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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第1部【王の目覚め編】 - 第5章 そして彼らは交差する
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奇跡の軌跡

 黄金の海が波を立てて、幻想的な世界を作り出す。

 輝く田んぼの真ん中で、僕はお米としてこの世に生を受けた。


「僕はお米、なんてこったい。 オーマイガ! おー米がっ! ……お米だけにね」


 意味不明なことを口走りはしたものの、ユウっていう僕の兄さんと知り合って、いろいろな話を聞いた。


「俺達は輪廻転生を繰り返すこの世界で、たまたまお米として生まれ変わっただけさ」


 爆弾発言だった。

 とか言いながら、僕はお米としてユウと楽しい毎日を過ごしていたんだ。


 ――けれど、米生じんせいそう上手くはいかない。


 収穫のピーク、僕とユウは刈り取られて出荷されてしまったのだ。

 頼りにしていた兄さんと離れ離れになり、手の施しようが無くなる。ま、お米の僕に手なんてないんすけど。

 流れはあっという間のことで、気が付けば、僕はお茶碗に盛られてしまう。

 ホカホカ飯の完成さ。


「いっただきまーすっ!」


 目の前の少女が笑顔で合掌し、お箸に手をつける。

 ふわっ。


「あ~んっ」


 むしゃむしゃと咀嚼される僕の意識は、だんだんと薄れ、ついには消えてしまった……。



 *



「ふわああっ、ねむっー」


 雲一つない青空の下、小鳥のさえずりで僕は目を覚ました。

 ぐぐーっと、固まった身体をほぐす。

 ……は?


「人間になってんじゃんひゃっはああああああUUUUUUUUUURRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」


 超あげぽよおおおおおおおおおおおおおっ!

 そんなふうにテンションウハウハになっていると、

 ――腰をヤッた。

 夏に見る路上のセミのように、ぴくぴくと痙攣していると、


「あの、だいじょうぶですかっ……?」


 一人の天使が舞い降りる。

 紅色のウエーブがかった髪型をしたナース姿の彼女は、イネ。

 そう、イッちゃんだ。

 彼女は名前のなかった僕に、ウシオという名付けてくれた。

 名付けたというより、誤解から生じたのほうが正しいんだけど。

 とにかく、イッちゃんも僕と同じような状況で、混乱していたらしい。


「そ、それに関しては問題ございましぇ……せんっ!」


 困り果てる僕たちが耳にした、どこか緊張した子供っぽい声。

 それがリコちゃんだった。

 バスガイドに似た格好は、彼女の役割をよくよく表している。

 僕たちを食べた少女の精神世界の『案内人』。右も左も、ましてや上も下も分からない僕たちに、リコちゃんはたくさんのことを教えてくれた。

 僕のように食べ物に生まれ変わった人たちがたどる道。食べられてしまうと、その食べた人の精神世界へと迷い込む。そういった人たちを出口まで案内してくれるのがリコちゃん。

