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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第5部【モノカラーの神編】 - 第10章 ラストジャッジメント
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別れ、始まり(1)

 メラメラと火の粉を吐いて燃える焚き火が洞窟の視界を広げる。ここにいると煉獄で何度も目を覚ましたことを思い出す。イッちゃんの首が落ちて目覚めるのを繰り返すあんな経験はもうしたくない。


「よく乗り越えたよなあ、僕」


 乾いた笑みを浮かべながら、焚き火の木を足した。

 じっと見つめる炎を中に浮かび上がるのは、機械のように無機質な表情したイッちゃんの顔。

 イッちゃんの姿をした誰か。

 未だに夢だったんじゃないかと思う。ヘルを倒した直後、突如として現れたシロとの交戦に入った。シロの登場にも驚いたけれど、それ以上にイッちゃんが立ち上がったときには現実を疑った。

 イッちゃんは殺されたのだ。正確にはヘルが使った始標のナイフに刺されて魂を眠らされた。らしい。

 だというのに、イッちゃんは目覚めた。

 ヘルの話が嘘だとか、そういうわけではない。


 肯定します。


 一瞬、機械が読み上げたのかと錯覚してしまいそうになった。無色な感情の声音。二重の音声。

 今でも鮮明に思い出せる。

 イッちゃんの形をした、イッちゃんではない存在。

 彼女が何者だとか、そんなことを考える前に、それが僕たちとは別の世界で生きる何かだということが瞬時に理解した。

 いいや、理解させられた。

 会話を試みようと思い至るまでに相当の時間を要した。話しかけていいものか、そもそもコミュニケーションが成り立つのかどうか。何も分からないのだ。

 シロも僕と同じように言葉を発しなかった。ただ僕とは違った。現れたイッちゃんではない何者かを目で捉え、見つめる。表情は全く読めなかった。

 ソイツは僕たちが目の前にいることすら恐らく認識していなかっただろう。

 こちらには目もくれず、二回、手のひらを叩き、


『『肯定します。始まりの地点へ移動する』』


 そう告げたかと思うと、次の瞬間には姿が見えなくなっていた。タカの眼を持つリュウシオの状態ですら、見逃してしまった。時を止められたわけでもない。本当にそこから消えていなくなったのだ。


「始まりの地点……」


 僕には何のことだか検討がつかない。


 ーーーーだから、僕はこうして一人で来た。


 リュウシオの変身が解け、僕はすぐさまその場から駆け出した。消えたイッちゃんを追いかけようとか、そんなつもりは毛頭ない。

 少しでも立ち止まってしまったら、みんなと離れられなくなるだろうと思ったから。

 イッちゃんではない何者かの正体を追いかけるのは、きっと危険な旅路になる。あれはそう、獣人だとか幻獣だとかそういうレベルではない。

 神や、それ以上の存在だ。

 そんな旅に、みんなを巻き込むわけにはいかない。

 勝手なのは分かってる。みんなにも何が起こっているのかを知る権利がある。

 申し訳ないとは思う。

 けれど、あちらにはリュウがいる。

 キザな野郎は相変わらずで気に食わないけど、リュウシオとして一つになり、それぞれ通り過ぎてきた道を共有した今だからこそ言える。

 あいつがいれば大丈夫だ。

 あいつはみんなを導いてくれる。

 僕がいなくても。


「さて……こうしてる暇もないな」

「そろそろワシが恋しくなってきた頃かの?」


 気配もなく、アーチの出口に現れる人影。いや、神影と表現した方が適切か。

 褐色の肌にこがね色の瞳。見た目には似合わないほど艶やかな黒髪。鮮血ともはたまた大地の底力とも思わせる紅い色の浴衣を見事に着こなしている彼女はーーーー大地の神・ガイアだ。

 少女の姿をした神は不敵な笑みを浮かべている。


「……その感じ。何か知ってる?」

「さあの。少なくとも今のお主が納得する答えは持ち合わせておらん」


 横に首を振るガイア。

 ただしと、そこでつけ加えた。


「始まりの地点……には心当たりがあるかもな?」

「行こう」


 間髪入れずにそう答えていた。

 ガイアがきょとんと目を見開いたように見えたけれど、それも一瞬のことで、すぐに『全知全能』と称するのに相応しい雰囲気を纏う。


「長い旅路になる。もっといえば、これが最後になるやもしれんな」


 最後の旅。

 何を根拠としたのか、ガイアが脈絡もなくそんなこを言ったが、僕は割と自然に受け入れていた。

 コクメとハイネ。

 ウシオとイネ。

 そして、現れた謎の白い存在。

 イネより前のハイネ。そのハイネよりもさらに前のイッちゃんの根源ともいえるルーツに触れられるかもしれない。

 それに、魂の眠ったイッちゃんを呼び覚ます方法を見つける。

 この二つを遂げた時には、今度こそ本当に、彼女と対等に話せるときがくる。

 それまでは、しばらくお預けだ。

 温まった体を起こし、立ち上がる。指の先から氷の弾を弾き出し、焚き火に着弾させる。炎の熱を奪った弾は白い波を先頭にして駆け抜け、薪を氷の膜で覆いつくした。


「待っててね、イッちゃん」


 行く先は神のみぞ知る道。



 後になって知る、この世界の全てだ。


 

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