 そう言って、僕は印を組んだ。


氷鎧ひょうがいの術」


 パキパキパキ


 氷が全身を覆っていき、あっという間に中世の騎士のような鎧に包まれた。

 さて、ここからが見せ所だ。

 僕は精神を研ぎ澄まし、再び印を組む。



 ――――その時。



 ドス…………ッ!!!!



「……かは…………ッ」


 僕の背後から、突然、何者かに突き刺された。

 恐る恐る胸のほうを見下ろす。

 僕の胸から、形容しがたい黒い何かが突き出ていた。

 ……まさか……。


「悪いな、ウシオ。オレの勝ちだ」


 遠くから、シオンの声が聞こえる。

 これはシオンの攻撃……?

 暴走したときに現れる黒い何かなのか……?

 いや、違う。

 あれはもっと禍々しかったはずだ。

 だとすれば……。

 ズッっと黒いものが胸から抜け、僕は膝から崩れ落ちた。

 かすんでいく視界の中で、シオンが声をかけてくる。


「これがオレの新しい能力――――影を操る能力だ」


 

 ――――影を操る能力……?



 そうだったのか。

 アレの正体は影。

 待てよ。ここは影一つないような、開けた場所じゃないか……?

 はっ……。


「まさか……火の玉で炎柱を作ったのも、隕石みたいな炎球を作ったのも……」

「そう! すべては影をつくるためだ!」


 シオンが指をクイっと動かすと、不可思議なことに影がクイっと空中に伸びた。それから、みるみるうちに影がシオンを囲むように現れていく。


「オレは一度回収した影を扱える。ま、時間制限があるから、その戦いの中で回収しないといけないんだけどな」

「………………」


 ぼやける視界に映るシオンの姿を、僕は眺めることしかできない。

 僕はこのまま負けてしまうのか……?



 ――――絶対に嫌ダ。



「というワケさ。今回はオレの勝ちだな」

「…………」

「まだ、立ち上がれるのか……?」


 小刻みに震える身体をググッと起こして、僕はシオンを見据えた。


「……なるほど。お前の特殊の能力、一度死にかけたら復活するってやつか。すっかり忘れてたぜ」

「………………」

「ウ、ウシオ……?」


 僕の様子がおかしかったのか、シオンは不思議に思って僕のほうを注意深く見た。


「お、お前……ッ!? その姿はどうしたよッ!?」

「…………?」


 疑問に思って、僕は自分の手を見やった。

 右手に異常はない。

 だけど僕の左手のひび割れのようなものは、さらに悪化していた。

 左手だけじゃない。

 僕の左半身のほとんどが、ウロコのようなもので覆われている。

 ……マ、いっか。


「続きダ、シオン」

「な……ッ!?」


 半分蛇のような姿になった僕は、高ぶる闘心を抑えきれず、シオンのもとへと駆けていく。

 戦いはまだ終わらない。

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