 信じられないことばかりだったが、旅を進めていくごとに事実を受け入れていく。

 特にびっくりしたのが、


 パアアアアア


「こ、腰の痛みがみるみるうちに引いていくっ!」


 僕たちのような『旅人』は、固有の能力を持っているということだ。

 忍者服を着ている僕は……。


「影分身の術!」


 …………。


「変わり身の術!」


 …………。


「水遁の術!」


 ……ちょろろっ。


 泣いた。

 男泣きした。


「うぅ……風遁の術……」


 ヒュウウウっ。


「きゃっ(スカートがめくりあがる)」


 男泣きした。


 それからはというもの。

 野宿をして、イッちゃんと一緒に寝ることになったり。

 刺激が強すぎて、チキっちゃったり。

 短い期間ではあったけど、良くも悪くもいい思い出ができた。


 ある日。

 森を抜けた先にある宿屋を目指していた時のことだ。

 森の不気味な雰囲気に、イッちゃんもリコちゃんもびくびくしていた。

 がさがさっと草むらが揺れる。


「「びくぅっ」」

「大丈夫だって、二人とも」


 そう思っていたのに。


「お前ら、オレに食われろ」


 獣の顔をした、バケモノが僕たちを襲ってきた。

 これがのちに、仲間となるライオネルとイーグルとの出会いだった。

 力のない僕たちはあっという間に追い込まれてしまう。

 しかし。


 ガシャンッ


「あのね~、敵かもわからないのに手錠なんてかけたらダメでしょ?」

「……うるせー」


 同じ『旅人』である囚人服のリュウ、警官姿のナツミちゃんが助けてくれた。

 僕たちは、リュウたちと共にその場を脱出する。


「ナカヨクシヨウネ、リュウくん」

「……殺すぞ」


 僕とリュウの相性は最悪だったが。

 宿屋へと向かう途中、僕たちはお互いのことについて話し合った。

 なんでもリュウとナツミちゃんの『案内人』は行方不明らしい。

 助けてもらったお礼といってもなんだが、僕たちは協力することとなり、新しい仲間ができた。



 *



 宿屋といっても、そんなに大きなところじゃなかった。RPGに出てくるような、そんな感じ。

 とはいっても女将さんは超美人だし、鼻血は出すしで満足だ。

 そうして僕は――風呂を覗こうと決心する。

 いきなりなんでだよっと思われる方もいるかもしれないが、どうかご理解いただきたい。

 漢にはやらなきゃいけないときがあるから。

 僕の決意を打ち砕こうと、真面目でピュアなリュウに道を憚れるが、目じゃなかった。我の視界には、女湯しか見えていない。

 男湯の脱衣所でスッポンポンになり、露天風呂へと直行する。


「うわ~、イネすご~い!」

「やっ、くすぐったいよっ」

「おねえちゃん、すごいです!」


 力が。

 英知が。

 勇気が。

 みなぎってきた。

 どうにか覗き穴を手に入れ、いざ秘密の花園へと思ったとき、


「「……Who are you ?」」


 白き王と出会いを果たした。

 僕をそのまま銀髪にしたかのような外見。思考までもが似か寄ったりで僕たちは意気投合するが、思わぬハプニングにより気を失ってしまう。

 目を覚ますと、ガチムチマッチョのライオネルに介抱されていることに気づいた。ここで初めて本当の彼を知ったんだっけ。

 僕が風呂からあがると、同時に女湯から出てきた女の子たちとバッタリ。

 どうやって言い訳しよう!なんて、わたついていると、


「会いたかったですコーさま!!!」


 初めて会ったはずのハナちゃんが、僕を抱きしめてきたんだ。頭にハンマーでもくらったようにクラクラしていると、そこにシオンがやってきて、理不尽な怒りをぶつけられた。

 その後、僕とイッちゃん、リュウとナツミちゃん、シオンとハナちゃん、それにリコちゃんとそれぞれ自己紹介を交わした。

 こうして、僕たちの本当の旅が始まったんだ。



 *



 僕たちの旅の目的はこうだ。


 一つ、精神世界の出口にたどり着く。

 二つ、ナツミちゃんたちの『案内人』を見つける。


 次に目指すのは、王宮がある白い街。

 古今東西ゲームをやったり、スカートめくりしたりと、仲良く旅をつづけた。


「みなさーん、もうすぐ到着ですよー!」


 街に続く森を抜けるというところで、突然深い霧が発生し、


「キルルルルルッ」

「モアアアアアッ」


 言語すら発しない、人の形をした虫のバケモノが現れた。僕たちはすぐさま警戒態勢をとり、戦闘に備える。

 力のない僕は、仲間を回復させることができるイッちゃん後方で待機していた、のだが。


「気づくのが遅えよ、マヌケ」


 白い装束をまとった刀の持ち主に背後をつかれ――イッちゃんが背中から貫かれた。


「――ッ」


 形容しがたい感情の渦に飲み込まれ、我を失った僕は敵を殺そうと動き出す。


猛火もうかの術!!」


 強烈な炎を、相手に吹きつける。


「あ~、イライラするぜ」


 しかし、ヤツは死んでいなかった。

 装束は焼き尽くされ、隠されていた姿がさらされる。


「お、鬼……!?」

「いくぞ」


 前触れもなく間合いをつめ、僕のことを切りつけてくる。そして、致命的なダメージを受け、地に伏してしまった。


「……あっ」


 次のターゲットはリコちゃんだった。鬼がゆっくりと近づいていき、無慈悲な刀が振り下ろされる。


「うおりゃああああ!」


 絶体絶命だったが、ここでもライオネル達が助けに来てくれた。

 それからイッちゃんを助けるべく、ライオネルの指示で、その場から逃げ出したんだっけ。

 無事に温泉にたどり着き、言われた通りにしてみる。不思議なことに、イッちゃんの傷は見る間に癒されていった。

 どうにか事なきを得て、僕たちはリュウたちと合流することができたんだ。

 ライオネルの指示で、僕たちは一時、森の中で待機することになった。とはいっても、何日も待たなきゃいけなかったから、ハナちゃんがつくりだした隠れ家で過ごしたんだよね。

 自分の力のなさを実感していた僕は、この期間で修行を行った。そのおかげあってか、今ではけっこう戦えるほうだ。

 そうそう。修行期間でも、たくさんのことがあったよね。

 イーグルからは、なぜか遠巻きにされるし。


 ――リコちゃんは、裏切り者。


 なんて疑惑もかかったんだっけ。結局、誤解だったわけなんだけどね。

 誤解というか、リコちゃんは利用されてるだけっていうか。

 でもあの時は、相当思い悩んでたっけ。

 僕が成長できた理由。

 思い返せば、シオンやリュウと闘えたからだよな。

 ……お互いに認め合えた気もする。



 *



 んで、最近の話。

 っていうか、ついさっきのことにつながってくるんだよね。

 この世界を都合のいいように変えようと革命を計画している奴らがいる。ソイツらはリコちゃんを駒として使っているそうだ。

 そして、リコちゃんとソイツらのやりとりがもうすぐある。そこに割り込もうと、僕たちはスパイごっこを決行するのだった。

 真っ黒な全身タイツで身を包み、草むらの陰からリコちゃんたちの様子をうかがった。リコちゃんはあっという間に街の中へと消えてしまったので仕方なかったが、僕たちはソイツの前に立った。


「お前たちがこの世界に変革をもたらそうとしているやつらか!?」

「あぁ、そうだが」


 と、あっけなく答えた。

 しかし、黒装束をまとったソイツとのやりとりはそこでおしまい。


「キルルルルル」

「モアアアアア」

「殺してやるよ」


 黒装束の手下である、一度戦ったことのあるバケモノたちが立ちはだかる。

 ――だけど。


「加速、終了」

「……そんなわけだ。あばよ」

「わたしだって、戦えるんですから~~~~~~っ!!」


 力をつけた僕たちの敵ではなかった。

 バラバラになって戦っていた僕たちは、もう一度さっきの場所に戻ったのだが。

 ボロボロになった鬼のもとに、黒装束の男が姿を見せる。


「小僧、君はここから逃げられない」


 白き王であったことを知っているその人物は、シオンの過去の恐怖を呼び覚ます。さらに鬼に薬のようなものを与え、より強力に復活させる。

 黒装束の男はライオネルたちに、おびえるシオンは女の子たちに任せ、僕とリュウは鬼に立ち向かう。

 信じられないほど強くなった赤鬼に苦渋を強いられるが、僕とリュウは……やれやれ、力を合わせて見事倒すことができた。

 傷だらけにはなったものの、僕とリュウはなんとか隠れ家に戻る。


「ウワアアアアアアアアアアアッ!!」


 でも、まだ終わってなかった。

 震えていたシオンの身体から、唐突にドス黒い闇が噴出し、僕たちに襲いかかる。

 為すすべはないと思われたが、ただ一人ハナちゃんは、


「シオン……大丈夫ですから。あなたはもう一人じゃありません」


 優しくささやいて、シオンを恐怖の呪縛から解放した。

 我を取り戻し、同時に記憶をも取り戻したシオンは、僕たちに語りかける。


「オレはこの世界の王なんだ。オレは、みんなとさよならしなくちゃならない」




 *




 こうしてようやく、今に至る。

 全てを踏まえて上で、僕は口を開いた。



「行こう、あの白い王宮へ」

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